「老子ちゃんは何もしないことをやめるそうです」
「何もしていないのではないのですよ。何もしていないを今してるでしょ」
そう幼女が小さく呟いた。
和装の幼女が山道の脇で寝そべっている。
何をするでもなく、幼女は穏やかな顔で仰向けに寝転がっているだけ。
その幼女の周囲で森の小動物達が寝息を立てて寝ている。
壊したくない。守りたい世界とはこんな世界なのかもしれない。
この幼女は老子と呼ばれている。
姓は老、名は子、字を天寵といった。
老子ちゃんの容姿を簡単に表現するならこうだろう。
まだ幼く小さい。
歩き始めて間もない幼児というわけではないが、児童保育が終了したという程度の幼さである。
手足も当然ながら比例して小さい。
着ている和装の服も少しサイズ大きく、そのせいかより幼い印象を与えている。
肌は真っ白で髪の色は薄い銀色をしており、その髪はオデコの中心で綺麗に真一文字に整えてある。
少し変わった特徴があるとすれば、額に銀白色で、桜の花弁の様な模様が、紅葉型に刻まれてるくらいのものだ。
身に着けている装飾は一見地味だが、どこか高貴さを持っており、山道の脇で寝そべっているのには違和感はあるが、本人はまったく気にしていない様子だった。
本人は自然と一体化しているつもりのようだ。
そして、ひたすらに何をするでもなく穏やかな顔で寝転がっている。
ほんと、何をしてるんでしょうね?
そんな老子ちゃんを見て使い魔の虎兎は、ため息を混じりに老子ちゃんに語りかける。
虎兎は老師ちゃんの「何もしてないのを今している」発言が気に入らないようだ。
「また、そんなこと言って! 近くに村があるからそこまで行こうよ。 ねぇ! このまま何もしないでいたら、今度こそお腹が減って、動けなくなって死んでもしらないよ」
「虎兎ちゃんは、心配症だなー。悪をなさず、自然の理に逆らわず、生きていればそうそう悪い事になんてならないのよん」
そう言って老子ちゃんは寝そべりながら、近くの虎兎を指先で優しくツンと触る。
「あたしには船底に穴が空いて、ゆっくりと沈んでいく船に乗ってる気分ですよ。もうちょっとしっかりしてくださいよ……」
「大丈夫だって、ほら耳をすませてみて。何か聞こえない?」
老子ちゃんにそう言われて虎兎は耳をすませる。
虎兎は老子ちゃんが生み出した精神物理生命体である。
その姿はパッと見た感じ、生後まもない虎であり、白と黒の縞模様している。
そして、尻尾は二股に分かれて少し長い。
虎兎は老子ちゃんの偉大なる精神から生み出されし、物理的に干渉できる精神生命体というふざけた存在だが、しっかりと自我が備わっている。
そして、その性格は生みの親の老子ちゃんと異なる。というより、のんびりな性格の老子ちゃんに比べて、かなりせっかちな気性の持ち主である。
だからこそ、あまりの老子ちゃんの無為自然なキャラについていけず、家出をしたくなる時があるとかないとか。
それでもなんだかんだ老子ちゃんが好きな虎兎は、基本的はいつもそばにいるのであった。
ふいに、虎兎は山道の向こうから何かが来る気配を感じた。
「老子ちゃん。何か来るよ」
何かの気配を察してか、老子ちゃんの周りにいた小動物達は起き上がりゆっくりと四方に去っていった。
虎兎が少し警戒して周りを見渡すと、山道を歩く少年の姿が確認できた。
虎兎は「何だ子供か?」と言ってと小さく息を吐き、安堵した。
「老子ちゃんが、思わせぶりに言うから警戒しちゃったじゃないですか、ホント、もう!」
……。
老子ちゃんは虎兎の声は聞こえていないかなような態度で、変わらず寝そべったままだった。
山道から表れた少年は何かを考えているような態度で歩いていた。
そして少年はそのまま近づいて来て、老子ちゃんと虎兎を見た。
その時、虎兎こう思った。
たまたま、通ったらそこに幼女と見慣れない動物がいたという程度の認識。
少年は老子ちゃんも自分も気にもかけずに、そのまま通り過ぎるだろうと。
だが結果は違っていた。
少年は老子ちゃんを見て立ち止まり、何かに気づき、こちらを向かっていきなり平服したのだ。
そして、その後に続いて哀れみを誘う声音で、こう言った。
「旅の高名なお方とお見受けします。
どうか……。どうか、僕の村をお助けください!」
神春秋時代
神大帝国は神の力を探るためにあらゆる呪の研究に民の血税を投入した。
その結果、神大帝国は天の怒りに触れてしまった。
大陸中が邪悪な気が満ち一部の獣が悪の気を帯て妖獣、妖魔となり人を好んで襲うことも珍しくない存在になった。
そして賊が蔓延り、神大帝国の衰えからそれらは野放しにになり、神大帝国は荒廃の一途を辿り大少様々な国に分かれてしまい争いの絶えない大陸となった。
この世界は弱肉強食のルールがストレートに表現され、弱者は強者のいいなり。強さこそ正義の厳しい世界が基本まかり通るようになっている。
そんな中で唯一の救いは、邪悪な気に負けない強い心を持った傑物という存在である。
傑物とされる人物には、必ずこの世の理とは別の力が宿り、その証として身体のどこかに印が刻まれる。勿論、我らが老子ちゃんの額にも印は刻まれている。
この印を見たから少年は気づけた。老子ちゃんが傑物であることを。
だが……。老子ちゃんは傑物でも心は天国、無為自然。やる気も何も何もありません。
寝転がったまま少年の存在をガン無視老子ちゃん。
少年は平服したまま。
その姿をチラッと確認……。
面倒だなーと思った老師ちゃん。
そんな老子ちゃんの思いを察した虎兎が少年の前に出た。
「駄目だよ。老子ちゃんは今は何もしないことをしている最中だから助けてくれないよ。何もする気もやる気もない状態の、老子ちゃんはテコでも動かないのよ」
平服していた少年はびっくりして顔を上げた!
「老子様!? そのお方は老子様とおっしゃるのですか?」
「老子ちゃんも有名になったものね。こんな田舎の少年でも知ってる傑物になってたのね! やっぱり都の悪鬼退治の件が効いてるのかしら? それとも、不老長寿の秘密を解き明かしたことかしら? それとも、うーん……」
「老子様の噂はよく伝えきいております。老子様といえば、大きな尻尾の兇悪虎のような獣を従え、世に蔓延る悪漢どもを打ち倒し、救われた村や町は数知れず。見返りも求めず、人々に人道を説き、天下の正道を極めた素晴らしいお方だと聞いています」
少年は礼儀正しく老子ちゃんを見つめる。その瞳は、伝説的な存在に憧れる少年の無垢な瞳そのものだったが……。
虎兎に関しては少しばかり知識が足りてないようだった。
「兇悪な虎……」
虎兎は少しガッカリしたのか、その小さな身体をさらに小さくしてため息をついた。
「虎兎ちゃんはこんなに可愛いのにね」
褒められて少し機嫌を良くしたのか、老子ちゃんは虎兎の頭を撫でながら起きあがり虎兎を膝の上におくようにして、姿勢を正した。
老子ちゃんの膝の上で少しげんなりしている虎兎の姿を見て、少年は何か悪いことを言ったのか少し考えたが、そのまま話を続けた。
「老子様どうか……。どうか村にいる山賊を退治してくだい。お願いします!」
「いきなり言われても老子ちゃんは動かないよ」
虎兎は切って捨てるように言った。
「やりましょう! 山賊退治」
老子ちゃんの180度な気の変わりに様に、びっくりする虎兎。
「え! 老子ちゃん。今は何もしないことをするんじゃないの?」
「それはやめて。村を救う事にします。虎兎ちゃんが暴れれば一発解決。ご飯もご馳走してくれるかもしれないよ」
「そんな、さっきまで……。ぐうぐうたらだらだったのに、調子いいんだから……。もう!」
「それにこんなに可愛くて幼気な少年を、ほっておくのは可哀想でしょ」
傑物とは実際の姿とは裏腹に、何歳だというこが分からない。
少年より見た感じ明らかに年が下のように見える、幼女の老子ちゃんに、こんな風に言われても、少年は気にせずに深々と頭を下げて礼を言った。
「老子様。ありがとうございます」
老子ちゃんの膝の上で、あきらめともとれる態度をしながら虎兎は起き上がり少年を見る。
「君のお名前は?」
「僕の名前は孫武といいます」
「じゃあ、村に案内してね。孫武ちゃん」
「老子様。ありがとうございます……。村も救われます!」
虎兎は老子ちゃんの膝から起き上がり、老子ちゃんの頭に移動して身体丸くしながら、老子ちゃんの変わり身の早さに飽きれている。
そんな虎兎を頭に乗せながら老子ちゃんは立ち上がり笑って少年の手をとり村へ歩き出す。
力を頼りされる事に少し釈然としない虎兎ではあったが、二人と一匹は山道を抜けて村に向かうのであった。
____
孫武の頼みで村を山賊達の手から救うことを、快諾した老子ちゃんは、お供の虎兎と一緒に村の様子を遠くから確認できる場所に到着した。
老子ちゃんは見たたまの印象を話す。
「えっと、あれが山賊に襲われてる村? そうは見えないんだけど……。平和そうだよ。それに家屋も立派だし、田畑も荒れてないよ」
虎兎はそれを聞いて老子ちゃんが気づいていないであろう点を言った。
「良く見てみなよ老子ちゃん。いかにも悪そうな顔の人が村の前にいるし、怖い顔の人が村にいっぱいだよ。きっと村人は家の中に押し込められて、酷い目にあってるのよ」
…………。
少し村を遠くから見つめて老子ちゃんは全てを理解した顔になった。
「やっぱり、あたしパス。ていうか、この村は何もしないほうがいいと思うよ」
虎兎は老子ちゃんの頭の上で少し取り乱す。
「ちょっと老子ちゃん! ここまできていきなりそのやる気のなさはなに? 簡単に助けるとか言って、今度はやめるの? それは酷いじゃない!?」
「だからー。この村はね。うーん……。うまくいえないけど、ワタシ的には何にもしないほうがいいと思うって思ったから、何にもしないことに決めたの。だから何もしない!」
「老子様! お願いします。どうかお力をお貸しください!」
孫武も再び老子ちゃんに懇願したが、その態度は頑として変わらなかった。
「やらないったらやらない。もうやらないをやると決めたの!」
村の状況を見て突如やらないと宣言して、また地面に寝転がる老子ちゃん。
そんな老子ちゃんを見て、虎兎は自分だけでもやると決意するにはいささかの時間も必要なかった。
「孫武君。私が力になるわ。任せて」
「虎兎さんありがとう、でも・・・・・・どうやって?」
孫武は虎兎の小さな身体をみて、力になってくれるのは有難いけども無理なのではないかと思ったが、そんな孫武の思いとは別に虎兎はやる気満々であった。
「それで、あたしは何をすればいいの?」
「えっと・・・・・・、とにかく山賊を、まず村から追い払ってもらえますか?」
「分かったわ。じゃあちょっと大きくなるけど驚かないでね」
さっきまで子供の虎程度の大きさの虎兎は一瞬にして大きくなり姿を変えた。
姿を大きく変えた虎兎は見事な黒白の大きな虎の姿になった。その大きさは成長した虎の数倍はあり、尻尾も太く長く伸び雄大であった。
虎兎の真の姿に驚いた孫武ではあったが、虎兎が味方であることのほうが嬉しいという思いが強いのか、その場で虎兎にかしづき懇願した。
「それでは、山賊を……。 村をお救いください」
「まかせなさい。あなたの村は私が救ってあげるわ」
虎兎の強さは尋常ではなく、山賊達は蜘蛛の巣を散らす勢いで村から逃げていった。山賊の中には、剣や槍をとり応戦するものもいたが、虎兎の身体に一切の刃物が通じないことに更に恐怖して諦め退散した。
そして山賊を追い払ってるうちに、村人も虎兎の姿に怯え逃げてしまい村は無人になった。
気がつけば村は半壊。田畑もかなり荒れてしまった。そして村には静寂だけが残った……。
虎兎の力が強すぎた結果である。
「しまった。やり過ぎたかな」
「虎兎さん。すごいです。まさかこんなに凄いなんて思いませんでした。ありがとうございます」
「でも、村をこんなにして良かったのかしら? あなた家は大丈夫?」
「あ、えっと……。はい大丈夫です」
山賊どころか、村人一人いないありさまに虎兎は悪いことをしてしまった、やってしまったと後ろめたい気持ちになった。
「なんか、あたしって山賊より性質が悪い気がしてきたわ……」
「いえいえ、本当に助かりました。僕の為に有難うございます」
その、瞬間だった。
孫武は指で空中に【風・滅・雷・衝】という文字を書いた。
その瞬間に虎兎の身体を風と雷の衝撃波のような力が覆い、半壊した民家の壁を突き破って吹き飛ばされてしまった。
「ということで、さようなら。 馬鹿な使い魔さん」
孫武は口元を緩ませて屋敷を漁り金目の物を探して袋につめる作業を始めた。
「この村、山賊を雇ってるだけあって。蓄えがあるある。スゲーもんだ!」
少年は悪い笑みを浮かべながら屋敷をまわり物色する。
金目の物を袋に詰めれるだけ詰める孫武。その手馴れた手つきは素早く、またどこに貴重な物があるか分かるかのようだった。
「よし、これだけあればいいかな。本当はもう少し欲しいところだけど、邪魔な奴がまだ近くにいることだしな。それに……。あれはとぼけた子供のようでも、かの”高名な老子”だというじゃないか。さっさと お宝を集めて逃げるが吉だな」
そう思った孫武は村の貴重品をかき集め屋敷から出た。
しかし、屋敷の外には虎兎が待ち構えていた。
有無をいわさず虎兎は爪を立て孫武に襲いかかる。
孫武は咄嗟に屋敷から盗んだであろう貴重品が入った袋を虎兎に投げつけて身をかわす。
袋を虎兎が切り裂き、中に入っていた金や宝飾品が飛び出してしまった。
「あれ? まだ生きてるの? 結構しぶといんだね」
「あなた、騙したわね」
「騙す? 人聞き悪いな。利用しただけじゃん」
「この村は山賊に襲われてるんじゃなかったの? それにその袋の中身!」
「うん。それは嘘。この村は珍しく山賊にお金を払って、用心棒契約して、上手い事やってる平和な村だよ。近くに良質な鉱山あってね。しかもその所有権が認められてる珍しい村なのさ。それに水源が豊富だし近くの森にも妖魔や妖獣がでないから、安全に狩猟もできる豊かな村だよ。こんな腐ったご時世なのに、素晴らしく余裕のある村なのさ。羨ましいよね。ムカつくよね! だから奪ってやろうと思ったんだ。ま、山賊共がいつまで村人の言うこと聞くかは知らないけどね。どうせ山賊から奪われるかもしれないなら、僕が奪ってもかまわないだろ?」
「だとしても、それが奪っていい理由にはならにでしょ! それにあたしを騙して襲わせたくせに? それに傑物の力を悪用するなんて許せない!」
「あんたが、勝手に騙されたんだろ? それに、持っている奴から奪うのが、何か悪い? 持ってる力を使って何が悪い?」
「あたしが、馬鹿だったのは認めるけど、人の物を勝手に奪うのを許すことは出来ないわ」
「じゃあ、貧乏人は一生貧乏のままだよ。僕はこの力とお金を使ってやりたいことがあるんだ。だからそのためならどんな事だってするし、やる!」
虎兎にとってこの孫武との力の相性は良くない。
虎兎は物理的に相手を殴れるし、物理的な攻撃には滅法強いが、傑物の放つ力には弱い傾向がある。
そして孫武の力は幼気な少年の外見とは裏腹に、かなり強力なものであった。
【地・爆・火・圧】
孫武が空中に字を刻むと地面が膨れ上がり、膨れ上がった土砂が火球に変わり虎兎に吸い込まれるように向かってきた。
虎兎は頑強な身体を持ち俊敏だったが、孫武が放つ火球のほうが一瞬速く、タイミング的にも避けることが出来そうになかった。
そして、虎兎に近づくにつれて火球は大きくなり虎兎に直撃して燃やし尽くそうとしていた。
虎兎は心の中で思った。
(老子ちゃんの言う通り何にもしない方が良かったわね)
しかし、次の瞬間に聞き覚えのある声が近くから響いた。
【無・為・自・然】
その声が聞こえた直後、虎兎の周りを大きな水の膜のようなモノが囲んだ。
虎兎の周りを取り囲んだ大きな水の膜はさらに大きく膨れ上がり、孫武の放った火球を吸収しシャボン玉が空気中で消えるかのようにして消滅した。
「だから、何もしないほうがいいっていったのに。まったく世話がやけるよね。虎兎ちゃん」
「老子ちゃん! あれ? でも、なんでここに?」
「やっぱり、なんにもしなくてもお腹は減ってしまうから、なにか村で食べさせてくれるかなーって。テヘペロペロ」
そう言って可愛く短い下を出しながら、横ピーを決める老子ちゃん。
孫武はウザそうな顔で老子ちゃんを睨みつける
「あらら、老子まできちゃいましたか。本当、あなた邪魔しないでもらえます。何にもしないんでしょ?」
「虎兎ちゃん。孫武ちゃんどうしちゃったの? あんなに可愛いかったのにすんごい生意気な口をあたしに聞いてるよ」
老子ちゃんは明らかに空気が読めていなかった。
「状況見て理解してくださいよ。えっと、彼は実は傑物で。えっと……。その何から説明したらいいのやら、とにかく敵なんです、悪い奴なんですよ」
虎兎は実はかなり頭が悪かった……。
「敵? あっそっか。襲ってきてるんだもんね。敵よね。悪い子よね。よし! 悪い子の孫武ちゃん!、おイタしちゃだめよ!」
「侮るな!」
孫武が老子ちゃん向かって空中に字を書く。
【水・嵐・風・暴】
【無・為・自・然】
二人の声が響いただけだった。
孫武は間髪入れず空中に字を書く。
【火・爆・地・暴】
【無・為・自・然】
しかし、何も起こらなかった。
「僕の力が……。何で?」
「老子ちゃんの前では、いかなる力も無意味なのよ」
「でも、戦うのってやっぱり、あたし趣味じゃないのよねー どうしよっかなー?」
早くも、なんだか飽き始めたのか、のり気じゃない老子ちゃんだった。
このままだと老子ちゃんは何にもしないモードに入ってしまうだろう。
しかし、虎兎はそれを良しとせずに老子ちゃんに気合を入れてお願いする。
「老子ちゃんがあいつの力を封じてくれたら、後は私が戦うから! もう少しだけお願い!」
「虎兎ちゃんがこう言ってるんだけど、どうするの孫武ちゃん?」
老子ちゃんは少しだけやる気を取り戻し孫武を見る。
…………
。
「参りました。降参です僕の負けです」
孫武はいきなり手をついて謝った。
「 虎兎ちゃん? これで孫武ちゃんは敵じゃないのよね? はい解決! もう何にもしなくてよいよね!」
「油断させようとしてるのかもしれないから、気おつけて老子ちゃん」
虎兎は警戒して孫武を見ている。
老子ちゃんは、よく分かんないけど、まあいいかといった表情であらぬ方向みている。
孫武は覚悟をきめてその場で平服して喋りだす。
「僕の力は老子様には効かない。そして、虎兎に攻撃されたら、勝ち目がない。それに力を使い過ぎていてこれ以上の戦闘の継続も難しい。だから降参です」
「ほら、虎兎ちゃん。降参だって。だから、いつまでもそんな大きな姿でいないでいつもの可愛い姿に戻りなよー」
「油断したところを、ぐさりとやられる可能性もあるわ」
虎兎はまだ孫武を警戒しているが、老子ちゃんは虎兎に安心させるように撫でる。
「大丈夫だって、私がいるじゃん」
老子ちゃんに撫でられて言われて仕方なく、姿を元の虎の赤ちゃん並に戻した虎兎だった。
小さくなった虎兎抱き抱える老師ちゃん。
「それで、孫武ちゃん。降参っていったけど村が壊れちゃったけどこれはどうするの?」
「それは、そこの虎兎が壊したんですから、僕の責任じゃないですよ」
「そっか。虎兎ちゃんがやったのならしょうがないよね。じゃあ仕方ない」
バツの悪そうな表情をしながら老師ちゃんの腕の中で包まるように顔を隠す虎兎だった。
老子ちゃんは虎兎の頭を軽く左手で撫でた後に虎兎を地面に置き、右手を空に掲げた力を使う。
【無・為・自・然】
老子ちゃんが掲げた右手の指で、空中に字を刻んだ瞬間に、村全体が水に包まれ、次の瞬間には虎兎が壊す前の村に戻っていた。
「これでよし! っと。じゃあ村人や山賊が戻ってくるまえに行こうか。虎兎ちゃん!」
老子ちゃんの活躍で村は元に戻った。
その力の大きさに感動した孫武は老子ちゃんに弟子入りを志願する。
「姓 孫 名は 武、字を 真戦と申します。どうか私を老子様のお弟子にしていただけないでしょうか?」
「弟子っていうはちょっとあれだけど、一緒にいきたいなら、一緒にいく?」
「ありがとうございます。老子様。 恩にきます!」
「いいんですかね。この子供カワイイ顔して、そうとう腹黒いですよー。 それにかなり強い力の持ち主ですよ。危ないような気もしますし……」
そんな虎兎の言葉を孫武はスルーして何事もなかったかのように話かける。
「虎兎もよろしくな」
「しかも、馴れ馴れしい。あたしは嫌ですよ」
「まあまあ、虎兎ちゃん。旅は道に無し、世はなんにも気しないでいいと思うよ」
「はあ、さいですかー」
「流石老子様、小さな身体に大きな心! この孫武、ますます感服です! 一生ついてきます!」
「嘘くさいなー」
「嘘なもんか! 僕は嘘が嫌いなんだぞ! 侮るなよ!」
「そういうとこが嘘くさいんですよ!」
老子ちゃんは孫武と虎兎のやりとり見ながらニマニマしていたがある事に気づいた。
「あ、そういえば私ご飯食べてない! 凄くお腹すいたー! お腹すいたなー……。まあ、そのへんの雑草でも食べればいっかなー」
「お腹壊しても知りませんよ」
こうして、無為自然とういチートな力を持つ傑物。老子ちゃんはこの弱肉強食の神春秋時代を旅するのであった。そして、あちこちで結局何もしないほうが良かったんではないか?
という伝説を残したという。