第七話「西部前線」
~トリア半島東部 要塞都市スニエ~
「ニコ、顔が渋いよ。君は下を指揮する立場なんだ。下を安心させないと。」
「シモン……君に言われなくても分かってるわよ。」
シモンは少し肩をすくめて、それ以上は何も言わず、兵舎へと帰って行った。
分かってる。自分の立場も。自分が今何をすべきかも。
でも……抑えられるかは、別の問題だ。
「ニコ、調子はどうですか。」
「ディエスタ様……調子はいいですが気分は最悪ですね。」
「あのニコが感情を抑えないとは……これは珍しいものが見れましたね。」
ディエスタ様はこっちを見ながら笑いを抑えている。
「ニッツと同じですね。彼も全く同じことを言って感情を抑えようと必死でしたよ。」
……私たちはあの会戦で大敗し、『白虎』『銀狼』両部隊は7割損耗で全滅扱い。生き残った者もほとんどが治療中、無事だったものをかき集めてもあの後上陸してきた本隊に勝てる見込みなく撤退。
奴らは半島西部を電撃的に占領し、魔国は西部前線を抱えることになった。これにより北部、東部とともに三正面作戦を強いられている。
……戦況は芳しくない。しかし最悪でもない。中央即応軍とディエスタ様の到着により西部前線は膠着、南方軍集団も北部に到着してほとんどの被占領地を奪還、一部では敵領土への侵攻もできている。
「ニコ、既に国家緊急事態宣言は発布してあります。魔国の経済状況を生き残ってた八柱のユーペに把握させてますが…彼が言うには『詳しいことはもう少し調べてみないと言えないが、このままでは凡そ1年で魔国の経済は破綻し、戦争の継続は困難になる』だそうだ。」
「それは……困りましたね…。」
ユーペは優秀な政治家で学者だ。彼が言うならきっとそうなるのだろう。
「早急に敵を撃退、講和しなければ我々の持久力が持たない。しかしこっちは奇襲を受けた側で今は戦線を安定させるので手一杯……歯痒いですね。」
「全くその通りですね。外務省に南方と連絡を取らせてますが、まぁ彼らも我々が劣勢なのを知ってますからね。今は敵に回っていないだけ感謝しましょう。」
南方といえば……
「山の民たちはなんと?」
「予想と違わず不干渉だそうです。彼らが動くとしたら本当に世界が滅びかねない時だけでしょうしね。」
「今はありがたいですね。彼らを相手するなら魔国の総力を挙げて挑まなければならないですから……」
山の民、南方のヒラ山脈には世界の守護者たる神守龍が居座っている。彼の血族である龍族とその系譜の竜族、竜人がヒラ山脈全体を勢力圏として存在する。
彼らは「世界の危機」においてだけ動く。最後に表舞台に姿を表したのは魔族が誕生する前、魔帝と神族の戦いだったと昔ディエスタ様に聞いた。
魔帝曰く「彼は世界でも三本の指に入る強者である」と。そんなのと戦うなら神族や人族に構っている場合では無いし命がいくつあっても足りない。
普段はペニソレとの連絡路にいて邪魔だが今は中立国がいるというだけで嬉しさが込み上げてくる
「まぁそんな事は分かりきっていた事ですしどうでもいいです。それよりも……ニコ、君は東部前線に行きなさい。」
「……東は劣勢なんですか?」
「いえ、その逆です。東が一番攻めやすそうなのでね。」
「私はニッツと西部を安定させますので君は東のナトゥアと協力して東部前線を無くす、最低でも押し上げてください。かの国は人口が多いですので時間を与えるだけ不利になります。」
「分かりました。荷物を纏め次第向かいます。」
「あぁそれと、東部戦線は君の判断で拡張して構わない。好きにやりたまえ。」
「……?多大なご配慮感謝します。」
まぁよく分からないがとりあえず好きにやっていいらしい。シモンにだけ挨拶してさっさと行くか。
『シモン、私は東に行くよ』
『ありゃ?君のことだからここで雪辱を晴らすって言うと思ってたよ。』
『昔とは立場も違うしね。まぁこっちには四天王が二人もいるし君もいるから心配はないよ。』
『ふーん……まぁ頑張ってね。』
『当たり前よ。』
拙い文章で読みにくかったかと思いますがここまで読んで頂きありがとうございます!
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では、次回もお楽しみに!!