第四話「銀狼」
「おはようございます。トウガニッツ様。」
「おはよう。昨日はよく寝れた?今日はしっかり戦ってもらうからね。」
「心得ていますよ。東から突入する部隊はどちらですか?」
「右の方に見える部隊だね。前線支援魔導兵が一個大隊、前線魔導兵が二個大隊、歩兵が二個大隊、騎兵が一個大隊だね。それらを合わせて『銀狼』の名を授けたよ。ちなみに僕の方は『白虎』なんだ。」
トウガニッツ様はこういうところが上手い。部隊名を四天王が直接さずけることで全体の士気をあげる…流石の一言だ。
「そうだ、君の旧友も確かそっちに配属したはずだよ。ついでに話してきなよ。」
「旧友、ですか?」
魔族の寿命は長い、私や四天王クラスともなればほぼ無限に等しい時間を生きる。それなのに『旧友』とは、はていつの人だろうか。
「分かりました。時間も少しありますし部隊の士気上げがてら話してきます。」
彼らが駐屯しているテントをひとつひとつ周りながら激励しながら歩き、いくつ目かのテントを訪れた時そいつはいた。
「ニコじゃん!いつぶりかなぁ?」
「シモン!軽く40年ぶりかな。」
シモン・カッツェ、先の大陸戦争を戦い抜いた戦友であり数百年来の友人だ。
「シモンが軍にいるのは知ってたけど、西部にいたんだ。てっきり作戦の多い東にいるもんだとばっかり。」
「僕がいると新人が育たないからね。今は海岸の見回りだけで優雅に過ごしてたんだけどね…さすがに駐屯部隊だけじゃあいつらたたき落とせなくてね……。」
シモンは強い。私にも匹敵しかねない。そのシモンでさえ撃退できないなら……敵は陽動にしてはかなりの部隊を寄越して来たらしい。
「ニコは相変わらず四天王様の雑用してるの?」
「そうよ。まぁそれも一昨日までだったけどね。今は自由に回ってるよ。」
「ふーん。君も物好きだね。まぁいいけど。」
何か言いたげだったがそれを飲み込みシモンは話題を変えた。
「そういえばその四天王が戦場に出るって言ってたけど良かったの?ニコって確か名目上は四天王の護衛でしょ?」
「あの方は強いから問題ないわ。それに今のあの方は私がなにを言っても止まりそうにないしね。」
それから一通り近況について語り合い、作戦の2時間前になった。
「そろそろ時間だ。不満かもしれないがこっちの指揮は私がとらせてもらう。」
「まぁ僕より君の方が強いからね。文句はないよ。」
「じゃあ行こうか。」
作戦開始を前に部隊を集めトウガニッツ様から最後の激励を賜わる。
……見た事のない顔ばかりだな。テント回ってた時も思ったけど大陸戦争時にいなかった新世代ばかりだ。それぞれから強い力を感じるけど実践経験はほとんど無いのだろう。その顔からは戦場への期待と不安が読み取れる
「諸君!誇り高き帝国軍のさらにその精鋭として集まってくれた諸君らに最重要の任務が与えられた!失敗すれば帝国の恥としてその名を歴史に刻み、成功すれば帝国の英雄としてその名を歴史に刻むだろう!」
「諸君らに問おう。その力はなんの為に磨いてきた?今!この場にて帝国の剣として敵を打ち砕き、帝国の盾として我らの後ろにいる無辜の民を守る為だ!違うか!」
「我らの祖国に土足で踏み込んできた奴らを離島に叩き返し『銀狼』と『白虎』が帝国の英雄として千年の間語り継がれることを期待する!」
普段のトウガニッツ様とはかけ離れた気迫で部隊を激励する姿は正しく数千年の間魔帝と魔族を背に神族や人族を跳ね除け続けた四天王のものであった。
「白虎は私についてこい!銀狼はニコ大将と共に行け!」
私は両部隊に中位支援魔法の速度上昇をかけ、銀狼を率いて港へと歩みを進めた。