第三話「出陣」
~帝国西部 トリア半島東部~
「トウガニッツ様、現在の状況は?」
「アレスのやつらはトリア半島北東部に上陸、橋頭堡を作られたね。敵の主力は天使族で神族がざっと15体はいるけどそれほど強力な個体は見当たらないね。」
「天使族ならまだマシでしたね…神族中心の主力が出てきたら今頃トリア半島全域が制覇されてたでしょうに…」
「でも油断できるほど敵は弱くないよ。北からの精霊国の圧力も強くなってきてるから早めに上陸部隊を潰さないと。神族中心の部隊が後続で来ないとも限らないからね。」
やはりトウガニッツ様は慎重で冷静だ。
「それもそうですね。ディエスタ様と中央即応軍は?」
「到着まであと4日はかかる。」
時間をかければ敵の増援がくる。この場で叩かなければ確実に魔国は三正面作戦を強いられるな。
「作戦は?」
「港ごと高位爆撃魔法で吹き飛ばす…と言えたら良かったんだけど…。あの場には大量の物資が蓄積されてる。物資不足が危ぶまれる魔国ではそれらが必要だからね。それに当たり前だけどあそこには港だけじゃなくて町もある。爆撃魔法は最低限で行く。」
実にもっともな意見だ。帝国各地では各国からの輸入が止まったり輸送経路が混乱したりで物資不足が至る所で起こってる。戦時体制に移行して完全に落ち着くまでは物資の生産効率も落ちるだろう。ここの物資を失くすのは惜しい。町を絨毯爆撃したとあっては各地で不安がって反乱を起こされかねないしな。
「となると電撃的に奴らを我らの力だけで砲兵の大規模支援無しに海にたたき落とさなければいけない訳ですか…」
「そうなるね。でも地上戦力だけじゃ限界があるから今回は前線支援魔導兵と前線魔導兵を多めに、歩兵と騎兵を少なめに投入する。」
前線支援魔導兵、空を駆け、前線に大輪の花を咲かせる魔法兵だ。小回りがきく分港とかの施設近くの戦いでは適任だろう。
前線魔導兵は剣や槍などの前時代的な武器を使うが常に張り続けている結界で下手な小銃の弾丸ぐらいなら弾きとばす。向こうも爆撃はしないだろうから今回はかなり有効だろう。しかし。
「部隊構成はいいと思います。しかし港一帯を抑えられている以上攻め手が不利です。向こうは最悪全てを壊して一度撤退をするのも自由です。対する我々は施設の破壊を最小限に抑えながらの戦闘です。部隊を選別するだけで勝てるとは到底思えません。」
「そうだね。だから僕と君が出る。それなら問題なく勝てる。」
「……え?」
今なんと言った?『僕』と君がでる?私はいい。でもトウガニッツ様は西方軍集団の総司令だ。万が一指揮がとれなくなったら困る。
「トウガニッツ様が出陣するのには反対です。」
「いや、これは変えられないよ。もう決めた事だからね。」
トウガニッツ様が出陣するのは実に60年ぶり。大陸戦争も終わりがけは指揮をとるだけで実践はほとんど無いはずだ。
……本来なら止めるべきなんだろうけど、今のトウガニッツ様は雰囲気が60年前のそれと一緒だ。私が何を言っても止まらないだろうし止める必要もないか。
「では私も全力で協力いたします。」
「頼むよ。作戦決行は明日18:00から、港に北と東から強襲する。僕は北から、君は東から行こうか。」
「了解です。では私はこれで。」
今回の作戦は成功する。トウガニッツ様の実力は私がよく知ってる。何も問題無いだろう。私は私の仕事をしなければ。
手に魔力を集中させ異空間に収納していた短剣と一丁の自動小銃を取り出す。過去数十年に渡って私を支えてくれた武器達。久しぶりの仕事だ。日々欠かさない手入れを今日はよりしっかりとする。
……今日は色々なことがありすぎた。早く寝よう。




