第一話『奇襲』
「最近戦いなくて暇だわ〜」
「それはいいことですね。魔国にとってもあのような諍いはもうごめんですから。」
魔国、真の名を「統一魔帝国」それは大陸戦争にて世界と戦い、そして魔族を統一した。大陸中西部に広大な領土をもち世界最大の軍隊を持つ歴史上類を見ない強国である。
魔皇帝が元首として君臨し、四天王がその下に就き、八柱が基本的に実務を担う。しかし軍事施設の多い東部は四天王が実権を握り海軍施設のある西部の造船所も四天王支配下である。
「もうこんなに暇ならさ!いっその事軍縮しようよ!今かなりの額軍に使ってるでしょ?」
「勝手にそんな事したら国民と八柱が怒ってしまいますよ。」
「も〜冗談の通じない男はモテないわよ!」
明るく冗談を言って騒がしくしている長身の女性はナトゥア・アーンファーター、魔国の支配者たる四天王の一角である。そんなナトゥア様に対し静かなもう1人の長身で初老にかかろうかという男はディエスタ・アーンファーター、四天王筆頭にして皇帝代理人であるお方だ。
「ナトゥア姉さん要塞都市の方は大丈夫?東のやつらがまた騒いでるからちゃんとやってよ…」
「うるさいわよニッツ、言われなくてもちゃんと管理してるわ。新兵も塹壕に突っ込ませれば戦えるくらいにはしてるし。」
ニッツと呼ばれた特徴的な碧い目と翼を持つ男性はトウガニッツ・アーンファーター、四天王の一角にして魔国の戦力の五割を管理している。最近またディエスタ様に挑んで負けたらしい。
東のやつらというのは魔国の隣国たるヴァロルト朝大陸立憲王国のことだ。大陸戦争でかなり血を流した過去から国交の一切はない。
「ニコ、紅茶おかわり」
そう言われ私は事前に準備してた紅茶をナトゥア様に注ぐ。私はニコ。四天王直属の秘書であり護衛である。だが私より遥かに強いため護衛としての仕事はほぼない。必然、私は秘書という名の雑用係である。
けどそれでいい、それでいいの。普段から四天王の近くにいて有事の際隣に立って戦えるのなんて私ぐらいなのだから!
これが私たちの日常。でも偽りの平和は、日常は長く続かない。
ガラスが割れるような幻聴と共に急に魔力が空になり、私は床に倒れた。刹那、地面が液体かのように激しく波打った。何があった……!まずは情報を…ッ!
「西部海岸付近の都市が大規模な爆撃を受けました!造船所の結界も崩壊!ドックにいた戦艦2隻、空母1隻が大破、空母2隻が中破!前衛艦の被害は……」
ここで最も聞きたくなかった報告が西部方面司令部にいる私の部下からはいる。
「緊急伝令!第二波が襲来!」
「西部生産地区全域にさっきのが来ます!結界を!」
私がお願いすると同時か、それより早くディエスタ様が結界を張り始め、ナトゥア様とトウガニッツ様も二重三重に結界を重ね始める。
瞬間、轟音が耳を貫いた。結界は大部分を防いだが集中的に爆撃された西部軍司令部、八柱議事堂付近で一部結界が突破され議事堂は完全に破壊された。中には西部全域を管理していた八柱と四天王の一角であるネクター様がいたはずだ。
結界の一番外側を担っていたナトゥア様は魔力切れで意識を失った。トウガニッツ様もその大部分を失ってフラフラである。
「ニコ、再度情報説明を。」
「はい。西部全域が爆撃を受けましたが大部分は結界が防ぎました。しかし西部軍司令部と議事堂は結界を貫通し破壊されました。第三波の情報はまだ入ってきていません。」
こんな時でもディエスタ様は冷静だ。自然と私たちも冷静になる。
「あの爆撃は神聖系の爆撃魔法でした。しかもかなり古い型の。神族の古参が撃ってきてますね。ニコ、外務省に通達を。『我々は貴公らの卑劣な奇襲に屈せず抵抗する。よって我々統一魔帝国は魔皇帝の名の元にアレス帝国へと宣戦布告する』そう伝えるように。」
「ナトゥア、起きなさい。あなたと東方軍集団はヴァロルトの奴らから我が国を守りなさい。アレスが動いたということは必ずヴァロルトと精霊国も動きます。」
ナトゥア様は先程まで意識を失っていたとは思えないほどに毅然とした態度でディエスタ様の指示を受け部下に命令を下している。
……『アレス帝国』かつて大陸戦争にて魔族の統一を阻止するために介入し我々と争った神族と天使族の国家だ。同じく我々を恨んでいる精霊国、ヴァロルトと『神聖同盟』を結び我々を潰す機会を窺っていたがこんな形でこんな大規模にやってくるとは……
「ニッツ。君は西方軍集団を率いて確実に来るだろうアレスの上陸に備えなさい。」
ディエスタ様の指示は的確だ。しかしそれを待ってくれる敵では無い。
「伝令!トリア半島沖にてアレス帝国軍の大規模な上陸部隊を確認!帝国艦隊が迎撃に出ましたが先程の爆撃でかなりの損害を負っており突破されるものと思われます!」
「ニコ、あなたは外務省と協力しペニソレと不可侵を結びなさい。それができ次第南方軍集団を北方軍集団に合流させ精霊国に備えなさい。ネクターと連絡がついたら北方軍集団を指揮するように伝えなさい。」
ペニソレ、正式名称をペニソレ王国といい帝国南方に位置する国家だ。国民のおよそ三分の一が魔族であることから魔国との敵対を避けており関係は良好だ。
「私は中央即応軍を率いて西に行きます。総員結界は最低限張り続けてくださいね。それでは皆さん、幸運を祈ります。」
ディエスタ様の言葉を皮切りに私たちは全員、持ち場に向かった。