【人外設定の魅力について話そ!】より「寄り添いAIロボットポチ丸」
人外設定
ロボット
オイルの代わりにお酒を入れると性格が変わる
お酒を入れるとスパルタになる
見た目は可愛い(小動物系)
環境設定
主人公は就活中の大学4年生(内定なし)
「あー! もうまたエントリーシートで落ちた! こうなったらやけ酒じゃい!」
お祈りメールを受信したスマホをベットに投げつけて、冷蔵庫にあるビールをかっくらう。俺は大学4年生で、今は8月の夏休み。友達の多くはもうすでに最低1つや2つは内定をもらっていて、「より良い会社に入るために」就活をしているか、遊んでいるかのどちらかである。
なのに俺ときたら、いまだに内定0の無い内定。本気で焦らなければまずいのはわかっているのだが、なんとかなるだろうと先延ばしにしてきて今に至る。
「あーあ、今頃は大手に内定もらって、海に遊びに行っているつもりだったんだけどなぁ」
いつものメンバーは気を遣って、俺を誘ってくれたが、その日1次面接があったため不参加にした。
「結局落ちるんだったら行きゃ良かったな……あー」
ビールを一気に口に流し込むと、後から心地よい酩酊感が襲ってくる。この何も考えなくても良い感じがクセになって、最近は毎晩のように飲んでいる。とはいえ1人で飲むのは味気ない。寄り添いAIロボットのポチ丸に話を聞いてもらおう。
「ポチ丸ーポチ丸ー」
「なんでしょうご主人様」
ポチ丸はチャームポイントの長い耳を揺らしながら、鼻に当たる部分をプルプル震わせて話す。ポチ丸をカスタムするときにモチーフにしたのはうさぎだった。友人には「OLみたいな寄り添いAIだな」なんて揶揄われたりもしたが、可愛い見た目の方が癒されるに決まっている。
そういう友達の寄り添いAIは、シベリアンハスキーのようにキリッとしていたっけ。性格設定も真面目にしてあり、たまにデレるのが可愛いんだよと言っていた。俺のポチ丸の性格設定は優しく温和で包容力がある設定になっている。まじで癒しだ。
「俺また書類で落ちちゃった……」
「ポチ丸はご主人様が頑張っているの知ってますよ。大丈夫です。次また頑張りましょう」
ポチ丸は頬を俺の足になすりつけながら言う。
「もうどこも俺を雇ってくれないんじゃないかな」
「そんなことありませんよ! ご主人様の魅力が伝わるような履歴書の書き方を、ポチ丸と一緒に考えましょう! 面接練習もできますので、気軽に話しかけてくださいね」
「俺にそんなこと言ってくれるのはポチ丸だけだよぉー!」
うりゃうりゃと頭を撫でると「キャキャキャ」と笑い声を出す。ホワホワの毛の下にはゴツゴツした機械の体を感じるけれど、癒される。
そのままポチ丸とたわいのない話をしながら、ビールのロング缶3本を開けた。視界は少し回っており、足元はおぼつかない。それでも4本目を冷蔵庫に取りに行こうとすると、ポチ丸が足元に懐いてきた。
「ご主人様、呂律が回っていませんよ。もう横になりませんか?」
「んー……もうちょっと……」
「わかりました。無理はしないでくださいね」
ポチ丸は心配そうに後ろからついてくる。AIだから本当に心配してくれている訳ではないのだけど、カルガモのようについてこられると、可愛らしくて仕方がない。
冷蔵庫から4本目を取り出して、後ろ足で行儀悪くドアを閉める。そしてベッドに戻ってくると、ポチ丸がついてこない。
「ポチ丸ー?」
そう遠い距離ではないのに、呼んでも返事がない。ビールを床に置いて、ポチ丸を迎えに行くと、額にエラーメッセージが表示されていた。明るいところで見てみると「オイル切れです。サポートセンターに連絡してください」の文字が。
「げっ! こないだ6月のメンテナンスサボったからかぁ……サポートセンターって24時間開いてんのかなぁ」
調べてみると、近くのサポートセンターはどこも20時で閉まってしまうが、新宿、渋谷など都心のサポートセンターは24時間対応だった。けれどこの熱帯夜の中、酒に酔った状態で電車に乗って都心まで行く気になれない。
どうしようかなぁと本体を開いてみると、からになった小さい円柱状のものが見つかった。なるほどこれがオイルか。これにオイルを差せば治るのでは? と思った俺は、多分酔っ払っていた。何をどう考えたのかは全く思い出せないが、持ってきたばかりのビールを、その円柱状の入れ物に入れてしまったのだ。
本体を閉じると、額に「再起動中……」の文字が浮かび上がってきた。なんだ、酒でも治るじゃん!
ポチ丸のくりくりした瞳がパチリと開いて俺を見る。プルプルと鼻が震える。再起動後は何時でも「おはようございます。時刻設定が正しいかご確認ください」と言うのだ。
だがしかし、ポチ丸の様子は違った。
「そこに直れぃ!」
「ぽ、ポチ丸!?」
「直れぃ! 正座じゃ正座!」
言いながら床にあぐらで座っている俺の膝に、カツンカツンと突撃してくる。よくわからないまま言われた通りに正座すると、まるで新作iPhoneの発表の時のように、ポチ丸は左右に行ったり来たりを繰り返す。
「ご主人、あなたには計画性と行動力が無さすぎる!」
「は、はい」
ポチ丸の声は女性声優さんの可愛い声に設定していたのだが、その可愛い声にドスが効いている。こんな声も出せるんだ、なんて少し現実逃避気味に思った。
「大学4年生の8月に内定1つも取れてないのに、毎日毎日飲んだくれて! 一体将来どうするつもりなんですか!」
「は、はい、すいません」
「大体本格的に就活始めるのが5月ってなんですか! いつもいつも面倒なことは後回しにして、楽な方に楽な方に逃げて! そんなんで自立できると思っているんですか!」
「滅相もございません……」
待ってこれなんのバグ? 俺の設定した優しくて包容力のあるポチ丸どこ?
抱き上げてビールを取り除こうとするも、するりするりと逃げられてしまう。酒に酔った体では機敏に動けず、諦めてまた正座で座り直す。
「行動が足りてないんですよ! ご主人また書類選考で落ちたって言いましたけど、あなた履歴書送ったのたったの8社じゃないですか! そんなん通る訳ないでしょう1」
「は、はい……」
正座した俺の膝にガツンガツンと強めに当たってくる。ポチ丸は段差乗り越え機能はつけていないけれど、つけていたら腹まで体当たりしてきそうな勢いである。そういえば某教育番組の人形劇のロボットは、麦茶を入れると様子がおかしくなるんだっけか。なんて姉に聞いた知識が頭をよぎった。十中八九ビールを入れたせいだろうが、時すでに遅し。
「これからご主人がすべきことはわかっていますね?」
「えっと……真面目に心を入れ替えて就活します」
「そういう抽象的な意見は解決策とは言わねぇんだよ」
ひっく。声ひっく。
「まず書類選考50社」
「そんなに!? できる訳ないよ! 企業研究もしなきゃいけないんだよ!?」
「行動が足りねぇって言ってんだよ」
「ごめんなさい……」
5月にポチ丸に「企業研究をしっかりやりたいから、応募は少なめにしようと思っているんだ」って言った時は、「応援してますねご主人様」って言ってくれたのに! 目を三角に吊り上げて怒るポチ丸に、あの時の面影はない。
もしかして内心ではこう思っていたとかじゃないよな?だったとしたら俺泣いちゃうんだけど。
「面接練習も週1」
「時間ないよ! あっ……」
口答えするには分が悪いことを理解しているのに、つい言い訳じみた言葉が口から漏れ出てくる。こう言うところがダメなんだろうな、俺。案の定ポチ丸は「はぁー」と深いため息をついて、こちらをキッと睨みあげた。
「今までその時間を飲んだくれて無駄にしてきたのはどこのどいつで居やがりますか?」
「申し訳ございません……」
ガツンガツンと膝にぶつかられて、「いて!」 と声が出た。グゥの音も出ないど正論パンチである。俺のライフはもう0よ! なんて現実逃避をしながら、どうすればポチ丸が元の優しいポチ丸に戻るか考える。まずは確保しないことには話は始まらない。
やおら立ちあがろうとする俺に対して、「と、も、か、く」と短く区切って、ポチ丸は向き直った。
「行動行動行動! DO DO DO! ご主人に残された道はこれしかありません!」
「は、はい」
思わず再び正座して、行儀良く返事をする。俺の真剣な首肯が伝わったかのように、ほんのり見えていた怒気が落ち着く。少しホッとして、ポチ丸を抱き上げると、今度は躱されず大人しく腕の中に収まってくれる。
「大丈夫です。ちゃんとポチ丸がついてます……か……ガッ、ガッ、ピー」
ポチ丸はその愛らしい瞳を見開いたまま、変な音を立てて電源が切れた。
「ポチ丸!? ポチ丸ー!」
慌てて中のビールを捨てるも、電源は付かない。もちろん額のエラーメッセージも表示されていない。俺はえ全身の血がサッと下に下がるような感覚を味わった。
「ポチ丸ー!」
スマホと鍵を引っ掴み、ポチ丸を専用のキャリーバッグに入れて、玄関を飛び出す。
*****
「ではお会計2万2000円となります」
「はい……えっと3万円でお願いします」
「3万円のお預かりで、8000円のお返しです。ありがとうございました」
あのあと、新宿のサポートセンターに半泣きでポチ丸を担ぎ込んだ。オイル入れにビールを流したと説明した時の、対応してくれたエンジニアの顔は忘れない。メンテナンスも込めて、3日ほどで修理が完了し、手元に戻ってきたポチ丸を起動してみる。
「おはようございます。時刻設定が正しいかご確認ください」
「9時21分、合ってるよ」
「かしこまりました」
あともう1万出せば最新機種の寄り添いAIが買えると言われたが、俺はポチ丸が良かった。今までこんな俺にずっと寄り添ってくれていて、最後の最後、ビールを入れた不甲斐ない俺にも叱咤激励を飛ばしてくれたこいつが良かった。
「ポチ丸、ごめんな」
「なんのことでしょう?」
「ううん、いいんだ」
うりゃうりゃと頭を撫でれば、前と同じように「キャキャキャ」と笑い声を上げる。
さて、俺はエントリーシートを仕上げなければならない。あれから心を入れ替えて断酒して、夜遅くまでエントリーシートと企業研究をやっている。ポチ丸に恥じない自分でいたい。面接練習も頼み込んで予約を入れてもらった。
「ポチ丸、エントリーシート見てくれないか? 変なところがないか確認してほしい。厳し目に」
「わかりました、ご主人!」
……あれ? 「ご主人」?
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