表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/8

【ホワイトデーの演出や意味について話そ】より「ロマンチスト」

彼と彼女の関係性 両思い(カップル)

彼女がバレンタインにあげたもの ハート型の手作り本命チョコ

彼がホワイトデーに贈るもの ホットチョコレートにマシュマロ溶かす

ホワイトデーを渡す場所 彼女の部屋

 高校2年生の彼女のはすごく自立した女性だ。

 漫画家になるために、資金調達を兼ねて、月1回東京で同人誌の販売をしている。そこそこの収益をあげており、彼女曰く「経費は半年で回収した」らしい。漫画家という夢を見ている割には現実的で、なんとも頼もしすぎる。

 そんな彼女だから、月に1回は入稿前の追い込みの時期になる。本日3月14日、ホワイトデーも、入稿前の追い込みの時期だった。「だからホワイトデーはデートできない、ごめんね」という彼女を応援したい反面、どこまでも1人で突き進む彼女の隣にいたくて、せめてお家に行ってもいいか聞いた。

 原稿を手伝えれば良かったのだが、彼女は液晶タブレットで書いており、僕は「液タブってなぁに?」から始まるズブズブの素人だった。同じものを購入してこっそり練習できないかと調べてみたところ、彼女の液タブは30万する高級品だった。高校時代のお小遣い前借り一括で購入したらしい。あまりにも豪快な彼女のやり方にときめきを覚えたのは内緒だ。


 なので、せめて「漫画のネタになる彼氏」でいられるように努めている。

 イベント毎は1月前から準備して、歯の浮くようなセリフも恥ずかしながら言っている。高校生だからお金はあまりないけれど、ロマンティックさならそこら辺の男には負けない自信がある。


 先月のバレンタインデーでは、彼女から大きなハート型のチョコレートをもらった。


「一度ベッタベタなのやってみたかったんだよね」


 とはにかんで言う彼女に、絶対ホワイトデーは素敵に決めて見せる! と意気込んでいた。とはいえ今日は前からお家デートが確定していたので、そのつもりで準備。

 彼女に一言断ってキッチンを借りる。キッチンに行けばメッセージアプリで話を通してあった彼女のお母さんが快く迎え入れてくれた。僕はロマンチックの演出のためなら、彼女の母親とメッセージのやり取りをする男である。


「夕食前にお借りしてすいません」

「いいのよー。ホットチョコレートだっけ?」

「はい、調理器具は持ってきたので」

「あら、うちの使って全然いいのに!」


 そんなやり取りをして、板チョコを刻む。意外と硬くて骨の折れる作業だ。彼女もあの大きなハート型のチョコを作るのに、こうして刻んでくれたのだろうか?割と大雑把なところのある彼女だがら、適当に手折ってレンチンした可能性もあるが。

 なんて自分の妄想に口角を上げつつ、牛乳を小鍋で沸騰させる。白いホーロー鍋で温める牛乳は、それだけでなんだか美味しそうだった。

 一旦火を止めて、少しずつ刻んだチョコレートを混ぜて泡立て器で溶いていく。なんだか愛情を注いでいるみたいだ。とロマンチックなことを思ってしまった。


 こうして、少しずつ愛情を溶かして、とろとろにして、彼女の奥深くまで僕で満たせればいいのに。僕なしじゃ生きていけなくなるくらいに、なってくれればいいのに。

 そんな妄想をするにはあまりに自立しすぎた現実の彼女を思い返して、「ふふっ」と笑いがもれる。ナンセンスだ。


 出来上がったホットチョコレートに、買っておいたマシュマロを乗せる。「洗い物は任せて!」と言う彼女のお母さんにペコペコお礼を言って、彼女の部屋へと運んでいった。


「ジャジャーン!」

「おっ、なになに?」


 彼女の前にホットチョコレートを差し出した。猫型のマシュマロがチョコレートの中から彼女を見上げて手を伸ばしている。


「なにこれー! かわいいー! にゃんこだー!」

「かわいいでしょー」


 彼女は両手で受け取ると空いた作業スペースにおいて、スマホで写真を何枚も撮っている。あの撮り方は資料にする気の撮り方だな。


「一緒に写真撮ってあげよっか」

「うん!」


 こっちは僕のプライベート用ということで、僕のスマホでパシャリと。かわいい彼女と、かわいいホットチョコレートのお風呂に使った猫の写真は後でロック画面にするとして。


「冷めないうちに飲んでね」

「ありがとー!」


 彼女の小さな口がマグカップの淵に触れる。コクコクと喉が動いて、飲み下している様子を僕はただじっと眺めていた。


「美味しい……作業中の脳に糖分が染みる……」

「ナイスチョイスでしょ」

「うん、ナイスチョイスだわぁ、ありがと」


 無事彼女の創作意欲を満たすことと、彼女の疲れを癒すことが同時に達成できたことに内心ガッツポーズをして、満足する。

 彼女はツンツンと猫のマシュマロを指で押して「そういえばさ」と思い出したように言い出した。


「ホワイトデーにマシュマロ送るのって『あなたのことが嫌いです』って意味らしいよ」

「えっ!?」


 ものすごい衝撃に声がひっくり返った。ホワイトデーに贈るお菓子に意味なんてあるのか! まずいリサーチ不足だった。なんということだろう。

 僕が頭の中でつらつらと言い訳を考えていると、彼女が「ぷっ」と吹き出した。


「ごめんごめん、意地悪しちゃった。いっつもこうして考えてくれるのが嬉しくてさ」

「なんだよーもう!」

「それにその意味って後世の後付けなんだって。本来のホワイトデーに贈るマシュマロの意味は『あなたの気持ちを僕の優しさで包みます』って意味らしいよ」


 良かった。ロマンチックな演出が失敗に終わって、彼女ががっかりしてしまったのではないかと不安だったが、そんなことはないようだった。彼女は楽しそうに、マシュマロをつついている。


「これには君の優しさが詰まっているんだろうなぁと思ったら、なんだか恥ずかしくなっちゃって」


 照れたように首を傾げる彼女が可愛らしくて、椅子に座った彼女を立ったまま抱きしめる。このままマシュマロみたいに溶けてくれないかな、なんて思う僕は、彼女の影響もあってロマンチストになってしまったようだった。

 しばらくギュッとしてから離すと、彼女はもうだいぶ溶けてしまった、猫のマシュマロを指でつまむと、ぱくと口に含んだ。


「あま」


 君の中に溶けていくマシュマロを、羨ましいとさえ思ってしまった。

ここまでお読みくださりありがとうございます!

ちょっとでも「面白いな!」「続きが読みたいな!」と思ってくださったら、ブックマークと評価お願いします!

生産者Vtuberのないないに興味が湧いたら、チャンネル登録もお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ