【皮肉屋の魅力やツンデレとの棲み分けについて話そ】より「期日は守りましょう」
皮肉屋の設定
・女性
・優しいがゆえに婉曲表現を好み結果として皮肉になってしまう
・気が弱い
・感情の起伏がフラット
・最後に意図して皮肉をいう
環境設定
・現実世界
・職場
言われる側
・背が低い
・ケアレスミスが多い
・主人公が好きなんだけど悪意ない皮肉で心がグサグサになっている
すごい難産でした……。
俺はいわゆるライトノベル作家というものをやっている。小説家になろうに投稿していたハーレムものが当たり、あれよあれよという間に、「ラノベ作家」の称号を手に入れていた。作画担当も良い人を当ててもらい、キャラ人気で俺のラノベは保っている。実際作り出したキャラクターの女の子たちは、皆嫁にしたいくらいに愛していた。
けれども、俺には悩みがあった。
平日昼間のファミレスはマダムたちのお喋りの場だ。そんな誰も周りを気にしていない雑然とした空間の中、向かい合った編集の高田は困り顔だった。
「今回いただいたプロットなんですけど……」
「はい……」
期日より1週間遅れて出したプロットには新たな登場人物が3名ほどいる。
「その……お聞きしづらいんですが、どうして突然3人のイケメンが生えてきたんですかね?」
「あの……女性人気が欲しくて……」
「なるほど女性人気ですか……」
高田は困ったようにプロットを眺める。俺のラノベはハーレムものというジャンルゆえか、99.9%の読者が男性である。これ以上同じ作風を貫いても尻すぼみになるだけではないか。そんな風に考え、新規読者層である女性を狙って新刊のプロットを出した。
そんな俺の説明を困った顔で聞いていた高田は、眉間に手を当てた後、にっこりと優しく微笑んだ。
「先生の作品は男に都合のいい女しか出てこないところが魅力なんですから、イケメンなんて必要ありませんよ! これからも男の妄想叶えていきましょう!」
言葉のナイフが鋭すぎやしないか?
高田さんは優しい人で、脅してきたりなどは全くされたことはないのだが、たまにこうして言葉のナイフで刺されることがある。
「俺の作風だと女性人気は無理ってことですか……?」
なんとか絞り出して問いかける。
「少なくともこの3名のイケメンでは女性人気は無理でしょうね。顔が良くて金持ちなだけでは女性人気は取れません」
「女性受けするような中身にしたつもりなんですけれど……」
ニコッと高田は笑って何も言わない。なるほど、正解は「沈黙」。
暗に全くできてないからやめとけと、笑顔で語られた俺は、しおしおと背筋を丸める。
「でも新規読者層を取り込もうとする心意気は悪くないですよ! どうですか? 大人の男性に人気が出そうな女性キャラクターを考えてみるのは」
褒められて少し気分が向上する。そうか、悪くないか!ならやってみてもいいかなという気持ちになれた。
「なんでも包み込んで言うこと聞いてくれそうな、良妻賢母系いかがですか?」
「それって大人の男性好みますかね……? もっと自立した感じの今時の女性にした方がいいのではないでしょうか?」
「先生の読者層考えると自立した女性はやめといた方が良さそうですね。そういうリアリティは求められていないかと」
「もしかして俺の作品の恋愛、リアリティがないって言われてます?」
高田は親指をグッとサムズアップして、ペッカペカの笑顔を見せてきた。
「大丈夫です! 世の中の童貞はみんな先生の味方ですよ!」
オウン……。
リアリティないんですね……。
確かに28歳にしてまともな恋愛経験なんてないから、恋愛事情は全てフィクションから学んでいる。そのあたりが作風に出てしまっているのだろう。男に都合のいい女、都合のいい展開、ご都合主義で書かれた俺のライトノベルの読者層って……いや考えるのはよそう。
「俺が高身長イケメンだったら、女性人気の高い作品かけたのかなぁ」
「先生のこの世に占める割合が低い方が女性は喜びますから、もっと今の自分を誇ってください!」
「きもいと思われてるってことですか!?」
流石に切れ味が良すぎて半泣きになってしまった。高田本人に全然悪意がなさそうなのがまた痛い。高田は俺の様子にあわあわと手を顔の前でふり、「違います違います!」と連呼している。
「先生レベルの変態が恰幅良かったら怖いじゃないですか! 威圧感なくていいと思います!」
「高田さん俺のこと変態だと思ってたんですね」
「変態だと思われてないと思ってたんですか?」
きょとんとした顔に変わった高田に、本心からの言葉だと悟ってしまって心が痛い。確かにちょっとセクシーなお色気シーン書いたりするけど! そんなこと言ったら創作者なんてみんな変態なところあるだろう。
なんだか辛くなってきた。もっと高尚な小説が書きたい。リアリティがあって、知性を感じるギャグがあって、感動もある超大作。あーあーもうこのシリーズやめたいなぁ。
心の中でつぶやいたつもりだったのだが、声に出ていたらしい。高田は慌てたように「そんな思い詰めてらしたんですね」とこちらを伺ってくる。
「先生の作風は知性を感じるんじゃなく、性癖を感じるものですから。ジャンル違いですよ」
もっとご自身を誇ってください。よっシリーズ累計10万部!
なんて言葉が続けられて、もう怒っていいのか泣いていいのかわからない。心の中のシンジくんが「笑えばいいと思うよ」と言ってくる。こんな脳内だから知的な文が書けないのかもしれない。
高田が話題を変えようとしたのか、「そういえば」と言葉を続ける。
「こないだの原稿、『みだりに』が『淫らに』になってて校正担当が爆笑していましたよ。笑い取れてますよ。先生の誤字脱字はいつも面白いんですから! そんなに思い詰めないでください」
暗にケアレスミス多いって言われてますか? まぁその修正報告は俺も笑ったんだけど。
なんだか無いものねだりしている自分が恥ずかしくなってきた。シリーズものを出せる小説家なんて、恵まれた立ち位置にいながら何を言っていたんだろう。
自分の悩みの全てがバカらしくなって、思わず破顔する。
「すみません、1からプロット練り直してきていいですか」
「はい、お願いします」
はなからそのつもりであったのだろう。高田は俺の没プロットをカバンにしまうと、手付かずだったコーヒーに口をつける。
「あ、『今回も』期日までの提出頼みますよ」
そう言って茶目っ気たっぷりに笑う高田に、「完敗」の文字が浮かんできた。
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