【面白れー女ってどんな子? 魅力や特徴について語ろう!】より「坊っちゃまの恋心がソイヤッされました」
世界観設定
・現代日本
・降ってきた鉄骨をそいやっ!する
・コピー用紙詰まって困っていたら治してくれた
主人公設定
・生まれはジャングル、育ちは都会
・熊が師匠
・殺しのライセンス持ってる
・運動神経がえぐい(競走馬並に足が速い)
・協調性が低いので仕事ができない(OL営業事務)
周りのキャラクター造形
⚪︎軟弱な俺様
・主人公の年上
・会社の代表取締役の孫で、現場経験を積んでいる最中(営業)
・学生時代は学年主席で天才型
・ナルシストだったが、鉄骨ソイヤッでときめく
⚪︎常識人枠(語り手)
・軟弱な俺様のおじいちゃんの秘書
・鉄骨ソイヤッにドン引きしている
私が敬愛する天王寺家当主の御令孫である、天王寺龍一様はそれはそれは出来たお方でした。幼少期から相当な進学校に通われているにも関わらず、学年主席を譲ったことはなく、頭脳明晰、才色兼備を地で行くお方でした。スポーツは多少苦手だったものの、人並み程度には嗜まれていて、欠点と呼ぶほどのものではなく、チームプレイなどしたときは参謀としてチームを勝利に導くこともございました。龍一坊っちゃまは友人からも慕われ、目上の者には可愛がられ、下の者にはよく相談を受けるなど、人格的にも優れていらっしゃいました。さすが天王寺様の御令孫と、そばで成長を見守りながら感心したものです。
早いもので、龍一坊っちゃまは3年のイギリス留学を終えて日本に帰っていらっしゃいました。天王寺様は本社の現場経験を積むようにと、自身の会社に入社させました。ご本人は御令孫ということを隠したかったようですが、珍しい「天王寺」の名前と、お祖父様の生き写しのようなお顔では、とても隠せるものではありませんでした。最初は気を使っていた面々も、龍一坊っちゃまの誠実なお人柄に絆されて、営業を2年積んだところです。光栄なことに、お目付役として私も、営業事務としておそばにいられることになりました。
この2年で龍一坊っちゃまはメキメキと営業成績を伸ばし、エースとして活躍。また、その営業ノウハウをためらうことなく他者に与えて、営業部自体の成績を大きく伸ばされました。
そんな中営業事務として入ってきたのが、熊野幸恵でした。
熊野幸恵は、悪い人間ではないのですが、どうにも出来の悪いところがあり、1から10まで説明しないと物事に取りかかれないようなところがございました。学生時代にすでに日商簿記1級を取得しており、即戦力として見込まれていたものですから、会社側としては、落胆、の気持ちが強かったように思います。
龍一坊っちゃまはお優しい方であり、またいずれ社長になることを自負している方でもありました。いわゆる落ちこぼれという烙印を押されてしまった社員をどうにか出来ないかと、何かと熊野幸恵を気にしてお声がけをしたり、営業に連れ出したりとしておりました。
そんなある日のこと。
覚えているのは、暑い夏の日差しと、こんなビル街のどこに隠れているのか、ジーと鳴く蝉の声。営業先から少し離れたコインパーキングに車を停めて、先頭が龍一坊っちゃま、それから熊野幸恵、私という風に歩いていた時のことです。
「危ない!」
建設業特有の、高く通る男の声が上から聞こえてきました。パッと見上げると3メートルほどの鉄骨がまさに私たちの頭上に落ちてこようとするところでした。
私は老体のせいか咄嗟に体が動かず、迫り来る鉄骨を間抜けに目を口を見開いて眺めているばかりでございました。今思い返してみても、避けようにもどう動けばいいのかわからないのです。運動神経が少しばかり悪い坊っちゃまも同様に、口を開けてポカンと真上を見上げていらっしゃったそうです。
そんな中、私たちの間にいた熊野幸恵が動きました。
持っていたパソコン入りのビジネスバッグを思い切りぶん回し、
「ソイヤッ」
との掛け声と共に、振ってくる鉄骨を工事の白い仮囲いの方に殴り飛ばしたのです。
私たちは何が起きたのかわからず、熊野幸恵と、曲がった鉄骨の間で視線を行ったりきたりさせておりました。慌てて工事現場から人がたくさん出てきましたが、熊野幸恵は気にもとめず、
「行きましょう」
と一言言ってスタスタと営業先への道を歩いて行きました。
あの時の営業をどう乗り切ったのか、私の記憶では定かではないのですが、車内で確認した熊野幸恵の持ち出し用パソコンはHDDごとベキベキにへし折れておりました。幸い持ち出し用なので、重要データは入っておりませんでしたので、大事には至りませんでした。なんとか工事の方にも連絡をとり、賠償していただくこととなりましたが、事故の経緯を警察に伝えたときは「すぐに連絡しなさい」と少し説教を喰らってしまいました。
なおこの「ソイヤッ」で熊野幸恵は一切怪我などしておらず、パソコンのみの粉砕でした。そのため営業部では「熊野幸恵は熊に育てられたのでは?」「暗殺者だった過去があるらしい」など根も葉もない噂がまことしやかに飛び交いましたが、熊野幸恵は全く気にする様子はありませんでした。
変わったことといえば、龍一坊っちゃまの熊野幸恵に対する態度に少し甘さが混じったことでしょうか。あの時の「ソイヤッ」はなんと龍一坊っちゃまの恋心も「ソイヤッ」してしまったらしく、毎日いじらしく頼れる先輩を見せているものの、どうにも熊野幸恵には届いていないようでした。
そこで龍一坊っちゃまは一策講じて、営業部での飲み会を開催されました。いずれ社長になる方が幹事の飲み会ということで、営業部長が「何がなんでも全員参加すること」と命じたので、興味なさそうな熊野幸恵もそこにはおりました。
熊野幸恵は移動しなくても何も言われなさそうな隅っこの席を選びましたが、龍一坊っちゃまは光の速さでその隣を死守されました。あの動きは私が見た龍一坊っちゃまの中でも1、2を争う俊敏さでした。
私は離れたところで営業部長に自己アピールをされながら、様子を伺っていると、龍一坊っちゃまは必死に場を和ませているようでした。元より聡明なお方ですから、お話上手で、聞いていれば「へぇー」と感心してしまうようなことが多いのです。チラリと見やると、熊野幸恵は龍一坊っちゃまを興味深そうに眺めながら何度か頷いておりました。
龍一坊っちゃまと熊野幸恵はその席を動きませんでしたが、いずれ社長になる龍一坊っちゃまの前の席は入れ替わり立ち替わりの大盛況でした。時折横の席を変わるように熊野幸恵に目でアピールする社員もおりましたが、熊野幸恵は素知らぬ顔でずっとビールを飲んでおりました。
1次会が終わり、飲み足りないものは2次会に向かう中、龍一坊っちゃまはバッティングセンターに皆を誘いました。その中には熊野幸恵もおりました。
飲み会後にその選択肢はさすがに帰ってしまうのでは? と思われましたが、女子社員の「熊野さんも行こうよ!」と後押しがあり、龍一坊っちゃまと、歳の近い若手たちはバッティングセンター行きが決まりました。
バッティングセンターについて、若手の男性社員が先陣切ってバッターボックスに立ちました。2番目にまた別の男性社員が。2人とも前に飛ばすのがやっとと言った感じで、到底高くは飛びませんでした。そもそも遅い急速では、高く飛び上がりづらいのもあるのでしょう。
3番目に誰が行こうかと話していた時に、龍一坊っちゃまが熊野幸恵に声をかけました。
「熊野さんやってみませんか? 前に何度か来たことあるっておっしゃってましたよね」
「まぁ何度か」
「えっ熊野さん経験者なの!?」
「いえ、経験者ってほどでは」
そんな風に言いつつも、渋々熊野幸恵はバッターボックスに立ちました。球速はまさかの120でした。
「ソイヤッ」
カキーン! と小気味いい音を立てて、第一球がホームランと描かれた看板に当たりました。気の抜けるホームランを知らせる音楽が流れます。それと同時に、若手社員たちから、「おぉ!」「すごい!」とどよめきが上がります。
それからも「ソイヤッ」の掛け声と共にカキーン! と気持ちのいい音が続き、球がホームランの看板目掛けて飛んでいきます。結局3球ほど当てて、熊野幸恵はバッターボックスから出てきました。
「すごい! すごいですね! 熊野さん! 私興奮しちゃいました!」
龍一坊っちゃまが熊野幸恵に駆け寄って手を握ってブンブンと振り回します。女性にみだりに触れる方ではないので、よっぽど興奮していたのだと思われます。
他にも熊野幸恵の周りには女性社員が集まって、「すごい!」「何かスポーツやってたの!」「私もやってみたいから教えて!」と好意的な好奇心でワイワイと盛り上がっておりました。熊野幸恵は基本的にお荷物社員ですから、こうして好意的な視線に囲まれることがなかったため、少し戸惑っているようでした。龍一坊っちゃまは少し離れたところで、女性陣の和気藹々とした様子を眺めていました。
続いて坊っちゃまがやってみたのですが、運動はお得意ではございませんので、なんとか転がる程度にしか打てません。
「熊野さん。コツとかありますか?」
「コツ……かはわかりませんが、天王寺さんは腕だけ振っているように見えるので、もっと腰の回転を使って体全体で打つと良いと思います」
「ありがとうございます! やってみます!」
熊野幸恵のアドバイスを元に打った球は、最初こそ空振りでしたが、次2球は大きく前に飛びました。
「やった! 熊野さん! 見てましたか! 飛びましたよ!」
「はい、見てましたよ」
その時の熊野幸恵の表情は、なんとも優しげに、まるで年若い弟を見るかのように目尻が下がり、微笑みの形をしておりましたので、龍一坊っちゃまは振り返った状態でフリーズしてしまいました。
しかしボールは定期的に飛ばされてくるので、バッターボックスをはみ出た龍一坊っちゃまのお尻に、急速90kmがぶつかりました。
「痛い!」
「ぷっ!」
熊野幸恵は思わず吹き出して、周りの若手社員たちも笑いながら「大丈夫ですかー?」「デッドボールですね!」「ちゃんと前見ないと危ないですよぉ」と囃し立てて盛り上げてくださいました。
それから2人の距離が縮まったかというとそんなことはなく、いまだにデートの類もできていないようでした。私からしましたら、龍一坊っちゃまの誘いを断るような女性などいないと思うのですが、相手は「ソイヤッ」こと熊野幸恵。油断は禁物でございます。
龍一坊っちゃまとの距離は縮まりませんでしたが、熊野幸恵と他の事務の女性社員との間には変化がありました。どうやら身体能力が高く、力仕事が得意だと認識され、重い荷物や電球の交換、蓋が開かない時などは熊野幸恵が積極的に頼られるようになりました。流石に女性にその扱いはいじめになってしまうのでは、と本人にヒアリングしたところ、「役に立てているなら嬉しい。入社して今が一番仕事が楽しい」との返答だったため、このまま様子見ということになりました。女性社員たちもしっかりお礼をしているようで、熊野幸恵のデスクにはちょっとしたお菓子がよく置かれているようになりました。
書類仕事に関しましては、龍一坊っちゃまが頑張りました。社内共通のテンプレートを書く書類で作り上げて、入力だけすれば良いようになると、熊野幸恵は、正確さには定評があったため仕事が格段に早くなりました。
私としましては、そんないじらしい龍一坊っちゃまの想いが成就いたしますように、と毎日神棚に祈るばかりの日々でございます。
そうして過ごしていくうちにコピー機の前で熊野幸恵が何やら困っている様子でした。
早速熊野幸恵レーダーに引っかかった龍一坊っちゃまが「どうしたの?」とお声がけをします。
「コピー機が動かなくて……転写ベルトを交換してくださいって」
「あぁ、それなら倉庫にありますよ。私が」
「倉庫ですね」
「私がとってきます」と龍一坊っちゃまがおっしゃる前に、熊野幸恵はサッと倉庫に取りに行ってしまいました。坊っちゃまは一度デスクに戻って自分の仕事を片付けつつ、戻ってきた熊野幸恵に声をかけます。
「私がやりますよ」
「いえ、事務の仕事ですので」
「汚れちゃうかもしれませんから」
「事務服なので大丈夫ですよ」
「いえ、熊野さんの手が」
半ば強引に転写ベルトのダンボールを熊野幸恵から奪い取って、ベリベリと梱包を解いていく龍一坊っちゃま。
「熊野さんの手、いつ見ても清潔そうで、綺麗で、私好きなんですよ」
途端に、熊野幸恵は右手を左手で隠すように握って、かわいそうなくらいに顔を真っ赤にして俯いてしまいました。床に段ボールを置いて作業している龍一坊っちゃまは、その顔を見ていない。
坊っちゃまー! 龍一坊っちゃまー! 見逃してはいけないシーン見逃しておりますぞー!
「だから、これは私がやりますよ」
「ね?」と言い聞かせるように顔を上げた龍一坊っちゃまの目に飛び込んできたのは、今まさに赤い実が弾けたばかりの、可愛らしい女性。
自分の言葉がまるで口説き文句だったことにようやく思い至ったらしい龍一坊っちゃまは、何をどうテンパったのか
「あ、あの、今日良かったら食事でも」
と唐突にデートの誘いをされました。
「あの、今日は、その」
赤面状態が解けないままの熊野幸恵はギュウっと白くなるくらいに手を握りこんでいます。
「あの、明日なら……」
か細い声で告げられたそれに、私は天井高く拳を突き上げ、それから天を仰ぎました。
今から当主様にメールを打たなければ。何からお伝えしましょうか。熊野幸恵の身辺調査は終わっていることはマストで伝えなければ、あぁそうそうボディーガードとして雇い直しをした方がいい件も伝えた方が良いでしょうね。
それより何より伝えなければならないのは、
メールボックスを立ち上げて新規メールを開いて、タイトル欄にカーソルを合わせます。
TITLE:坊っちゃまの恋心がソイヤッされました
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