【人の心がないってどんな感じ?魅力的な悪役について語ろう】より「確かに幸せだった」
2025/1/311【創作企画配信】人の心がないってどんな感じ?魅力的な悪役について語ろう!
世界観設定:現実世界・バトルもの・異形退治系・男主人公
悪役設定:
・味方だと思ったら裏切り者だった
・可愛い女性
・異形のボス
・戦っているところを見ておもしれー男!って興味を持つ
・ヤンデレ、主人公以外に興味なし
・主人公と同じ武器の種類を使っている
****
人々から生気を奪い、殺してしまう異形。それらを駆逐する退魔術師。異形を従えて立つ少女の姿は、紛れもなく戦いの先輩として尊敬していた彼女……梅原薫子その人であった。圭は彼女と同じ双剣を身構える。この構えだって、薫子が教えてくれたものだ。圭の戦いのスタイルは、誰よりも彼女の影響を受けている。
「薫子先輩、どうしてですか!」
「どうして? なんの話じゃ?」
人とは異なるツノを額から2本生やして、まるで骨組みだけのような翼が背から生えている薫子の姿を見てもなお、圭は彼女のことを信じたかった。共に積み重ねてきた日々を、信じていたかった。
「僕たちを騙していたんですか!」
「騙すも何も、初めから仲間だなんて言っとらんじゃろ。心外な」
圭1人で、彼女を元に戻すことは難しい。一色教師と組んでいる哲たちのAチームがここに辿り着くまで足止めをする。哲のチームは、間違いなく基地で一番強い。なんとか彼女を正気に戻すことができるかもしれない。みんなでまた基地に帰る。それが今の圭の希望だ。
「わらわたちは人間どもと違って嘘などつかぬ。圭のことは気に入っておるがそれ以外はどうでも良い。初めからずっとそう言っておったじゃろ」
確かに彼女は一度も、仲間だとか、そういった類のことを言ったことはなかった。ただ「圭を気に入ったからそばにいる」とだけいつも言っていた。彼女の純粋に見えた好意に、惹かれていたのに。
ともかく今は捕獲である。無線から聞こえる音声は、あと1分ほどでこちらに着くと言っている。
「圭、わらわとおいで」
甘い声に、ぞくりと背筋が震える。自分より圧倒的強者から向けられる、執着への恐怖。
「人間の世は優しいお前には生きづらいじゃろ。わらわとおいで。何もかもから守ってやるからの」
「行きません!」
「ふぅむ」
緊迫した圭とは対照的に、隙だらけの様子で思い悩んでいるように見える薫子。それでも、攻撃ができなかった。どこに当てようとしても、赤子のように捻り潰される未来しか見えない。こんな感覚はどの異形にも抱いたことがない。
それだけの強者であると、はっきり肌でわかる。
瞬間、背に生えた羽根が勢いよく天空を突き刺す。咄嗟に見上げた先にいたのは、大剣を構えた哲だった。その胸が、伸びた黒い羽根によって貫かれている。目の前の光景を、頭が理解を拒む。
「哲……?」
シュルシュルと戻った羽根から、哲が振り落とされる。血反吐を大きく一度吐いて、哲は動かない。そのままどさりと圭の真横2メートル先に落ちる。辺り一面に血が広がって、その真中の哲は。思わずそちらに駆け寄ってしゃがみ込む。すると遅れてぼたりと目の前に落ちてきたのは、心臓だった。
「あ……!あ……!」
一色の大きな背中が、圭と薫子の間に現れる。続いて哲率いるAチームが圭を守るように前に降り立った。圭は必死に心臓を元の位置に戻して、回復術を哲にかける。
「おいおいマジかよ薫子。聞いてないんですけど」
「なんじゃ一色。今わらわは圭を口説く文句を考えておるのじゃ。戯れなら後にせい」
武器を構えるAチームを、一色が手で制す。後方支援に特化した戦闘脳は、人命救助の際でも状況の把握をやめてはくれない。全身全霊で哲を治したいのに、防衛本能がそれを許さない。
「敵う相手じゃない。武器を下せ」
「先生!?」
「敵対行為を見せるなっつってんだ! 武器を下せ」
Aチームは戸惑いながら命令に従って武器を下した。それと同時に、哲の心臓がドクンと大きく跳ねる。なんとか、一命は取り留めた。けれど一刻の猶予もない。早く処置室に行ってちゃんと手術をしなければ。
切羽詰まった状況に対して、一色はいつものような軽い調子で言葉を紡いでいく。
「ねぇ薫子。その姿、俺古ーい書物で見たことあるんだけど、もしかして薫子って異形の首領だったりする?」
「うるさいやつじゃの。そうだ! 圭の好きなやつをこの世から消してしまえば、わらわだけを見てくれるかの!」
どきりと心臓が嫌な音を立てた。僕の好きな人を、みんな消す?
「質問に答えてほしい。もし薫子が異形の首領なら、先生は薫子が圭を手にいれる手助けができるかもしれない」
「なんじゃと?」
「これでも恋愛経験豊富だからね。そして、今言った計画は、間違いなく圭に嫌われるからやめた方がいい。ね、圭?」
振り返った一色の表情は、余裕そうな声色とは対照的に、僕に睨みを効かせる。発言に気をつけろとその目は語っていた。
「……もちろん」
「なんと! 人間というのは難しい生き物じゃの」
「そうそう、か弱くて難しいのが人間なの。だから、僕が圭を口説く方法教えてあげる。だから答えて? 薫子は異形の首領で間違いない?」
薫子は少し悩むそぶりを見せて、「いかにも」と答えた。
「異形の首領は異形たちに言うこと聞かせられるんだよね?」
「うーむ。正確にはNOじゃな。低級の異形どもは、意思疎通の能力を持っていないのじゃ。だから、その場で従えることはできるが、全部に言うことを聞かすことはできぬ」
「なるほど」
一色は圭の手を取って立ち上がらせる。哲の血に塗れた手から、ポタリポタリと血液が滴る。
「言うこと聞かせられる範囲でいいから、こっちで指定した人間から生気を奪ってほしいんだ。誰も彼もから奪われると、人間と異形は敵対してしまう」
「お前ら人間など家畜も同然。誰を食べても問題なかろう」
不満げに顔を顰める薫子に、また心臓が飛び跳ねた。感じているのは恐怖だった。
「異形にも上級低級があるように、人間にもあるってこと。上級の人間が死にすぎると、人口が減って困るのは異形の皆さんだよ」
「先生、何言って」
ぎろりと睨まれて口を紡ぐ。
「人間なんてアホみたいに増える生き物じゃろ。1000人死んで1500人生まれるんじゃから」
「ところがどっこい、日本の人口は13年連続減ってるんだなぁ」
「なんと!」
薫子は目を見開いて一色を見る。
「俺たちも異形と共存できるならそれに越したことはない。俺たちの提案飲んで、低級の人間から生気奪ってくれたら、共存できると思うんだ」
人間に低級など存在しない。命は等しく平等である。今一色が言っていることは、間違いなく道徳にも倫理にも反することだ。
「そうすれば、圭だって薫子と一緒に生きていける。ね? 圭」
あぁ、これは、
「……もちろん」
生贄ってやつか。
古来から異形のものを治めるには生贄と相場が決まっている。薫子の執着は紛れもなく自分である。であれば、自分が生贄になるのは当たり前のことだった。そして、一色の指定した人物から消えていく。政治や経済の妨げになる人物を消して、より日本を発展させていく。
どっちが悪魔なんだかわかったもんじゃない。
「薫子先輩が、人間側に譲歩してくださるなら、僕は薫子先輩と生きていきます」
「それはまことかの!」
喜色満面といった表情の薫子は、確かに人間ではないのだと感じさせられた。感性が、感覚が違うのだと、はっきりわかった。
「えぇ、もちろん」
僕の笑顔は、引き攣ってはいなかっただろうか。
*****
それから、あっという間に隠り世に連れて行かれ、風呂に入れられて、白無垢を着せられた。
「あの、先輩。僕男なんですけど」
「わらわの妻になるんじゃから、それで合っとるじゃろ」
「……はい」
下手に機嫌を損ねてはいけない。流石にそれくらいは生贄としてわかる。
その日は上級の異形たちが集められて、盛大な結婚式が行われた。とは言っても圭は、顔だけ見せていれば良いと言われたので、上座に座ってただぼーっと宴会の様子を見ていただけだったが。
「わらわたちは自分を異形とは呼ばぬ。影の者、と言うようにしろよ」
式中に薫子に言われたのはそれくらいで、あとは薫子も顔を赤くしてただ注がれる酒を飲んでいるだけだった。
式が終わると、柊と名乗る世話役に、白無垢を脱がされる。そして、「薫子様から、今日はお疲れでしょうからおやすみくださいとのことです」と告げられて、布団が敷かれた和室に1人にされる。てっきり夜伽もしなければいけないと思っていたので拍子抜けだった。
度重なる戦闘と、精神的な疲労、さらには先ほどのどんちゃん騒ぎが相まって、寝られるはずがないと思っていたのに、いつしかすっかり寝入ってしまった。
ここでの暮らしも1ヶ月になる。薫子は意外と忙しいようで、食事の際は顔を見せるが、それ以外は仕事があるとどこかに消えてしまう。「圭様におかれましては好きに過ごしてくださいとのことです」と柊に言われて、圭は人生で初めて「暇」を経験していた。
生まれてこの方、異形が見えて追われていたから、心休まったことがなかった。寝る時ですら、わずかな物音で目を覚ますことが多く、常に気が張っている状態だった。
しかし、薫子に仕えている異形たちは、圭にもことさらに優しかった。「奥様」として大切に扱われているのがわかる。それこそ、たった1ヶ月で、攻撃されるかもしれないという警戒が解けてしまうほどに、心から圭は歓迎されていた。
退魔術師として基地に入隊してからは、戦闘戦闘戦闘で、趣味なんてものも持ったことがない。急に与えられた、休暇のような時間に、圭はひたすら惰眠を貪っていた。
今日もそんな感じでお昼寝をしていると、ふと聞き慣れた声が聞こえた。
「圭の様子はどうじゃ?」
「はい薫子様。圭様は日中も閨に入られていることが多いです。まるで長年の疲れを癒すかのようにずっと休んでおられます」
「わらわたちが見える人の子は生きづらいと聞く。好きなだけ休ませてやってくれ。起きたらこの桃でも剥いてやれ」
「これは……よろしいのですか?」
「良い良い、こういうのは使ってなんぼじゃ」
そして襖が擦れる音がして、また静かになる。朧げに聞いたこの会話を思い出したのは、夕方起きた時に桃を柊が出してきたからだった。
「薫子様より、よろしければと」
「薫子先輩、寝てる間にいらっしゃいましたか?」
「えぇ、桃をおかれていきました」
もしかして、今までも様子を見にきてくれていたのだろうか。だとしたら圭は、この異形の屋敷で安心し切って寝こけていたことになる。恥ずかしさを隠すように、桃を食べる。シャクリと音がした桃は、今まで食べたことがないくらい甘く、瑞々しかった。
「これ、美味しいですね」
「千年桃と申します。滋養強壮に効果があります。疲れを感じている者ほど、甘く、美味しく感じるのだとか」
「そう、ですか」
圭にとって、人の世は生きづらかった。仲間は死んでいくし、異形が見えないものには頭のおかしいやつだと思われる。苦しくて、辛い世界で、まるで。
まるで今、天国にいるかのように、心が癒されていっているのがわかる。
生贄として隠り世に来たのに、今も仲間達は低級の異形たちと死闘を繰り広げているのに、こんなことは思ってはいけない。だけど、隠り世はとても息がしやすい。
「千年桃は、1000年に1度しか実をつけないのですよ」
「えっ」
「大変貴重なものでございます」
「ぼ、僕全部食べちゃったんですけど!」
そんな貴重なもの、もっと偉い者たちのためにとっておくべきなのでは? と、顔が汗ばんでいく。
「薫子様が、圭様に食べさせるようにと」
「そんな貴重なものを……?」
「薫子様は、圭様を大切に思ってらっしゃいます」
「そう、ですね」
言葉の通り、圭のこと以外どうでも良いとばかりの、薫子の態度が思い出される。
「あの、柊さん。お願いがあるんですけど」
*****
夕食時、どこに行っていたのかわからない薫子が帰ってくる。卓に並ぶ夕食を見て首を傾げた。
「なんじゃなんじゃ、今日は洋食か珍しい」
「圭様のお手製でございます」
「なんと!」
驚いた顔でこちらを見る薫子に、思わず顔が熱くなる。オムライスを作るつもりだったのだが、まともな料理経験のない男に上手くできるはずもなく、チキンライスに炒り卵が乗っている状態だった。ちなみにチキンライスも、挽肉が固まっていたり、玉ねぎが大きすぎたりと、とても美味しそうな見た目ではない。何度も柊に「やっぱりやめときます!」と言ったが「薫子様に私が怒られてしまいます」と言われ、出さざるを得なかった。
「上手く、できなかったんですけど、その、桃のお礼にと」
「圭はまことに愛いのう。ではいただくとしよう」
上手い上手いと大袈裟に褒めながら食べる薫子に習って、圭もスプーンを手に取る。卵は硬いし、ケチャップは薄いし、挽肉は焼きすぎだしでどこにも美味しい要素なんてない代物だったが、薫子は5分ほどで平らげてしまった。
「おかわりが欲しいの」
「圭様はたくさんお作りになられましたよ」
「なんと! 全部盛って参れ」
「かしこまりました」
そんな感じであっという間に大量に作ったオムライスのような別の何かは、全て薫子の中に収まってしまった。異形は人間とは作りが違うとはいえ、薫子の味覚は圭たちと大差なかったはずなのに。
なんだかとても恥ずかしくなって、必死に話題を探す。
「と、ところで、薫子先輩のお仕事って?」
「あぁ、それならもうあらかた『片』がついたから安心して良いぞ」
「片?」
なんて事のないような笑顔で、薫子は恐ろしいことを口にした。
「圭との結婚をよく思っておらん奴らを皆殺しにしておった」
「……は?」
「人間だなんじゃと頭の硬い奴らだったからの。梅の木の養分にしておいた」
「え」
この1ヶ月間、圭は殺気や攻撃意思などを感じ取ったことはなかった。てっきり、結婚自体が皆に歓迎されいるのだとばっかり思っていたが。もしかして悪意が向く前に薫子が片付けてくれていたのか?
「影の者は人間のように嘘はつかぬ。歓迎せぬ奴は殺してしまうからな。圭に手を出される前に根絶やしよ」
「それってどれくらい……」
「上級の者が4分の1になりましたね」
「はっはっはっ! わらわに逆らうなんて命知らず、いても大して役に立たん」
いつもそうだった、薫子は「圭以外はどうなっても良い」と言う態度だった。それは相手が人間だったからだろうと思っていたが、まさか異形相手にも適応されるなんて。
「そんな、僕、何も……」
「なんでそんな顔をしておるのじゃ? やっと安心して寝られるぞ! 住みやすくなったんじゃから、人の世の疲れを癒すが良い」
柊を見れば、諦めたように微笑まれる。なるほどこの感性は影の者の中でも異端だと言うことがわかる。自分のために同胞まで殺したとなれば、怒るのも違うし、悲しむのも違うし、一体どんな態度をとればいいのかわからなかった。
「それで、その……圭や」
「はい?」
思い悩んでいると、少し顔を赤らめた薫子が、こちらを見上げている。
「また、作ってくれぬかの? その、気が向いた時で良いんじゃが……」
こんな殊勝な姿を見せられると、自分に見せている顔と、それ以外に見せている顔のギャップが大きくてズッコケそうになる。でもそれが、確かに可愛いと感じてしまった。
「えぇ、もちろん」
*****
ここに来てからの日付を数えるのをやめた。どうせ数えたところで何にもならない。ただ、あの日は桜が咲き始めた頃だったが、今はこうして梅の花が咲いている。そういうことを考えるようにしている。
あれから毎日のように厨に頼んでご飯を手伝わせてもらっている。厨番が作った方が上手いのは確かなので、ジャガイモを剥くなどの簡単なことなどを。それでも柊が「これは圭様が切られました」などといちいち報告するので、その度に薫子は嬉しそうである。
影の者の勉強も始めた。歴史などをまとめた書物があったので、そちらを読ませてもらっている。首領の妻として、お荷物にならない程度の知識がないと、後々困ってしまうだろうから。
とはいえ、あと数十年の命、薫子は愛玩動物でも愛でているだけなのかもしれない。
そう思ってしまうのは、一度もそれらしいことを言われたことがないからだ。OLがペットの犬を「ただ家にいてくれるだけで癒される」と思うのと同じ感覚ではないかと思う。それにしては執着がすごいが、お猫様の奴隷になる人間がいるように、気に入った人間を溺愛しているのが楽しいのかもしれない。
でも、それでも良いと思えるくらい、薫子は圭に対して真摯だった。
ある日ボソリといった、異形が見える自分にも愛情を注ぎ続けてくれた家族が心配だとの言葉。それを聞いた薫子はその日のうちに実家に結界を張ってくれた。さらには、両親と姉に、影の者の護衛もつけてくれると言う。
「トラック程度なら跳ね返せるやつにしといたからの」
なんて、なんてことないように言われて、泣いてしまうほど嬉しかった。
感性も、感覚も確かにずれている、でも、注がれる愛情は紛れもなく本物だった。ストックホルム症候群と言われても仕方ないかもしれないが、それでも確かに、薫子のためにできることをしたいという想いが、圭の中に生まれていた。
梅の花を見ながら、歴史書を読む。今日は朝からムズムズと額がかゆい。人差し指でぽりぽりと掻きながら、気になったところをメモしていく。あとで柊や薫子に質問するためだ。
「ここにおったか」
「薫子先輩」
「良い練り切りが手に入ったから、一緒に食べよう」
「はい」
本を閉じて立ち上がると、薫子が「ん?」と呟いて、圭の顔をじっと見る。微妙に目線が合わないそれは、圭の額をじっと見ているようだった。
「ちょっとよくお見せ」
顔に伸ばされる手に沿うように、ほおをつけると、薫子はこめかみに手を置いて親指で額をさする。
「何か変わったことは?」
「朝からおでこがちょっとかゆいです」
「ふむ、ふむふむふむ! ふふふふふ!」
薫子は圭の顔から手を離し、梅の花が綻ぶように笑った。
「圭、お前、影の者になってきとるな!」
「えっ」
「ふふふ! 会うたびに気は注いでおったが、そうか! ふふふ!」
ぐりぐりと頭を撫でられる。そういえば稽古をつけてもらっていた時も、上手くいくとよく頭を撫でられていたことを思い出した。
「気はな、受け取る気がなければ流れていってしまうものなんじゃ」
「え……」
「ふふふふふ!」
つまり、僕は自らの意思で。
少女のように笑っていた薫子は、急に頭を撫でていた手つきを変えて、なぞるようにほおに指を這わせて、それから圭の顎を掴む。
「今晩、わらわの部屋においで」
「えっ!」
「怖がらなくとも良い。目一杯優しくしてやるからの」
そう言い残して、それはもう楽しそうにスキップしながら、薫子は行ってしまった。その時圭の胸を締め付けた、甘く切ない痛みは、
確かに幸せだった。
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