第20話 エルフの集落にて
「物凄ぇ威圧飛んでぎだがら慌でで来てみれば……オーガ族ど小人族? 珍しぇ組み合わせでねが」
「いや、このふとたぢはたぶん人族でねがしら? それにしてもこんた秘境さ人族なんて珍しぇ」
目の前のエルフたちがこちらを見ながら何か話している。いや、話している内容は理解できるのだが、いかにせん訛りすぎているので本当に理解できているのかわからない。
このどこか東北地方を思わせるエルフたちの訛り方に、思わず後輩と顔を見合わせてしまう。
彼らの口元と聞こえてくる言葉がリンクしていないので、おそらく手に入れた沢山のスキルの内の一つが頑張ってこちらにわかりやすいように翻訳しているのだろうが、それにしても訛っている。
「……え、もしかして翻訳バグってます? 私だけ?」
「いや、俺にも訛って聞こえる……」
後輩の何とも言えない表情とその言葉に、こちらも同様の反応しか返せない。
「そこのおめがだ。こさ敵意はねのね?」
たぶんこちらに敵意はないのかを確認されているのだろう。美しい顔を少し傾げて問いかけてくる女性エルフに、二人して武器を下ろして戸惑いがちに頷く。
そもそもどうしてこちらが敵意を持っていると勘違いされているのかがわからなかったが、彼女らの案内で連れていかれた集落の一室でその理由を教えてもらい、集落に要らぬ混乱を巻き起こしてしまったことで誠心誠意頭を下げることになってしまった。
訛った四人のエルフに囲まれて連れてこられたのは、先ほどまで覗き見していた集落であった。
集落の周囲には頼りない木の囲いがあり、連れられるがままそれを抜けて中に入れば、遠くから見えていた集落の全貌がよりはっきりと目の前に現れる。
一面に広がる豊かな農園にたわわに実る野菜たち、そして樹の形態を上手く生かして作られた美しいツリーハウスたちに、思わず周囲を見回しながら感嘆の息を漏らす。
突然現れた客人にエルフたちの視線は自然とこちらへと向けられるが、思っていたよりも鋭い視線は無い。どうやら秘境に現れた人族という珍しさに好奇心の方が勝っているようだ。
「とりあえず集会所でえぇが。そごで話聞がせでもらうがらな」
四人のエルフの中でもひと際背が高い男がそう言って迷いなく先導していく。
前後左右を囲むようにして連れられた先は、こじんまりとした木造の小屋であった。
扉を開けると、大きめの円卓を囲むようにいくつかの椅子が置いてあるシンプルな内装で、壁にある棚には茶器や皿が並べられ、暖かみのある色彩のタペストリーや窓際の観葉植物が、シンプルさの中にアクセントを加えている。
促されて椅子に座ると、小柄な女性エルフが目の前に温かな飲み物が入ったカップをそっと置いてくれた。湯気に乗ってふわりと香る花のような甘い芳香に、後輩がどこかホッとしたような表情を浮かべているのが目に入る。
女性エルフは後輩の表情が和らいだのを見て、穏やかな視線を向けたままお盆を胸に抱えてニコリと笑う。
そして四人のエルフたちもそれぞれ席に着くと、背の高い男性エルフがゆっくりと口を開いた。
「まずは名乗るべが。おいだばイシリオン。隣のずっと黙ってら男はスーリオン、ニコニコ笑ってら小っさなエルフはアイナリンド、最後はアレゼル、ここの集落の中では一番若ぇ女エルフだ。おめがだは? 」
紹介されたエルフたちは、それぞれ手を軽く上げたり笑顔を向けたりとやけに好意的で、出会った時に感じていた警戒心もだいぶ薄れているように感じる。
「ええっと、俺は志狼、隣は………」
「凡と言います」
「ふぅん、シロウとチカな」
そんな彼らに戸惑いながらも名前を告げると、イシリオンと名乗ったエルフは顎を摩りながら思案するようにこちらをジッと見つめた。
物凄く訛っているのはともかくとして、見たこともないような極上の美形に真っすぐ瞳を向けられると、たとえ同性であっても顔面から感じる圧が凄い。
その美しいエメラルドの瞳にすべてを見透かされているようにも感じて、なんとも落ち着かない気持ちになってしまい、なんとなく目をそらしたくてソワソワしてしまった。
そんな気持ちを察したのか、イシリオンはニカリと人好きのする笑みを浮かべると、茶を手に取りながら口を開く。
「さで、そいだば事情聞がせでもらうよ。この集落さ何の用事があって来だんだ? 」
「えっ、用事? 」
「なんだその顔。用があったがら集落覗いでだわげでねのが? 」
心底不思議そうに尋ねられ、呆けた声を出しながらも言葉に詰まる。
用事はあるような、ないような。深い森の中に後輩と二人で放りだされ、うろついた先でようやく人里を見つけたので好奇心から覗いていましたなどと素直に言っていいものかと迷う。
しかも第一異世界人である。世界を跨いでの交流は勢い任せとはいかず、だからこそ慎重に慎重を重ねて遠くから覗いていたのに、なぜか気付かれてしまった。
「こごは秘境も秘境、人族なんて滅多にどごろが、入った途端さ死ぬような人外魔境だぞ? こっちに大層な威圧するぐらいだ、なんかおいがだに大事な用があるがらそんたんでねのが?」
「人外魔境? 威圧? 」
こちら側の本気の困惑を感じてか、イシリオンが接触するまでの経緯を話してくれた。
普段は穏やかな森が朝からざわついていたこと、そして昼頃から感じ始めた視線に、集落の人々はどことなく不安を感じていたらしい。
そして突然向けられた強烈な威圧感に、何か集落に危険が迫っているのではと思い、集落の中でもより強い者たちが集まり、こちらへと接触を試みた。
「先輩、もしかして……さっき習得したスキルのせいじゃないです? 」
「……あ、【威圧】スキル! ってことは俺のせいか?! 」
「いやぁ、私の視線も感じ取られてたみたいですから、私たちのせいってことですよねぇ……」
そう言いながら互いに汗をにじませつつ顔を見合わせ、そして頷く。
「「たいっへん、申し訳ありませんでしたぁぁぁっ!!」」
二人して椅子から飛び上がると、地べたに這いつくばって誠心誠意、土下座をした。




