表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/27

20・魔獣との戦闘と、愚か者達の地獄絵図

 ――騎士団の方々が、巨大魔獣へと向かってゆく。


 魔獣には大鷲のような翼があり、人間が立っている地面から剣で直接攻撃することは難しい。

 なので皆さん魔石を用いて魔法を使い、魔獣の翼を狙い撃つ。

 けれど魔獣は素早くて、巨躯を器用に翻し、騎士団からの攻撃を避けていった。

 ぐわりと獅子のような口を開き、そこから炎のブレスを吐き出す。


「ぐ……っ!」


 咄嗟のことで対応が遅れた騎士の一人が、炎のブレスの犠牲になりかけ――


「大丈夫か」


 アートルムがその騎士を庇いながら、颯爽とブレスを避けた。

 私も聖女として、実は普通の人々の目には見えない、結界のような防御魔法を皆さんにかけているのだけど。そのことが発覚してリリーナがまた「あれは私の力なのよ!」とか言い出しても厄介なので、アートルムの活躍に感謝する。聖女の力があるので、アートルム含め皆さんが命を落とすことはないのだけれど、できればそれを知られたくはない。


 どちらにせよ、結界などで追い払うだけでは、この魔獣はまた襲ってくるだろう。今、この場で浄化しなければならない。


(でも、こんなにも大きな魔獣は初めて……。浄化の力も使ってはいるんだけど、少し時間がかかりそう)


 さっきから、他の人々に気付かれないよう無詠唱で聖女の祈りを捧げている。

 しかし今まで遭遇してきたどんな魔獣より強い、聖なる力への抵抗力を保有しているようで、なかなか浄化できない。


 その間にも、アートルムや騎士団の方々は戦い続ける。

 中でもアートルムの強さは桁違いだ。まるで剣舞のように魔法剣を振るい、刀身から発せられる魔法によって魔獣を攻撃する。激しい炎や雷撃が魔獣を包み、唸り声を上げさせていた。上級の魔石を用いた魔法剣でも、これだけ見事な攻撃は見たことがない。


 アートルムはまるで、魔石なしで自在に魔法を使っているみたいだ。他の騎士達は彼に鼓舞され、勇敢に魔獣に立ち向かう。アートルムはそんな周囲の人々を守りながら、的確に立ち回っていた。


「さすがはオブシディア辺境伯……!」

「なんて強さだ!」

「皆、オブシディア辺境伯に続け!」


 オオオオオ、と勇敢な声を上げ、次々と魔法剣から魔法攻撃が放たれる。

 炎や雷撃が縦横無尽に宙を舞うその様子は、まるで熱と光の祭礼だ。


(このまま、アートルムや騎士団の皆さんが時間を稼いでくだされば、魔獣の浄化ができる……!)


 そう希望を抱いていたところで、再び気持ちを翳らせるような声が聞こえてくる。


「おやめください、危険です!」

「うるさい、こんなところにいられるか! 俺は自分の屋敷に帰る!」

「今、外に出る方がかえって命とりですよ!」


(ヴォイド、何してるの……!?)


 どうやら、城が魔獣に襲われているという状況でパニックになり、自分だけ屋敷に逃げ帰ろうとしているようだ。兵士さんが呆れた様子でヴォイドを止めているが、ヴォイドの方は聞く耳持たず、といった様子である。


(リリーナといい、どうして次から次へと、周りに迷惑をかけるようなことをするのよ……! じっとしていることすらできないっていうの!?)


 しかも、これはかなり厄介な事態だ。

 ヴォイドは「魔獣を引きつけてしまいやすい」特異体質。

 彼が発する匂いに、魔獣は、惹かれてしまう。


「gaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」


 ぐわりと大きな口を開け、鋭い牙を覗かせて、魔獣がヴォイドへと突進する。


「ひいいいいいいいいい! ぎゃあああああああああ!!」


 ヴォイドは泣き喚いて逃げ惑い、彼が走ったその方向には、リリーナがいて――


「ちょっと、こっちに来ないでよ!」

「魔獣が追ってくるんだから、仕方ないだろ!」

「だからってなんで私の方に……! そうだわ!」


 リリーナは、火事場の馬鹿力のようにグイッとヴォイドを引っ張って自分の前――魔獣の前に突き出す。


「ひぎゃあああああああああああああ! 何をするんだ、リリーナ!」

「ヴォイド様、私の盾になって! あなたは私を愛しているのだから、私のために死ねるなら幸せでしょう!?」

「ふざけるなああああああ!! 誰がお前なんかのために死ぬかっ!」

「私や、他の皆さんを守るための尊い犠牲になれるのよ、光栄に思いなさい!」

「いいかげんにしろ、この性悪女め! お前も道連れだ!」


 ヴォイドはリリーナを引っ張り、ぐいぐいと魔獣の前に突き出そうとする。


「いやああああああああ、信じられない、この人でなしっ!」

「それはこっちの台詞だあああああああっ!」


(……この2人、数ヶ月前『真実の愛』どうのこうのと言って、舞踏会でイチャイチャしていたのと同一人物よね……?)


 あれほど私の前で、真実の愛がー運命の相手がーと主張していたのに。

 今はもはやお互いに、どちらが犠牲になるか押し付け合って鬼のような形相をしている。まさしく、醜悪な地獄絵図だ。


「まったく……本当にどこまでも愚かな奴らだな。だが魔獣を引き付けておくという点では、今この状況では、ほんの少しくらい役に立っているか」


 魔獣がヴォイドの匂いに惹かれて宙から地へ降り立ったため、さっきまでより攻撃しやすくなっている。魔獣がヴォイドの方に夢中になっている隙に、アートルムは魔法剣から魔法を放った。


「gaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!」


 魔獣は苦しそうな叫びを上げ、アートルムの方を振り返って暴れる。

 鋭い爪が、アートルムの身体を引き裂きそうになって――

 その爪は、見えない壁に阻まれるように、バチンと弾かれた。


「なんだ、今のは!? 辺境伯の前に、見えない防壁があるかのようだったぞ!」

「どうなっているんだ。まるで聖女の加護を受けているようだ」

「もしかして、これが聖女の力なのか!?」


 騎士さん達は、念のためリリーナの方を確認する。

 しかしリリーナは、先程の魔獣が眼前に迫る恐怖に耐えられなかったようで、ヴォイドともども白目を剥いて失神している。


「……ユーリア、ありがとう」


 気のせいか、アートルムの唇が、そう動いたように思えたのだけれど……。

 気のせいだよね? アートルムは、私が聖女だということを知らないし。


 ともあれアートルムは、凛と魔法剣を魔獣に構えなおし――


「さあ――魔獣よ。これ以上、罪のない人々を混沌に陥れるのはやめてもらおう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ