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森と池には何かが潜む(後)

 しかし、今日ばかりは怪奇現象について語らねばならないらしい。それはどうももうすぐ来るというゲストと大きく関係する、と宵闇よいちは語る。このゲストが誰なのか、それをとある理由で悟った者達もネタバレのコメントはしなかった。


 それにしても、宵闇よいちは時折脇に立てかけたタブレットへ視線を移していた。どうやらタブレットには何かを映しているようだが、あいにくリスナー達からは死角になっていて何かは分からない。


「まあいい。どうせ本命の時間稼ぎだ。今日一日限りの特別編と銘打って続けるとしよう。もう少しだけ付き合いたまえ」


 ■■■


 ある山奥に広がる深い森には、昔から恐ろしい噂が囁かれていた。その森には「迷いの森」と呼ばれ、入った者が必ず道に迷い込んでしまうと言われていた。ある若者がその噂を信じずに森に入ったことから、恐ろしい出来事が始まった。


 若者は友人と共に迷いの森に入った。最初は楽しげに歩き回っていたが、やがて分け入ってはいけないとされる場所に迷い込んでしまった。そこは不気味な雰囲気に包まれ、木々の影が長く伸びているように感じられた。


 若者たちは必死に道を探し回ったが、どれだけ歩いても同じ景色が続くばかりで、元の道に戻ることができなかった。夜が更けるにつれて、森の中には不気味な声が聞こえ始め、木々が異様な影を作り出しているように見えた。


 やがて、若者たちはひとりの老婆に出会った。老婆は不気味な笑みを浮かべ、若者たちに道を教える代わりに、彼らの体験を話すように要求した。若者たちは戸惑いながらも、彼女に出会ったことや迷い込んだ経緯を話し始めた。


 しかし、話すうちに若者たちは不気味なことに気づいた。老婆は若者たちが実際に森に入るよりも前から知っていることを話しているのだ。さらに、老婆は自分たちが迷い込んだ場所を知り尽くしているかのような発言をしていた。


 若者たちは恐怖を感じながらも、老婆からの指示通りに話を続けた。すると、老婆は突然、姿を消し、その代わりに森の中に不気味な笑い声が響き渡った。若者たちは急いでその場を離れ、なんとか元の道に戻ることができた。


 その後、若者たちは迷いの森を脱出し、無事に町に戻った。しかし、彼らはその日の出来事を決して忘れることができず、迷いの森が持つ不気味な力を改めて知ることになった。


 そして、以降、迷いの森への入り口は封鎖され、その森の存在は町の人々によって忌み嫌われるようになったのであった。


 ◇◇◇


 幾つかの怪奇談が終わった頃だった。インターホンの音が配信内にも鳴り響いた。宵闇よいちは今度は体ごとタブレットの方へ向き、操作をすると、「鍵は開いている。遠慮なく入りたまえ」と応答した。


 そして事前にリスナー達に知らせることもなく固定カメラの位置を変え、玄関から入ってきた来訪者の姿を画面に映した。それには半分以上のリスナーが驚き、そして何割かのリスナーが大いに盛り上がった。


 来訪者ことVdol冥道めいは、丁寧にお辞儀をした。


「お初にお目にかかります。冥道めいと申します」

「よく来てくれた。私、宵闇よいちは君、冥道めいの来訪を歓迎する」


 まさか、と驚いていたリスナー達は慌てて自分達のスマホやパソコンを操作し、冥道めいの公式チャンネルに繋げる。彼女もまたゲリラ配信を行っており、マンションを探索したうえで怪奇をくぐり抜け、宵闇よいちの部屋まで辿り着いたらしい。


 冥道めいの生配信と宵闇よいちの生配信、カメラワークこそ全く違ったが、同じ空間で同じやり取りをお届けしていることこそ、この邂逅が作りものでないことの何よりの証だった。


「お茶とお菓子ぐらい用意したかったけど、要らないんだったかな?」

「ええ。わたくしは機械ですので」

「ジョークだと笑えないのが恐ろしいところだ。現在のAIの進化は加速度的だものね。けれど人間の動きを真似できる機械人形を作る技術力はまだまだ数十年先に期待、という理解だったけれど?」

「それを含めて宵闇よいち様に事情を伺いたく、本日足を運んでまいりました」


 宵闇よいちは深くため息を漏らしてから、テーブルの上のせんべいを二つに割ってから口にし、半分食べきった後にお茶をすすった。配信内でも同じようなことを何度もやってリスナーからババ臭いと言われたものだ、と宵闇よいちは思い出し笑いする。


「じゃあ語ろう。このマンション、ヴィンテージヴューヴィレッジに何が起こったかを」

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