廃屋の無き脱出口(後)
しかし、冥道めいが来店してさほど時間が経たないうちだった。突如テレビ等の映像が切り替わった。
ノイズの激しい血のように真っ赤な画面の中。
黒い人型の何かが淡々と喋っていた。
機会的な音声は未知の言語を喋っており、リスナーは全く理解できず、不気味さだけを覚えた。
「……ふむ、向こうからアプローチがあるとは都合がいい。そうですね、せっかくなので、これを同行者の皆様にも分かりやすくフィルターを外してしまいますか」
冥道めいは軽く唸ってから店内で一番大きなテレビの前にやってきた。そして背面に刺さっていたアンテナ端子を抜いて片方の手で握り、もう片方の手をテレビ側の差込口に添えた。
すると、真っ赤だった映像が波打って乱れ、次第に正体を現したのだった。
■■■
かつて、町の中心にある古い病院で、恐ろしい出来事が起きたという噂があった。その病院は戦時中に建てられ、その後も長い間、患者たちを受け入れてきたが、ある日を境に閉鎖され、廃墟と化していた。
ある夜、若いカップルがその廃病院を探検することになった。二人は廃病院の外観を見て、不気味な雰囲気に包まれながらも建物に入っていった。廃病院の中は薄暗く、床はひどく傷んでいた。しかし、二人は興味津々で病院の中を探索し始めた。
廃病院の中には、かつての医療機器や患者のベッドがそのまま残されており、壁には落書きや血痕が残っていた。二人は怖いと感じながらも、廃病院の奥にある手術室を見つけると、そこに入っていった。
手術室の中は特に不気味で、かつての手術用の器具や手術台がそのまま残されていた。二人は手術室を見て回り、突然、手術室の奥から女性の悲鳴が聞こえてきた。二人は驚き、その悲鳴の方向に向かって走り出した。
すると、手術室の奥にある部屋で、若い女性が恐ろしい表情で座り、何かを叫んでいた。二人は女性をなだめようと声をかけると、女性は突然、二人に襲いかかってきたではないか。二人は命からがら逃げ出し、廃病院を後にした。
その後、二人は警察に通報し、廃病院の調査が行われた。しかし、手術室の奥の部屋には何もなく、女性も姿を消していた。警察は調査を続けたが、その後も女性の正体や出所はわからなかったという。
廃病院は再び封鎖され、誰も近づかないようになった。しかし、その廃病院には未だに不気味な気配が漂い、夜になると女性の悲鳴が聞こえるという。その廃病院は今もなお、町の人々を恐怖に陥れていると言われている。
◇◇◇
フィルターが外された映像は、まさしくVdolの配信だった。
少女のアニメ調三次元モデルが身振り手振りを交えて超常現象を紹介している。
そして、リスナーは彼女が誰なのか、すぐに分かった。
「やはりそういうことですか。幽幻ゆうな様の配信で映っていた新聞の記事もこの方の配信に沿った内容でしたから、もしやとは思っていましたが……」
彼女は幽幻ゆうなや冥道めいと似て非なるジャンルを取り扱う個人勢Vdolだった。ニュース調に読み上げるのは超常現象について。時には有名雑誌の記事を紹介し、時にはリスナーからの投稿を語り、時には持論を交えて考察する。
もっとも、彼女の配信では超常現象紹介がメインではあったが、趣味の域は超えていないと評するべきだろう。一番受けがいいのはゲーム実況、次がちょっとズレた雑談だったりする辺り、彼女への評価はお察しである。
しかし、そんなありふれたマイナーVdolが巷で騒がせている幽幻ゆうなのマンションに関わっていると、誰が想像しただろうか。それも他のUdol達と異なり、明らかに彼女は怪奇側の住人ではないか。
「Vdolの宵闇よいち様。彼女を探し出す他ありませんか」
彼女、宵闇よいちが自身の配信にフィルターをかけて放送し、新聞を発行しているとしたら、彼女もまた幽幻ゆうなと同じマンションに住んでいる。であれば、このマンションに取り付く異変についても何か把握しているかもしれない。
そんな決意を新たにしていると、宵闇よいちが語りを中断し、わずかに微笑んだ。
そして、画面越しで眺める冥道めいを見つめ、口を開いた。
「ようこそ冥道めい。ヴィンテージヴューヴィレッジ(Vintage View Village)へ。私達は君達の当マンションへの来訪を歓迎しよう」




