先進的作品を飾る美術館(後)
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とある街にあった美術館は、閉鎖後に建物が放置され、周囲からは忌み嫌われる存在となっていた。
とある夜、建物に立ち入った若者たちが、かつての美術館の名残を探し回っていた。彼らは古い絵画や彫刻を見つけ、それらを手に取りながら語り合っていた。
すると、一人の若者が古い絵画を見つけ、それを持ち上げると、その下からふとした拍子に隠された扉を発見した。若者たちは興奮し、その扉を開けて中に入っていった。すると、そこには美術館の収蔵品が保管されていた秘密の部屋が広がっていた。
部屋の中には様々な美術品が置かれており、その中には美術館が展示していたことのない未知の作品もあった。若者たちはその作品を見て驚き、その美しさに魅了されていた。しかし、その美術品の中には奇妙なものもあり、それを見た者は不気味な違和感を覚えたという。
やがて、部屋の奥にある大きな絵画が若者たちの目に留まった。その絵画には美術館の創設者である男性が描かれており、彼は微笑みながら若者たちを見つめていた。若者たちはその微笑みに不気味さを感じ、部屋を後にすることに決めた。
しかし、その夜以降、若者たちは次々と不可解な死を遂げていった。そして、最後に残された一人の若者が警察に自首し、その美術館での出来事を証言した。彼はこう言い残し、消息を絶ったという。
「あの絵画の男性が夢に出てきて、私たちを呼び寄せた。私たちは彼の元へ行かなければならないのだ」
その後、美術館の秘密の部屋は封鎖され、その絵画は二度と誰の目にも触れないようにされたという。しかし、未だにその美術館にはその男性の幻影が現れるという噂が絶えないのだった。
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蒼空遊星の生配信を皮切りに、幽幻ゆうなのマンションを特定する者たちが現れ始めた。ネット上の掲示板スレッド内で特定班がコレだとする情報を書き込み、スレ民が早速突撃を試みた。
そんな突撃班の一人、鈴木直哉(仮名)は冥道めいや蒼空遊星が見せた操作を真似てエレベーターを動かしたのだが、彼がやってきたのは美術館のあるフロアだった。困惑しながらも彼は美術館の中へと入っていく。
既に深夜の時間帯を回っていた中での来場だったこともあって他の客は誰一人としていない。幸か不幸か、幽幻ゆうなとはちょうどすれ違ったため、彼女と会うことはなかったのだ。
そう、幽幻ゆうなが切り上げる時間、すなわち午前零時を回っていた。
そして鈴木直哉は見落としていた。この美術館の開館時間は午前零時までだと。
日付をまたいだ瞬間だった。美術館内の照明が落とされ、非常照明に切り替えられる。それは館内退避のための必要最低限の光源であり、美術館内は薄暗さに支配されてしまった。その中で足元の非常照明や非常口を知らせる緑と白の光だけが煌々と灯る様子は、不安を招き寄せた。
しかし、そんな変化は鈴木直哉にとっては些細な出来事だった。なぜなら、彼の身に今まさに想像を絶する恐怖が襲いかかっていたからだ。
悪魔とも災害とも違った、異型のクリーチャーが、天井を伝って這い寄ってくるではないか――。
鈴木直哉は悲鳴を上げながら全力で駆け出した。薄暗い中を必死になって出口を、エレベーターホールを目指す。しかしぐちゅぐちゅといった生々しい音が耳から離れない。それが彼の恐怖を更に煽った。
そんな彼の姿が監視カメラに捉えられた直後、彼の動きがぴたりと止まった。
正確には、監視カメラから発せられた不可視光の照射を浴び、鈴木直哉は石に変えられてしまったからだ。
クリーチャーは石像となった鈴木直哉を伸ばした触手で持ち上げ、移動させる。
そこは幽幻ゆうなが先ほどまで眺めていた『逃亡者達』の石像アート群だった。
新たな芸術となった鈴木直哉はその後も多くの人の見世物となったのだった。




