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第一話

「……さ…ん……のせさん」


(ん?何か聞こえる)


「…いちのせさん……」


(あたしを呼んでる?)


「え……」


何だかすごく寝た後のようなダルさが襲い、言葉に詰まる。頭が重く、開こうとした目が開かない。


「あっ!いちのせさん!起きてくれましたか?」


再び誰かが誰かを呼ぶ声が聞こえる。


(だれ?)


声が出ずに頭の中で、そう答えながら重いまぶたをゆっくり開け、その声の主を探した。


「やっと起きてくださいましたか。よかったぁ〜ちょっと通常より手こずってしまいました。これは、わたくしの……」


最後の方はゴニョゴニョと、何を言っているのか分からない。

視界がはっきりしてくると、声の主らしき人が私をのぞき込んでいるのがわかった。


そこには、ツヤツヤに光るサラサラした髪が揺れ、鼻筋が通り、はっきりとした二重の大きな瞳、薄い唇に白い肌の極めが整ったキレイな顔があった。


一瞬、その顔に見とれ吸い込まれそうになりながらも見覚えもないことに気づき「ダレっ!?」と、やっとの言葉が出た。


「はじめまして、いちのせさん。わたくしナカシマと申します。中学生の()に島根県の()で中島です。」と深々頭を下げた。


「中島さん…よく分からないんですが、わたしに何か用ですか?あれ?わたしは何をしているんでしょう?」


辺りを見回し、自分に何が起っているのかを把握してみようとするが、頭が追いつかない。


今わたしは、フワフワした白い布団に寝ていたようで起き上がろうすると手が布団の中に食い込んだ。

更に布団以外は、雲一つない空のような辺り一面水色1色の空間に囲まれている。よく見ると下は全てフワフワ布団だ。

その上に、中島と名乗る20代と思われる男が、つなぎの作業着を着て立っている。よく見るとそこには、私と中島と名乗る男だけしかいない。

徐々に視野が広がり、ボヤっとしたモヤが消えていく。

圧倒される今まで見たことのない景色に、「ココは何処だ?!」と思わず叫んだ。


「驚きますよね。実は、わたくしが、()()()()()()()()しまいまして……」


中島は、たどたどしくそう言った。


()()()()()()()()って何ですか?」


私が聞くと中島は、いきなり白いフカフカ布団の上に

座り込み正座をし、両手を伸ばして頭を布団に突っ込んだ。

これはまさしく土下座だ。


「いちのせ樣!大変申し訳ございません!今回わたくしが()()()()()()()()しまったことにより、いちのせ樣には関係の無い、()を与えてしまいました!」


勢いよくそう叫ぶ中島は、ひたすら頭をさげた。


「死…ですか…。つまりわたしは死んだという……。待って…死んだ?わたしが死んだ??えっ?何?しかも()()()()って??どういうこと?!間違って死んだ?どうやって??意味が全く分からん!!ちなみに()()()()()()()()は何よ!!」


段々と、この奇妙な空間の意味が見えてきた。

信じたくない現実を受け入れようと努力してはいるけれど、何が何だかさっぱり突拍子もなさすぎて黙っていられない。と同時に徐々に悲しみや怒りが込み上げてくる。


()()()()()()()()とは、本来ココに呼ぶべき相手を間違えてわたくしが居るべきでは無い相手を引っ張ってきてしまった。ということです。()()()()()()()です。そしてイチノセ様は今、雲の上にいらっしゃいます。」


薄々そうだろうな…とは思っていたけど、ホントに雲の上に立てるのはドラえもんの道具だけだとおもっていた。

それにしても「間違えてあの世に連れていかれることもあるんだよー」なんて話は産まれてこのかた聞いたこともないし、そもそも「間違えた」で済まされる話じゃないよな。


寝て起きたらいきなり「死んだ」と言われ頭の中で脳がフル回転する中で、あたしの人生終わってしまったという事実だけがどっしりと重くのしかかり、思考を止めてしまう。


コイツのせいで。


「あ、でも間違えたのなら中島さんの責任で元に戻してもらえるんですよね?私は死ぬべき人間じゃなかったんだから。本来あなたが引っ張ってこないといけない人と入れ替えてくれればいんじゃないですか?」

自分で言いながら、そうよ、そうだよ。とうなづいた。


しかし、中島の色白の顔が真っ青になり「それはかなり難しいことでして、双方の同意が必要となります。来るべきだった人との交渉です。」と重々しく言った。


つなぎを着た若者に交渉術なんてあるのだろうか。

不安しかない。

でも、交渉してもらわないとわたしは死んだままになってしまう。


「双方の同意…それなら交渉してよ!こっちは全然同意しますから。勝算はあるんですよね?」

私は、中島に詰め寄り顔を睨みつけた。


「勝算ですか…何とも言えませんが、…そうなりますよね…やっぱりそうなっちゃいますよね………交渉しないとダメですよね……」


歯切れ悪くつぶやくと、覚悟を決めたように

「分かりました。その方向で話を進めさせていただきます。」と言った。


「ならサッサとやることやりましょ。何したらいいですか?」私が問い詰めると中島は、


「かしこまりました。その前にこうなってしまった原因やその時の出来事など色々と振り返って頂かなければなりません。そして今、いちのせ様は現世のことを全てお忘れになっている状態にあります。生活環境など様々なことを思い出していただくことが重要です。また、こちらの世界のお話も聞いていただかなければなりません。」


そう言われると、あたしは何をしてたんだっけ?と考えてみても何も出てこない。名前は?そもそも私はイチノセなのか?どんな字を書くんだっけ?というか、下の名前も出てこない。家族は?結婚とかしてた?え?わたしは何歳なの?嘘でしょ、本当に何も思い浮かばない。


パニックになる私をよそに、中島は大きく両手を頭の上に広げ「ヨイショ」と腕を下へ振り下ろした。

すると水色一面の背景が、映画館のスクリーンのように変わり映像が全面に映しだされた。


「さぁ始めましょう。覚悟はできました。」


口調はハキハキしているが、中島のキレイな顔にどっと疲れが見えた。

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