第4話 公爵 サッカーをする
保育園に入って2年がたち私も5歳になった。父上と母上の隙を見計らいスマホを使って調べてはいるが元の世界に帰る為の手がかりはまだ何も掴めていない。
何をするでもなくただ時間を浪費していくだけの毎日。私は元の世界に帰ることが出来るのだろうか…。
今日も虚しく保育園で1人本を読んでいた。
他の子供たちと打ち解けることは意外にも難しく私は未だに孤立していた。
そんな私を見兼ねて先生が私をサッカーに誘ってきた。ふと外を見れば元気に走っている子ども達。
ふむ。運動は苦手では無いがサッカーとやらは平民がやっていたのを見た事あるだけで私自身やった事がない。
「侑くん、あそこにボールを蹴っていれたら1点入る、5点で勝ちね。数字は覚えてるかなー?」
「いち に さん しー ごっ。」
「おぉーよく出来ました!」
バカにされている様に感じなくもないが本来の5歳児はこんなものだろう。
フィールド内に入ればどこに居ればいいか分からず棒立ちになってしまう。蹴り入れる、と言われても私は途中参加だしボールは子供たちの奪い合いで見えなくなってしまっている。
さて、どうしようか。
少し離れたところに入れば1人が駆け出した。
あれは確かタケシくん。服の色が違うということは敵か。どうしよう、奪いに行くべきか?だが子供相手に大人が本気を出すのはなぁ…。
そんな感じで迷っていればゴールを入れられてしまった。
得点表を見れば2-4。
次で負けるのか。なら、
「ぼーる!!!ちょーだい!」
「…えいっ。」
遠くから声を貼りあげれば女の子が俺にボールをくれた。
よし、キーパーも前に出てるし行ける。
自陣のゴールのすぐ近くまで走りボールを追いかける子供達を引き離す。
ここからなら誰にも邪魔されずシュートを打てる。ただ子供のからだとは非力だ。届かなかったら恥ずかしいから少しだけ身体能力強化をする。
ボールを擦るように蹴り出せば子供たちの頭上をカーブする様に浮き上がりそのままゴールへと入っていった。
「…え?」
「よし、1てん。」
一瞬の静寂、からの子供たちの歓声。
「すっげー!!おまえすげーな!」
「ぷろ みたい!」
「かっこいい〜!」「いまのどうやるの?」
一気に色々言われすぎて分からなくなりそうだが子供は素直だからな、褒められるのは悪くない。1度しずまった時には正直子供相手に身体能力強化はやりすぎたかと思ったが不自然には思われてないようだ。
先生以外には。
「侑くん、いまの凄…スーパーロングシュートよ。大人でも難しいわ、サッカーやってたの?」
「えっとすこし。」
いや初めてだけどね。
怪しまれても面倒だから経験者ということにしておくか、ついでに身体能力強化も禁止だな。
3-4、あと2点頑張るか。
「あつむー!またねー!」
「ばいばーい。」
あれからゴール前に立ち相手のボールを阻み続けさり気ないアシストで自陣を勝利へと導いた。
子供相手に大人気ないと思われるかもだな私は負けず嫌いでな。子供にだって容赦はしない。
次から次へと親御さん達が迎えに来るが母上の姿が見えない。…遅いな。他の子供たちはみんな先に帰ってしまった。仕事が忙しいのか?
「侑くん、お母さん遅いね?来るまで先生と遊ぼっか」
「だいじょうぶ、ほんよむから。」
「そう…。読み方分からないところあれば言ってね!」
なんて話してから30分未だに母上は来ない。
少し心配になってきた、見に行きたいがそれは先生達が許さないだろう。遠くの場所を見たりなどの索敵魔法は適性がなく私は使えない。
使えたとしてもこの世界の魔素量では大した距離を索敵するのは不可能だろう。
そんなことを考えていればドタバタと廊下を走る音が聞こえた。
「すみません〜野澤です!侑、迎えに来ました遅くなってすみません。」
「は…まま!」
「侑くんママお疲れ様です〜。」
良かった元気そうだ。
走ってきたのか汗をかいているがいつも通りの母上だ。スーパーの袋、もしかして買い物をしてきたのだろうか?
はっ牛肉だ!今夜は牛か、悪くない。
「侑、帰ろうか。」
「うん!」
ヘルメットをかぶり自転車の後ろに跨りる。
「まま、ごはんなに?」
「今日は牛丼よ〜」
「ぎゅーどん!ぼくすきー!」
父上は建築士、力仕事なので身体が資本らしく大食いだ。1人の頃はそれはもう色んな所に食べに行ったらしいが当時実家の食堂の手伝いで料理をしていた母上に一撃で落とされた。
それくらい母上の料理は美味しく仕事がどんなに遅くなろうとも夜ご飯は家でしっかり食べる。
牛丼か、前すき田に食べに行ったことがあったがあれもとても美味しかった。楽しみだ。
夜ご飯に思いを馳せていると公園の前で急に自転車が止まった。
「まま?」
「ごめんね、侑ちょっと休ませて…。」
「だいじょうぶ?」
「座りっぱなしのお仕事でちょっと腰がね…でも大丈夫だから。」
自転車から降りてベンチに座る母上の腰を少し摩ってやるとありがとうと一言呟いた。ふむ、効果はイマイチだがヒールをやってみるか。
小声で呟けば背中がほんの少しひかり母上の顔色が良くなる。
「あれ…?痛くなくなってきた。」
「ほんと?」
「侑くんがさすってくれたおかげだね。ありがとう」
「うへへ。」
上手く行ってよかった。
家に帰れば珍しく早めに帰ってきた父上がいた。
迎えに行こうか電話しようとした所だったそうな。
家で食べた牛丼はとても美味しかった。