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十人恋色  作者: Toki.
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紫の恋色(4)


「紫織、遅いよぉ……」


口を尖らして、目の前にいる桃子はそう言った。


「ちょっと、色々あってね。そこで昇に助けてもらったのよ」


その言葉に、少しだけ桃子が反応した。私は、そのことに気付いているのに、知らない振りをする。


「え、あぁ……うん。えっと、そうだ。これから、友達と遊びに行くんだけど、桃子達も一緒に遊ぶ?」


私がどうして、昇のことを名前で呼び始めたのかは説明していない。そのせいか、彼は少しテンパっているように見える。ちょっと、面白いわ。


「え、え!? あ、ど、どうする、紫織?」


「桃子の好きにしなさい。私はどっちでもいいわ。ケーキならまた食べにいけるもの」


桃子の様子で、昇と一緒に遊びたいと思っているのは一目瞭然だ。


「じゃ、じゃあ、お願いしようかな……」


恥ずかしそうに俯きながら、桃子はそういう。昇は、やっといつもの笑顔を見せて、優しくも桃子の名前を呼んだ。


「でも、大丈夫なの? 勝手に付いていって」


昇は一瞬悩む様子を見せたが、すぐに笑って桃子を安心させた。


「俺達は楽しければいいから。人が増えたほうが楽しいだろ?」


やっぱり、彼は優しい。それは私にも分かる。私は、この二人のやり取りを見て、少し気分が楽になった。


今まで知也のことで悩んでいたのが馬鹿らしくなるぐらいに。


「ほら、行こう」


昇は振り返って、友達のいるところへ私達を案内してくれた。そういえば、あの赤原 祐太も一緒にいたはず。そのことを、桃子は理解しているのかしら?


歩くこと数分、赤原祐太御一行の所についた。


って……え、女もいるじゃない。


あきらかに3対3の人数。もしかして、私達本当に邪魔なのかしら?


「えっと、この二人は皆知っていると思うけど、五十嵐 紫織さんと、岸 桃子。どうせならと思って誘ったんだ。大丈夫だろ?」


昇の言葉に、誰一人嫌な顔はしなかった。逆に、喜んでくれているみたい。こんな、教室で全く会話などしない人たちと遊ぶのも面白いかもしれない、なんて思ったほどに。


「よ、よろしくおねがいしますっ!」


隣にいる桃子が、頭をさげてそう言っている。私も、桃子を見て、軽く頭を下げながら、よろしくと呟いた。


「こちらこそ、よろしく! 私は、早川 みどりだよ。こっちが……」


そう言って、早川さんが全員のことを紹介してくれた。話に聞くところによると、クラスメイトらしい。そういえば全員見たことある顔のような気がする。


「楽しもうね!」


そう言った、真っ白の服を着た川口 愛白という子。桃子とはまた違った可愛らしいを持っている。


軽く挨拶を済ませると、私達は歩き始めた。先頭を歩くのは、あの赤原祐太と早川みどり。そういえば、あの二人は付き合い始めた、なんていう話を桃子から聞いたことあるような気がする。


「誘っちゃったけど、迷惑じゃなかったかな?」


隣から、昇の変わらない言葉遣いの声が聞こえてきた。


「大丈夫だって言ったじゃない。それより、本当に混ぜてもらってよかったのかしら」


「それこそ大丈夫だよ。ほら、愛白もいつも以上に元気だし」


後ろを一瞬振り返ると、その愛白と言う子と楽しげに喋っている桃子が目に入る。


「本当ね。桃子も楽しそうだわ。まぁ、その後ろにいる二人組みのことは聞かないことにしましょう」


「そ、そうだね」


歩くこと10分ほど、先頭にいる二人がすっとゲームセンターに入っていった。


「え、そこにいくの?」


私は驚いて、昇に聞く。不思議そうな顔で、彼は私の事を見ていたが。


「あ、うん。もしかして、ゲーセン苦手?」


「え、いや、そういうわけじゃないんだけれども。その、初めてだから……」


知也といるときは、ほとんどホテルだったし、桃子と遊ぶときも、甘いものを食べに行くだけだ。あとは、買い物とか。


「じゃあ、今日は俺が色々案内するから」


そう言って笑う、昇に一瞬見とれてしまった。こんなに、かっこよかったかしら。


「え、ええ。お願いするわ」


そして、私はゲームセンターに足を踏み入れた。




店内には、様々な機械音が飛び交っていて、ものすごく……


「うるさいわね」


「まぁ、それがゲーセンだから」


苦笑いを浮かべる昇は、私をある場所に案内してくれた。


「えっと、UFOキャッチャーだったかしら」


見たことはあるけど、触るのは初めて。


「これ、し、し、紫織が好きそうだと思って」


昇に名前を呼ばれると、私も少し心がドキドキした。隣の彼も同じみたい。顔を真っ赤にして、必死にUFOキャッチャーについて説明をしている。


すると、昇は突然お金をそのお金の中に入れて、操作をし始めた。


上手く、そのケーキの真上まで掴むものを動かすと、ゆっくりと降下していき、なんとも綺麗にそれを掴んだ。


隣で小さく昇はガッツポーズをしている。


少し大きめのケーキの形をしたキーホルダー。ケーキは好きだが、食べるのが好きなだけであって、こういうのは……。


なんて思ったけど、300円をかけて取ってくれたそれは、どうしてかとても愛おしく思えた。


「あ、ありがとう」


「いえいえ」


昇は頬を指で掻く。やっぱり、こういうのは少し恥ずかしいわ。


「あれは何かしら?」


私は暖簾のようなものが入り口にかかった、人が数人ほど入れそうなほどの大きさであるものを指した。


「あ~、あれは……」


そう言って、昇の動きは止まった。何かを考えているみたい。


「プリクラって言うんだけど」


そういえば、そんなものを聞いたことがある。写真がシールになって、携帯や色々なものに貼れる優れものだと聞いた。だけど、正直なところ、私は写真なんてものは好まない。過去を振り返るのは、愚か者がすることだと思っていたから。


「えっと、その、一緒に撮る?」


頬を赤く染めた昇は呟いた。


「え?」


「その、嫌なら別にいいんだ。よかったらっていう話で。あ、なんなら桃子とか、他の子も連れてくるよ! どう? 今日という、この日の記念日に」


何の記念日? なんて一瞬思ったけれど、そんなことはどうでもよくなった。恥ずかしそうな顔をして焦っている昇を見て、私はちょっとおかしく思ったのだ。そして、ほんの少し愛おしいと思った。


チラッと、愛白と楽しそうに太鼓を叩くゲームを楽しんでいる桃子を見た。


「桃子達は楽しそうにゲームをしているわね」


「べ、別にあとでも大丈夫だよ? きっと、みんなで撮ったら楽しいし」


「私は今からでもいいわよ」


そう告げると、昇は表情を固めたまま動かなくなった。


「桃子達を含めて撮ったほうが、貴方が楽しいのなら私は待つわ」


「い、いやいや! 撮ってくれるとは思わなくて。ごめんね。じゃあ、行こうよ」


くるっと振り返って、昇は私がさっき指をさしたプリクラというものに向かった。私はその後ろを付いて歩く。


中に入ると、そこは見た目よりも狭くて、少しだけ窮屈さを感じる。しかし、少し目が痛くなるほどの明るさと、昇との距離のせいか、私は少し気持ちが高ぶってきた。


「こ、これ、どこがカメラなのかしら?」


いつ撮られるか分からないこの状況。私は、とっさに昇に質問をした。


「まず、お金を入れるんだよ」


そう言って、昇は財布からお金を取り出し、400円をその機械の中につぎ込んだ。


すると、急にその機械が喋り出す。それもまた、可愛らしい声だ。


昇はこういうのに慣れているのか、さっさと次へと進めてしまっていた。私は何も出来ないまま、新世界のようなこの状況でただ、昇のすることを見ているしかなかった。


「あそこがカメラだから」


この機会は上と下と真ん中にカメラがある。その中で、昇は真正面にある、カメラを指差した。


それと同時というぐらいに、機械がカウントダウンを始める。


私があたふたしていると、昇は小声でピースと言った。言われたとおりに、カメラに向かって2本指を立てる。


パシャリという音と共に、少しだけ室内が光った。


「緊張してる?」


顔に出ていたのだろうか。昇は、私の顔を見てニッコリと笑った。


「え、ええ。ちょっとね」


リラックスだよ、と呟く昇。すると、再び、機械はカウントダウンを始めた。


私はゆっくりと、昇の服へと手を伸ばし、ぎゅっと引っ張る。ビックリしたのか、昇は一瞬私のほうを見た。すると、昇は急に私の肩を掴んだ。


「え」


今度、驚かされたのは私のほう。


私が昇の顔を見た途端、フラッシュが光った。


「び、びっくりするじゃない!」


「俺もびっくりしたから、一緒だよ」


急に肩を掴むなんて反則だ! なんていうと、昇は恥ずかしそうに、服を掴むのも反則だよ……と拗ねたように呟く。


それから、あれこれしていると、合計7枚ほど撮ると昇は画面に表示された写真を見ていた。


「どれがいい?」


そう聞く昇。私はよくわからずに、画面を覗き込んだ。


「この中で4枚だけ選べるんだけど」


私は無意識に手を伸ばす。それは、2枚目に撮ったあの写真。私の顔は、横顔だけで、悪戯っ子みたいな顔をした昇がそこには映っていた。


それから、3枚を選び終えると、今度は機械が何かを案内していた。私はよくわからないまま、昇の後ろを歩いた。


直ぐ隣には、何かペンと画面がある。昇はペンを持つと、画面に向かって何かを書き始めた。


「……し、紫織はそれを描いて」


どうやら、見た感じ写真に文字や絵を描けるみたいだ。昇が指名した写真は2枚目の写真。それを私に加工しろと言ってきた。


「私こういうの苦手なのよ」


「大丈夫、大丈夫」


そういいながら、昇はすいすいと書いていた。ため息をつきながらも、私は画面と向き合う。この悪戯っ子のような顔をした昇を、いじくりまわしてやりたい。


それから数十秒、私が結局その写真に書けたのは「昇の馬鹿!」という文字と、変なスタンプを押しただけだった。









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