青の恋色(5)
あれから、数日がたった。
未だに、彼女を学校で見かけることは無く、桃子に聞いたら難しそうな顔をしていた。
それもそうだ。俺は、あんな形で、彼女に気持ちを伝えてしまったのだから。きっと、桃子だって俺のことをよく思っていないはずだ。
しかし、それは違った。
「青木君……」
呼ばれて振り向くと、そこには桃子がもじもじしながら立っていた。
「も、桃子、どうしたの?」
ニッコリ笑ったつもりだが、ちゃんと笑えていないと思う。そのことを、なんとなく自覚することは出来た。
「えっと、そのね。元気かなって思って。ほら、最近……元気ないから」
「あ、まぁ、うん。ありがとう。桃子はどうなの?」
それにしても、桃子が教室内で俺に話しかけてくるという事が、今まで無かった分、周りの反応が面白いように見て取れる。
意外な組み合わせ、としか思われないのだろう。
だけど、祐太たちを除いて、他に俺が心を置ける場所は桃子のところだと思う。
「私は大丈夫。けど、最近の青木君辛そうだから」
桃子は周りを気にしながら、小さく呟いた。
「うん。えっと、五十嵐さんから何か連絡はあった?」
あまりこの話題には触れたくは無かった。だけど、どうしても気になった。
やっぱり、まだ諦めはついていないのだ。あんな酷いことをしたのに、俺はまだ彼女を好きでいる。
「ううん。まだ、何も。今日の夜にでも連絡入れようと思って」
学校で見ている限り、五十嵐さんはそう友達が多いほうではない。唯一の話し相手といえば、桃子ぐらいなのだ。
「うん。何か分かったら教えてよ」
「分かったよ。またね」
桃子は手を小さく振ると、自分の席へと戻っていった。
「おいおい、お前の彼女か?」
後ろで物珍しそうに、桃子を見ている祐太の姿が。
「そういうのじゃないよ。同じ図書委員ってだけさ。確かにいい子だけどね」
「そっか。まぁ、どうでもいいや。昇、今日の夜空いているか? ちょっと遊びに行こうぜ」
「ん? いいよ。最近付き合ってあげられなかったし、遊びに行くか!」
祐太は嬉しそうに笑うと、少し離れた場所にいるみどりに何かを言いにいった。まさか、あの3人組も一緒に行くのだろうか?
「よし、じゃあ一回家に帰って、着替えてから遊びに行くから」
「わ、分かった」
「黄士も来いよ」
祐太がそういうと、黄士は一瞬、俺達のほうから目をそらした。それは、否定の意味ではなかったらしい。
視線の先には、最近仲良くなったのであろう、莉奈の姿があった。俺はそっと、そっちを見ると、莉奈が黄士に向かってニコッと笑うのを確認した。
それを見て決めたかのように、黄士は祐太のほうを向いて頷く。きっと、鈍い祐太のことだ。今の黄士たちの行動に、一切気付いていないのだろう。
「決まりだな。じゃあ、昼の勉強も頑張るぞ!」
その言葉を待っていたかのように、学校中には昼休みの終了を知らせるチャイムが鳴り響いた。
祐太から指定された集合場所である、遊び場が近くにある駅へと向かった。
「よっ」
俺がそこに着くと、祐太とみどりはもう到着していた。みどりも居るということは、やっぱり、残りの二人も来るのか。
「おう。また、今日は早いな」
「だってよ、みどりが急かすんだぜ? 俺達が提案した遊びなのに、遅れるのはもってのほかだって。別にちょっとぐらい、いいのにな?」
あの祐太を、ここまで仕立て上げるとは。さすが、みどりである。
「今日は何処行く予定?」
祐太に問いかけると、笑って誤魔化された。さては、いいたくない場所だな。
「まぁ、いいから!」
祐太がこういって、マシな場所へ行ったためしがない。きっと、俺にはどうでもいい場所なのだろう。
ただ単に、二人きりは恥ずかしいという魂胆で、俺達は誘われたのだ。
そんなことを考えていると、駅のホームから黄士と莉奈、そして愛白がやってきた。黄士が、女の子と一緒に来るなんて珍しいどころの話じゃない。
地球に何かが起こったのかと思った。
「お、うじ。やっほ」
驚きすぎて、口も思い通りに動かない。最近、仲がいいとは思っていたが、あの二人、実は付き合っているんじゃないのだろうか?
「うん」
「じゃあ、全員揃ったところだし、そろそろ行くか!」
祐太は張り切って歩き出した。みどりはいきなり動き出した祐太に慌てるように歩き出す。この状況に慣れている俺、そして黄士は落ち着いて祐太の後ろについていった。
歩くこと数分、後ろでは楽しそうに莉奈と黄士が話している。愛白はというと、その話に入っていくかのように言葉を発していた。空気を読むということを、彼女は知らないのだろうか。
前では、いちゃつくカップル。なんか、俺一人取り残された気分だ。
そんなとき、ある人の声が聞こえた。
とても小さなその声。きっと、俺の周りにいる誰も気付いていない。
ただ、俺はその音に気付いた。
分かった。
なんたって、何年も意識をしながら聞いている声だったから。
「五十嵐さん……」
周りを見てみると、かなり遠いところで男3人に絡まれている五十嵐さんの姿を俺は見つけた。
無意識に俺の足は止まる。きっと何かをしようと思ったのだ。
彼女は困っているのか?
じっと睨みつけるように俺はそっちを見続けた。
後ろからやってきた黄士に話しかけられる。どうしたの? と。
しかし、俺はその言葉を手のひらを向けるだけで、返答はしなかった。
今、俺の全身の神経は、彼女のほうへと向けられていた。
あそこまでした俺が、彼女にもう一度会う権利はあるのだろうか。
そんなことを考えていた。
蘇るあの記憶。
『苦しめているのは貴方でしょう!』
彼女を泣かすつもりは無かったんだ。
『貴方のこと大嫌いっ!』
ただ、これ以上辛くなるのを見たくなかったんだ。俺の自己満足なのかもしれない。
だけど、俺は……。
「嫌っ、やめて!」
五十嵐さんの叫ぶような声が聞こえてきた。
我を忘れたかのように走り出す。
黄士に名前を呼ばれた気がしたが、それすら今の俺には届かない。
彼女が困っている。
その事実だけで、俺の体は勝手に動き出した。
やっぱり、諦めきれない。好きなんだ。
愛しているんだ。
止まらない、この気持ち。受け止めてくれなくても、俺は君を守るよ。
「ごめんね、五十嵐さん」
俺は彼女と男達の間へと入った。
全てを包み込む大きな青空ような愛。
それが青の恋色。
世界でただ一つの恋色。