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十人恋色  作者: Toki.
33/40

青の恋色(3)


「なんだ?」


言葉を発したのは、知也の方だ。そいつの顔を睨みつける。


「なんだよ? お前みたいなちびっ子が、俺達相手にかつあげでもするのか?」


ニヤニヤ笑いながら、近寄ってくるのは知也の友人と思われる人。


「黙れ」


しかし、こいつも許せない。


あの五十嵐さんを、回せだと? 信じられない。


「あれぇ、怒っちゃかなぁ?」


近寄ってきた奴に、俺は再び睨みつけた。


「おっと、怖い怖い」


あきらかにからかっている。そんなことに、俺は今更腹など立てなかった。


ただ、許せないものがそこにあったから。


「五十嵐 紫織って知っているか?」


そう呟くと、知也とその友人は一瞬目をあわした。まさか、この話題が出てくるとは思わなかったのだろう。


「知ってたら、どうかするのか?」


知也がそういう。


「別れろ」


俺の言葉に、知也は笑い出した。馬鹿じゃないのかと、言わんばかりに。


「なんで、てめぇに言われて別れなきゃいけねぇんだよ? あ、もしかして、お前、紫織の事が好きなのか? それならそうと早く言えよ。お前も金さえ払えば、好きなようにさせてやるからさ」


笑い続けている知也へいっきに近づくと、俺は拳を振り上げ、おろした。


バンッ! という男が、この暗闇の中響き渡る。


「いって! てめぇ、何するんだ!」


「おいおい、大丈夫かよ。そんなお子様に吹っ飛ばされるなんて、お前も鈍ったなぁ。昔は、喧嘩慣れした高校生だったくせに」


「うっせ。ちょっと油断しただけだ」


未だに地面に座っている知也を、俺は無言で見下ろしていた。


「けど、殴っちゃうのはいけないなぁ。警察に通報しちゃおうかなぁ」


ニヤニヤ笑う声が後ろから聞こえてくる。


「したけりゃ、すればいいじゃん。だけど、俺の目の前に座っているこいつの人生は終わる」


「は? 何言ってんだよ」


「五十嵐さんはまだ高校生。18歳に満たない若者だ。そいつに手を出したとしたら、国に罰せられる。何より、こいつは妻子もちなんだよな。奥さんがこの話聞いたらどうなるか。それに、会社もその話を聞いて、何も処分しないわけが無い」


「おいおい。そんなこと言っちゃうのかよぉ。誰も、お前の言うこと信じないぞ」


俺は振り向き、おもむろに携帯を取り出す。


やはり、俺はあの時冷静だったのか、よく考えると分からなくなっていた。


「携帯の録音機能って便利だよね」


再生ボタンを押すと、さっきのコンビニでのこいつらの会話が音を発して流れる。


「て、てめぇ」


「これは紛れも無い証拠と言えるんじゃないのか? お前が五十嵐さんの前で土下座をして、別れたらこれを処分してやろう」


「脅しか? それは」


後ろから誰かが立ち上がる気配がした。


「もっと人気のあるところで話し合いをするべきだったな!」


知也はそう叫ぶと、俺の両腕をガッチリ掴んで逃げられないようにした。さすがは男の力というところか。かなり力強い。


「携帯、壊させてもらうぜ!」


目の前にいる知也の友人の拳が、ものすごい勢いで近寄ってきた。


しかし、焦ることはない。


自分の心に言い聞かせて、その拳を受ける覚悟をした。


ゴンッっと鈍い音がするとともに、俺の脳が揺れるのが分かった。


しかし、手にある携帯を誤って落とすことは無い。


血の味がする。


口内にたまった唾と血を一緒に、目の前にいる男へとかけた。


「て、てめぇ……」


もう一度、男は拳を振り上げた。


今度は、怒りのあまり、その動作が大きい。俺は、油断していた知也の足を踏むと、すぐさま腕をほどき、目の前にいる男に体当たりをする。


その衝動で、俺もその男も地面に転んだ。


そのまま、俺は馬乗りになり、目の前にいる男の顔面に拳を一発振り下ろす。こんなんじゃ済まされない。


俺の怒りは頂点に達していた。


もう一発入れたところで、後ろにいる知也が俺を蹴ったのだろう。わき腹に痛みが走った。


「いい加減にしろよ、ガキが……」


「てめぇも、人のこと言えないぐらいガキだろ。女の子をもてあそぶなんて、大人がやることじゃねぇよ!」


その言葉に反応して、知也は俺の顔面めがけて拳を放った。しかし、そんな大振りが俺に当たるはずもなく、軽く体を横にずらし避けると、今度は俺が知也の胸倉を掴んで頬に一発ぶち込んだ。


そして、蹴りを腹に入れると、俺は知也を突き倒した。


「土下座しろ。五十嵐さんに謝るんだ。そして、別れろ。そしたら、この件は水に流してやる」


「てめぇなんぞに言われなくてもな、あんなガキ、お前にくれてやるよ! 俺には可愛い可愛い奥さんがいるんだからな!」


五十嵐さんのこと“あんなガキ”と言ったこいつを、もっとボコボコにしてやろうかと考えた。


しかし、俺の拳も限界に来ている。これ以上人を殴ったら、使い物にならないかもしれない。


「五十嵐さんは……あんたの事が大好きだったんだ。不倫だって、なんだって、五十嵐さんは、あんたのことが大好きだったんだ!」


それだけ呟いて、俺はその場から離れた。


人を殴った手の痛みが残る。


心の痛みも残る。


こんなことをして、彼女が喜ぶはずが無いと知っていたからだ。


月が照らす夜道を、俺は人生のどん底にいるかのような姿で歩いていた。















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