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十人恋色  作者: Toki.
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青の恋色(1)





「昇は好きな子いねぇの?」




 前に祐太が放ったその言葉に、俺はとてつもなく動揺した。


 それは、図星だったから。だけど、祐太に俺の好きな人を言ったところで、何もならないことは分かっていた。あのときの祐太の頭には、みどりのことしかなかったから。


 今は、二人ラブラブの生活をしている。


 季節はもう、オレンジ色に染まった葉も落ちそうな季節になっていた。


 その日もまた、彼女が見える場所に俺は立っていたかった。


「昇、何してんだよ?」


 少し、彼女に視線を向けすぎていたのだろう。不思議に思った祐太が話しかけてきた。


「いや、ちょっと気になることがあって。そっちこそどうした?」


俺が質問を投げ返すと、今度は祐太が顔をくしゃっと笑顔になって、祐太の彼女であるみどりのことを話し始めた。


今度、新しく出来た遊園地に二人で行ってくるとか、家にご飯を食べに行くとか。


俺にとってはどうでもいい話だったが、あまりに祐太が楽しそうに話すものだから、俺は笑顔になることが出来た。






昨日、俺は大好きな人の友達から、衝撃の話を聞いた。


大好きな人、つまり五十嵐 紫織さんが、結婚している男と付き合っているということを。


それをやめさせようなど、微塵も思っていない。俺にはそんな権限など無いから。


傍から見ているだけで十分だった。


今も、楽しそうに岸 桃子という友人と話している。五十嵐さんは、言い方は冷たいが、中身はとっても優しい人なんだ。


俺は、そのことを知っている。


ちなみに、俺が五十嵐さんのことを好きだと知っているのは桃子だけ。桃子はちょっといたずらっ子だけど、とっても可愛くて、優しい少女だ。だから、俺の唯一の恋の相談相手でもあるのかもしれない。


「昇、今日の帰りに寄って行きたいところがあんだけどいいか?」


祐太は頭をポリポリ掻きながら、俺にそう言ってきた。だけど、今日は月曜日。俺には用事があった。


「ごめん。今日は委員会の仕事があって、学校に残らないといけないんだよ。どうしてもっていうなら、無理言って休ませてもらうけど?」


「そっか。んじゃ、一人で行ってくるわ」


そう言った祐太の顔はどこか難しそうな顔をしていた気がした。










放課後、俺が図書室に着いたころには、桃子はもう掃除を始めていた。


「ごめん。遅れたかな?」


そう聞くと、桃子はブンブンと音が鳴るんじゃないかと思うぐらい首を横に振った。


「ち、違うの! 今日はちょっと用事があって……」


「用事?」


「そう、用事!」


あたふたしながら言う、彼女は可愛い。きっと、大事な用事なのだろう。


「そっか。じゃあ、俺も急いでやるよ」


俺がニッコリと笑うと、桃子はありがとうと呟いて作業を始めた。


いつもは20分ぐらいかかる作業も、二人で急いでやれば10分も掛からなかった。


「おわったぁ!」


と、桃子が言った時、俺は体に電流が走ったかのような感覚に陥った。


「もう、桃子遅い!」


そう言って、彼女はドアを開けて入ってきたのだ。


「し、紫織! 待っててって言ったのに!」


きっと、桃子は俺に気を使って、俺に会わせないようにしてくれたのだろう。そのため、一人だけ早く来て、掃除を始めていたのだ。


「や、やぁ、五十嵐さん」


俺が挨拶をすると、五十嵐さんは難しそうな顔をした。


「えっと、鈴木君だっけ?」


五十嵐さんのその言葉。鋭利な刃物で心に刺されるような感覚がした。


「ち、違うよ! この前も言ったでしょ? 青木君だよ!」


「どうも、青木 昇です。俺の仕事が遅かったせいで、待たせてしまったのでしょう。申し訳ございません」


きっと、彼女は俺のことを知らない。


「何、堅苦しい言葉使っているのよ。中学校から一緒でしょう? タメ口でいいわよ。それより、赤木君だっけ?」


「あ、青木君だってば!」


「そうそう、青木君。仕事が遅かったのは、きっとこの桃子よ。昔から鈍臭いから、私がついていないと駄目なのよね。お詫びと言っては何だけど、一緒にパフェ屋へ行くわよ」


『お詫び』という言葉と、最後の命令語が一致していない気もするが、これは遊びに誘われたのと同じ意味だ。


それは、五十嵐さんのことが好きな俺にとって、嬉しいことである。


「そ、そんなの、青木君に悪いよ!」


「え、そうなの? 行くわよね?」


五十嵐さんは俺が行かないわけがないと思い込んでいるらしい。どうしてかは知らないが。


「ええ、行ってもいいのなら、行かしてもらおうかな。お邪魔ならすぐに帰るけど。大丈夫かな、桃子?」


「え、あ、うん……」


「じゃあ決まりね。さっさと行きましょう」


五十嵐さんは、くるっと振り返って歩き出した。まだ、荷物を手に持っていなかった俺達は、焦って荷物を取り、五十嵐さんの後ろを追う。


その時、桃子が本当にごめんね? と言ってくれたが、正直嬉しいのか、悲しいのかははっきりと分かっていない。


だけど、これだけは分かる。


五十嵐さんに彼氏がいようが、いまいが、俺は五十嵐さんのことが好きだって事を。















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