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十人恋色  作者: Toki.
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桃の恋色(3)


「おはよう、桃子!」


 次の日、学校に着くと、いつもとは違うテンションで、紫織が私に飛びついてきた。


「ど、どうしたの!?」


「エヘヘ、聞いて! さっき知也から連絡があってね、今日は時間が空くんだって!」


「今日? 放課後って事?」


「そうなの!」


 もしかして、紫織は昨日自分が言ったことを忘れているのではないだろうかと、一瞬頭を過ぎった。


「エヘヘ、羨ましいでしょ?」


「じゃあ、今日のパフェは無しにする?」


「え? あれ今日だっけ!? ごめんね、桃子」


「ううん、いいんだ」


 予想が的中して、ちょっと嬉しかったりする私がいた。


「知也も今日、朝一番から電話してくれたの。ベッドから飛び起きちゃったわ」


 自慢げに紫織は話を続けてきた。


 話を聞きながら、すっと視線を青木君のほうへと向けると、タイミングよく彼もこっちを向いて目が合った。


 数秒見つめあう時間。私は、もはや紫織の話などどうでもいい気がした。


 ……なんて、思ったからだろうか。急に頭が痛くなったと思ったら、いつものように紫織が髪の毛を引っ張っていた。


「い、いた、痛い!」


「なんで、桃子は私の話聞いてくれないのよ」


「き、聞いているよ! 今日、知也さんと遊ぶんでしょ?」


 私が紫織の大好きな人の名前を呼ぶと、顔はぱっと明るくなって紫織はすっと髪の毛から手を離す。


 ちょっと痛みが残っていて、頭を自分でさすった。やっぱり、痛い。これが原因で抜けてしまうのではないだろうか、なんて思っちゃう。


 ふと青木君のほうに視線を向けると、私のほうを見て軽く笑っていた。もしかして、一部始終を見られていた?


「どうしたの?」


 紫織が私の視界にバッと入ってきた。そのせいで、青木君が見えなくなる。ちょっと、どきなさいよ、なんていいたいけど、そんなこと言ったら、この密かな恋も、紫織の機嫌も悪くなってしまう。


ここは、我慢だ。


「桃子、最近ボーっとしているよね? 何かあったの?」


「ううん。なんでもないよ? ボーっとしているのは、前からじゃん?」


「いや、前よりもボーっとしているわよ。もしかして、恋でもしたのかしら?」


 ニシシと笑ってくる、紫織のその当てずっぽうな発言に、私は冷や汗を流した。小学生の頃、紫織に恋の話をしたら、クラス全員の前で、私の好きな人に『桃子はいい子だよ! 付き合ってあげて』と叫んだのだ。そんなことをして、上手くいくわけもなく、その恋は悲しい結末へとなってしまった。


 それ以来、私は紫織に恋の話はしないでおこうと、心の中で誓った。


「ち、違うもん。恋しているのは、紫織のほうでしょ?」


「私のは恋なんて軽い言葉で片付けられるものではないわよ。愛よ、愛。分かる?」


 正直、愛も恋もそう変わらないような気がするけど。












 学校が終わるチャイムが鳴ると、紫織は真っ先に教室から出て行った。


 私を待つ、という選択肢すら眼中にないほどの速さ。一言、私にさよならの言葉をかけてくれたけど、私は言葉を返すことは出来なかった。


 それほど早かったと思っていただきたい。


「あれ、今日は五十嵐さんと一緒じゃないんだ?」


 私が教科書を鞄の中に閉まっていると、後ろから青木君の声が聞こえてきた。


 幻聴かな、なんて一瞬思ったけど、さすがにそれは無いと思って振り返ってみると、案の定彼は私の真後ろに立っていた。


「紫織、今日はちょっと用事が出来ちゃって。帰っちゃったんだ」


「そっか。パフェ屋に行く話はなくなっちゃったんだ?」


 優しく微笑んでくれる青木君を見たら、なんだか紫織の愚痴を言いたくなってしまった。


 かれこれ10年以上一緒にいる紫織に、不満という言葉が無いわけがない。私は、今まで誰にも言ったことが無かったことを、青木君にポロッとこぼしてしまった。


 その零れ落ちた言葉は、崩壊したダムのようにどんどんと広がっていく。


「ねぇ、岸さん」


 私が話している途中で、青木君は笑顔で話を断ち切った。


「あ、ごめんね。話長くなっちゃって。もう帰る?」


 私は、外で赤原祐太たちが待っているのだと思って、そう言ってみた。だけど、彼がその次に放ったのは、否定の言葉だったのである。


「これから、どこか寄っていこうか? おごるよ」


 ……寄っていくって、どこに? なんて聞ける気分ではなかった。頭の中は真っ白。今度こそ、本当の幻聴かと思った。


 だけど、それは現実。私は、大好きな青木君に放課後デートへと誘われたのだ。


 一瞬固まった、私をニッコリと笑って返事を待ってくれる青木君。


 なんて、優しい笑みなんだろう。


 その笑みが、私に放たれていること事態、ありえないことなのに。


「い、いいの?」


「もちろんだよ。岸さん、何か食べたいものある?」


「な、なんでも! なんでもいいよ!」


 私は、嬉しくてたまらなかったのだ。


 ……嬉しくて、たまらなかったのだ。










「じゃあ、ケーキ屋さんにしよう」


 彼の全ての言葉は、私に向けられているものだと思っていた。






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