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十人恋色  作者: Toki.
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黄の恋色(5)


次の日、僕の体調はよくなった。


いつもどおり、準備をして学校へと出かける。


今日はなんだか、学校に行くのが楽しく思える。それはきっと、彼女のおかげなのだろう。


あの後、彼女は直ぐに帰って行った。


なんだか用事があるようだったけど、大丈夫だったのだろうか。


学校に着くと、そこにはまだ彼女はいなかった。


いつもどおり、朝一番に来ている昇とその他の女子が目に入る。


「おはよう、黄士」


「おはよう」


僕は鞄を机の上において席に着き、鞄の中から愛読している本を手に取る。


読み始めよう、そう思ったとき元気な彼女の声が聞こえてきた。


「黄士君、おっはよぉ!」


「おはよう」


僕がそう答えると、彼女はいきなり足元をふらつかせた。


どうしたのだろう、と思い彼女に視線を向けると、いきなり僕のほうへと倒れこんでくる。


「ど、どうした……の?」


言葉を投げかけてみるが、彼女に反応は見られない。


昇は何かを察したかのように、彼女の元へと近寄って前髪をあげ額に手をあてる。


「熱いな。黄士の風邪が遷ったか」


昇はため息をつくと、彼女を背負うように持ち上げた。


「ほら、行くよ」


「え? 僕も?」


「当たり前だよ。黄士が風邪をうつしたんだから」


昇は彼女を背負いなおすと、歩き始めた。あまり、事態を把握できていない僕も昇の後ろをついていく。


保健室へと着いた僕らは、昇が一通りのことを先生に説明して教室を出て行った。


僕も一緒に出て行こうとすると、昇はピタッと保健室の出口付近で止まる。


「どうしたの?」


「黄士は残ったほうがいいよ」


「え、え?」


「な? 頑張れ!」


そんな爽やかに言われても。


僕は困ったまま、足を彼女の元へと引き返していった。保健の先生は何も言わない。


一時限目が始まるのもまだ先だから、授業には遅刻しないけれども……なんで僕が?


彼女の眠っているベッドの横の椅子に腰掛けた。


一定の寝息を立てている彼女をじっと見てみる。


きっと、可愛い顔立ちだと思う。


そんなことを考えた瞬間、心が爆発しそうなぐらい跳ね上がった。


な、何これ?


ドキドキが押さえられない。どうしよう、どうしよう。


ここは保健室だ。保健の先生に何か聞いてみれば!


そう思って、立ち上がろうとしたとき、後ろから彼女の声が聞こえてきた。


「黄士……君」


名前を呼ばれた僕は振り返る。しかし、彼女は未だに目を閉じたままだった。


なんだ、寝言か。


「どんな夢見ているんだろう」


ちょっと不思議になってつぶやいてみた。彼女に聞こえることは無いと思うけど。


「莉奈……か」


眠っているのをいいことに、僕はあらゆることを言ってみた。


「莉奈を見ていると、ドキドキする」


こんな言葉、聞かれていたら心臓停止できっと死んでしまうだろう。


「これが恋なのかな」


しかし、彼女はちょっぴり頬を赤らめながら、まだ一定の間隔で呼吸をしていた。


すっと手を伸ばして、いつも揺れている彼女の髪の毛へと触れる。


「……なんで僕なんだろうか」


こんな彼女なら、きっと僕以外でもよかったはずなのだ。


なのに、どうして僕を選んだのだろう。こんなつまらない僕を。


「好きになったんだもん」


……。


その言葉を呟いたのは僕ではない。ましてや、保健室の先生でもない。


目の前にいる、眠っているはずの彼女が呟いた。


「寝言?」


ゆっくりと目を開く彼女に僕は驚いた。


「寝言なはずないでしょ!」


「だ、よね」


僕は内心焦っていた。いつから起きていたのだろうか。


もしかして、僕が髪の毛を触ったからおきてしまったのか? それならまだいい、僕のあの様々な言葉のあとだ。


「だって、黄士君がどっか行こうとしたんだもん」


その言葉で、僕の願いも壊れてしまった。


僕が席を立とうとしたのは二度。


一度は昇と一緒に保健室から出て行こうとしたとき。


二度目は、自分の心臓の高鳴りを止めようとしたとき。


どちらも、僕のあの言葉の前だ。


「終わった……」


色々と終わってしまった。


「何が終わっちゃったの?」


ニコッと笑う、彼女には勝てる気がしない。僕はなんでもないと答えておいた。


「それにしても倒れちゃうとはね。ごめんね? ここまで運んでくれて」


「い、いや、それは僕じゃない」


「え~、違うんだぁ」


彼女はふて腐れたように頬を膨らませた。この様子からすると、僕のあの言葉達を聞き逃してしまっているのではないかと思ってしまうほどだ。


「ね、ねぇ、もしかして聞いてた?」


「うん、聞いちゃった」


エヘヘと可愛く笑った彼女を見て、少し嬉しく思い、そしてかなりの喪失感を味わった。


「嬉しかったよ」


ギュッと僕の服を掴んでくる。


「……僕、恋とか、分からないから」


「それでもいいよ。私は、嬉しかった」


ドキドキするって言ってくれて、という彼女の言葉に僕の頭は沸点に達したんじゃないかって言うぐらい熱くなった。


「ねぇ、黄士君」


「な、何?」


「大好きだよ」


その言葉と同時に、僕の目の前には彼女の顔がある。


それも、吐息がかかるほど近い距離に。


いや、むしろ彼女の息は僕の口の中へと入ってくるのか。


「キス、しちゃった」


……やっぱり、エヘヘと笑う彼女の笑顔は可愛かった。

















静かに空から見守る月のような愛。


それが黄の恋色。


世界でただ一つの恋色。


おつかれさまでした。そして、読んでくださった皆様ありがとうございます。

これにて、黄の恋色、松坂 黄士の話は終わりです。

不器用ですね、と彼に一言告げてやりたい!

とても、純粋な男の子なのです。


次回は新登場 岸 桃子ちゃんのお話となります。

さて、どんな恋色になるのでしょうか。

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