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十人恋色  作者: Toki.
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黄の恋色(4)

インターフォンが鳴った。どうやら我が家にお客が来たらしい。


僕は母から渡された着替えに手をかけると、服を着始めた。


玄関のほうからは母の楽しそうな声。


お友達だろうか?


僕は着替え終えると、すぐさま再び布団へと戻った。


今日はいっぱい寝て、明日に備えよう。


そう思って、目を閉じたとき、部屋のドアは開いた。


「よっ、元気か?」


この声は祐太だ。心配してきてくれたのだろうか? なんだか嬉しい。


ガサガサと物音が聞こえ、僕はその音がするほうへと視線を向ける。なにか食べるものでも持ってきてくれたのだろうか?


そう思って手を伸ばすと、その先にあるものが見えた。


……あの子だ。


制服姿ということは、学校の帰りにきてくれたのだろうか。


彼女の制服姿は、可愛く見える。別に、そういう趣味じゃないけど、制服って言うものは人を変えてしまうのだろうか。


「なんか、お前のことを心配して皆来てくれたんだ。まぁ、言いだしっぺは俺だけどな」


祐太がそう言って笑っていった。まぁ、昇かあの子が言い出したのだろうけど。


「それで、どう? 体調のほうは」


「明日には学校に行けると思う」


昇はその言葉を聞いてニッコリと笑ってくれた。


「黄士君、大丈夫!?」


そして、このうるさすぎるぐらいの声の持ち主は言わなくても分かる。


あの子だ。


「え、あ、うん」


君のことが不思議すぎて、考え込んでいたら風邪をひいてしまいました、なんていえるはずが無い。


悟られないように、僕はその子に背を向けるように寝転んだ。


「ちょ、莉奈ぁ」


確か、この声は祐太の彼女だった気がする。


そうか、この子は莉奈と言う名前なのか。


「まぁ、明日には来られるなら大丈夫そうだな。んじゃ、また明日。あんまり心配かけさせんじゃねぇぞ」


そのあとに、ちょっと怒り気味に祐太はそう言って部屋から出ていったみたいだ。


それから数秒後、ドアが閉まる音が聞こえた。きっと皆帰っていったのだろう。


莉奈という子も、帰っていったのか。


少し気になって、ドアのほうに目を向けると、そこには思いがけないものが居た。


莉奈だ。


「……え?」


あまりに驚きすぎて、変な声が出てしまった。


「もうちょっと居るって言っちゃった」


莉奈は可愛らしくそう言って笑った。







さて、よく考えてみよう。


男の部屋に、男女が一人ずつというこの状況。普通に考えたらまずいと思うんだ。


僕はそんなこと絶対にしないけど、一般的感覚で見たら何かあるんじゃないかと考えてもおかしくは無い。


数分間、僕も莉奈も話すことは無かった。


お互いに、目のやり場が困った状態になっている。


何か気まずい。


すると、彼女は大きく息を吸ってはくと、僕の目を見て話し始めた。


「あ、あのね、ファンクラブ作っちゃったりしてるから気付いていると思う……っていうか、もう言っちゃったのも同然なんだけど、私黄士君の事好きだから」


その『好き』という言葉にドキッとした。


「どうして?」


どうして、僕なんかを好きになるの?


どうして、人は人を好きになるの?


彼女は少し悩んだ後、軽く笑って


「一目ぼれ。それ以上に理由は無いよ。ただ、一目見て好きになっちゃったの」


と答えた。


正直、一目ぼれという存在は信じられない。それは外見で全てを考えているから起こりうる事なのだ。


「ファンクラブ迷惑かな?」


彼女は泣きそうな声で、そう言った。


そんな声で言われたら、いくら僕でも迷惑とはいえない。


実際に、迷惑はさほど感じていないし。


「ごめんね」


今にも泣いてしまうのではないかという声になってしまった。


これはヤバイ、そう思ったとき僕はもう言葉にしていた。


「別に、迷惑じゃない。それほど……」


そういうと、彼女はいつもどおりの笑顔に戻り、ありがとうと呟いた。


安心したのもつかの間、彼女はとてつもなく大きな声で「やっぱり、私黄士君事大好き!」と言ってきた。


な、な、なんだこの女は!


しかも、なんで僕の腕に抱きついているの!?


焦りで、頭の中は真っ白だ。


今、僕は何を喋っているか、全く分かっていない。


「や、やめて」


ようやく、自分の意思で出せた言葉は、彼女を否定する言葉だった。


なんで、彼女はこんなにも感情の波が激しいのだろう。


さっきまでは泣きそうだったのに、今はとてつもなく楽しそうだ。


けど、まだ分からない。


なんで僕を好きになったのか。


「どうして?」


僕のこの言葉に、彼女はまた「一目ぼれ」という曖昧な理由をこじつけて返そうとしているのが分かった。


僕が聞きたいのは、そんなことじゃない。


「恋をして、得する? 祐太も、貴方も不思議。理由が分からない」


今の、自分の気持ちを突きつけた。


その言葉に、彼女は目を点にしている。


やっぱり、彼女にも答えられない。恋をする意味なんてないのだから、理由すら存在しないはずなのだ。


「本当に恋をしているの?」


僕は核心をついてみた。この謎をいち早く聞きたかったから。


「してる!」


だけど、なぜか彼女はその言葉に即答した。


「言い切れる?」


「うん!」


「どうして?」


ワンテンポ置いて、彼女はゆっくり答えた。


「恋をするのに理由はいらないよ? ただ、心がドキドキするの」


理由は要らない?


全てのものに理由はつきものだと、僕は昔から信じている。


恋をするのに理由はいらないなんて信じない。信じられない。


「ん~、信じられないなら聞いてみる? 私の心音」


彼女は僕の心境を察したのか、そう言ってニコッと笑った。


待て待て、心音を聞くって事は……あれだ。


女性にとって、大事な部分に触れることになるわけで。


「い、らない」


僕はそっぽをむいて答えた。そんなことしたくないから。


しかし、彼女は僕の返答とは間逆の行動をとった。


頭には人特有の柔らかさを感じる。これは、どういうこと?


「え? え?」


訳が分からなくなっていた。すると、頭上からは彼女の声が聞こえてくる。


「静かにして」


僕は言われたとおり、ピタッと喋るのをやめた。


今、僕は彼女の腕の中にいる。抱きしめられているのだ。


静かにして音と振動に意識を向けるとしっかりと聞こえてくる。彼女の早すぎる心音が。


これを恋というのならば、僕もきっと彼女に恋をしている。


なんだって、こんなにも僕の心音も早まっているのだから。


「これが?」


「そう」


静かに答えた彼女の瞳を見つめ、僕は笑った。


なんだか、少し心が晴れた気がする。


そんなことを思っていると、彼女は再び僕に抱きついてきた。


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