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十人恋色  作者: Toki.
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水の恋色(4)

次の日の朝、私は黄士君のためにお弁当を作っていた。


結構、料理には自信あるのだ。家庭の実習では先生にほめられるほどに。


私はフライパンを片手に、鼻歌を歌っていた。


これを黄士君に食べてもらうのだ。そう思うと顔がニヤける。


今日のお昼、楽しみだ!










「え? 今日、黄士君休みだって」


一時限目が始まっても、黄士君の姿が見えなかったから、私はみどりに聞いてみた。もしかしたら、赤原君から何かを聞いているかもしれない。


そう思って聞いてみたら、案の定彼女は知っていた。


それも、残念な結末を。


「も、もしかして……私が昨日お弁当を作るって言って、嫌がったからかな?」


一瞬、私が嫌いすぎて学校を休んだ、という理由が頭に浮かんだ。


「ううん、ただの夏風邪らしいよ」


「風邪!?」


私はみどりの肩を掴んで叫ぶように言った。


「う、うん」


そうか、風邪なのか……よかったぁ! 本当に、私の事が嫌いで不登校になったらどうしようかと思ったよぉ。


私は安堵のため息をつくと、二時限目の始まる鐘が鳴った。


その時、ふと頭にある提案が浮かぶ。


私はウキウキ気分で、自分の椅子に腰掛けた。








「ねぇ、昇君!」


赤原君と楽しそうに話している昇君は私の声に気付くと、振り返っていつもの笑顔でどうしたの、って聞いてきた。


「あのね、あのね! 黄士君の家にお見舞い行こうと思うんだけど!」


それだけ言って、私はニコッと笑った。多分、その行動で昇君は気付いたのだろう。一瞬、赤原君のほうを見てから再びこっちを向きなおした。


「俺達も?」


「もちろんじゃない! 私だけで行ったら、何かあると困るでしょ?」


小さい声で、別に困らないけど……と昇君は呟くが、そんなことは気にしない。赤原君は面倒臭そうにため息をついた。


その時、私の後ろにみどりが現れる。


「ち、ちょっと莉奈ぁ!」


「どうしたの? あ、妬いているの!? 私は赤原君と喋ってないから大丈夫だよ」


「そ、そういう意味じゃなくてぇ!」


みどりは顔を真っ赤にして、一生懸命否定していた。そんなところも可愛いぞっ!


「んで、どうどう!? 黄士君の家にお見舞い行かない?」


昇君は悩むように、もう一度赤原君のほうを向いて話しかけている。赤原君はみどりに見とれていたのか、昇君の声になかなか反応しなかった。


「え、あ、うん。どっちでもいいじゃね? 今日はバイトもねぇし、昇はどうするよ?」


「ん~、確かに黄士の様子は気になるけどさ。今まで風邪とか引かない奴だったし。遊びに行く感覚で行ってみる?」


その言葉を待っていましたという感じで私はみどりの手を握った。


「みどりも一緒に行くらしいから!」


その言葉に反応したのは、赤原君とみどりだった。


「みどり、お前も行くの?」


「え、え!? た、確かに黄士君の体調が気にならないって言ったら嘘になるけど……」


ん? 今、赤原君の目がキランって光ったように見えた。


……気のせいだよね。


「よし、行く」


赤原君に何があったのかは知らないけど、その一言で私達が黄士君の家に行くことは決定した。








「はい、松坂ですが」


インターホン越しに聞こえてきたのは、とっても透き通った声の女の人だった。


多分、黄士君の母親だろう。


「あ、私、黄士君の友達の莉奈と申します! 黄士君のお見舞いに来ました!」


私はちょっぴり緊張して、軽く裏返った声でそう言った。


うぅ、恥ずかしいよぉ。


「あらあら、黄士の彼女かしら。今、着替え中だから、少しだけ待ってね」


そう言って、インターホンはプツンと音を発しなくなった。


「か、彼女だって! き、着替え中だって!」


「そんな興奮しないの」


みどりは私の頭のてっぺんをチョップしてきた。その後ろでは、愛白が楽しそうに笑っている。なんだかんだ、私達3人はセットみたいだ。


一通り、黄士君の家の前で漫才をし終えると、玄関がガチャリと音を立てて開いた。


「どうぞ、黄士は自分の部屋にいますよ」


そこへ出てきたのは、声のイメージどおりの美人お母様。


「あ、ありがとうございます!」


私はまた、裏声気味でその美人お母さんに挨拶をした。


「こ、この人が私の未来の母上様!?」


「飛躍しすぎだって」


みどりは再び、馬鹿じゃないのと呟いて頭を小突いてくる。


ねぇ、そんなに叩くと痛いよ。


家の中に入ると、私達5人は靴を脱いで、黄士君がいると思われる2階へと向かう。率先して歩く赤原君と昇君は、多分この家に何度も着たことがあるのだろう。迷うことなく足を動かしていた。


赤原君があるドアの前で止まると、ガチャリと取っ手を回してドアを開けた。


「よっ、元気か?」


赤原君は私達が買ったお見舞い品を、あたかも自分が買ったかのように、ベッドの上で寝ている黄士君に差し出した。


「祐太……」


そう呟く黄士君は、まだ私達に気付いていないみたいだ。いつも以上に無防備で、ちょっと可愛い。


「って、え?」


お見舞い品を手に取ったときに、私達を見つけたのだろう。らしくもない声を出した。


「え?」


「なんか、お前のことを心配して皆来てくれたんだ。まぁ、言いだしっぺは俺だけどな」


嘘付け。


私は心の中でニッコリ笑いながらそう言った。まぁ、口に出ていたとしても気にしないけどね。


「それで、どう? 体調のほうは」


昇君は優しいボイスで黄士君に聞いた。黄士君は悩む姿を見せて、明日にはと呟く。そんなところもクールなの!


「黄士君、大丈夫!?」


ここで、やっと私の出番だ。一気にベッドの横へと位置づけた。


「え、あ、うん」


黄士君は夏風邪の熱で、ほてった顔を私に見せないように反対側をむいてしまった。そんなに恥ずかしいのかな?


「ちょ、莉奈ぁ」


未だにドア付近に立っているみどりから名前を呼ばれ、私は振り返る。


「まぁ、明日には来られるなら大丈夫そうだな。んじゃ、また明日。あんまり心配かけさせんじゃねぇぞ」


赤原君はそう言って、黄士君に背を向けた。


……って、もう帰っちゃうの!?


私があたふたしたからなのか、昇君はニコッと笑って私の耳元で呟いた。


『残っていっても大丈夫だよ』


その言葉にドキッとする。そこの言葉の意図には全く気付けなかったけど、私はとても嬉しい気分になれた。


だって、あの黄士君と二人きりになれるチャンスなのだから。


「いいの?」


私も小声で呟く。昇君たちは私が黄士君を好きなのを知っているのだ。これは応援してくれていると受け取っていいのかな。


「まぁ、あんまり迷惑かけない程度にね」


昇君はいつもの女落としと評されている笑顔でそう言って、私の傍から離れていった。赤原君と何か会話をしながら、みどりも部屋から出て行く。愛白は私にニコッと笑うと、皆と一緒に部屋を出て行った。


バタンとドアが閉まる音がすると、黄士君は再び私のほうに体を向ける。


「……え?」


そりゃあ驚くでしょう。誰も居ないと思って振り返ったら、私が居るのだから。


「もうちょっと居るって言っちゃった」


エヘヘと笑うと、黄士君は困ったように少しだけ笑った。


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