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十人恋色  作者: Toki.
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水の恋色(3)

「黄士君ファンクラブを立ち上げました!」


朝、学校に着くと、私はみどりたちに向かってそう言った。


「え?」


驚いた表情をしたみどり。それもそうだ。私と黄士君達が遊んでから、まだ2日しか経っていないのだから。


「その、ファンクラブの人数は?」


「私、一人だよ!」


ニコッと笑うと、みどりは軽くため息をついた。


「それって、ファンクラブって言うの?」


「う、わ、わかんないけど……」


「それに、それは公認なわけ? どう考えたって……」


みどりのその言葉に、私は目を光らせた。


なんたって、あの土曜日にこんなことがあったんだから。












「え、えっと……その……」


服を選び終えた私は、黄士君にずっと話しかけていた。彼はただ、たまに「うん」とか「そう」とか答えるだけだが、それだけでも私は嬉しかった。


その話の中で、私は思い切って聞いてみたのだ。


「あの、ファンクラブ作っていいですか?」


「ふぁ、ファン……?」


「そう、ファンクラブ!」


ニコッと笑顔を見せると、さっきまでこっちを向いていた黄士君が、反対方向に顔を向けた。


「駄目?」


私がそう聞くと、小さく「いい……けど」と答えてくれたのだ。


ということは、つまり!?










「公認って言いたいのね……」


みどりは呆れたように、再びため息をついた。


「どう考えたって、その返事の仕方は莉奈の勢いに負けて言っちゃった感じじゃない」


確かに、みどりの言うことは最もだ。


でも、でも! 私は、はっきりと彼の口から了承の言葉を聞いたのだ! 何も間違ってなんかいない。


「間違っていないんだ!」


「何、カッコよく決めようとしているのよ」


「別にいいじゃない。それにしても、みどりの恥ずかしがり屋病には感謝する! みどりが、赤原君と二人でも余裕で遊べる女の子だったら、私はきっとこんな恋はしなかったはず!」


赤原君の言葉が出てきて、みどりは焦っているみたいだ。


「え、ちょ!? 私はその、恥ずかしいから2人を呼んだんじゃなくてね?」


顔を真っ赤にしながら言っても、説得力なんてものはありませんよ、お嬢さん。


「はいはい、分かった、分かった。でも、本当に感謝しているんだからね」


私がニコッと笑うと、みどりは諦めたのか「どういたしまして」と答えて笑った。


そして、私はみどりに一つの提案をしてみた。


6人でお昼を一緒に食べようと。


もちろん、学校で赤原君と一緒にご飯を食べるなんて芸は、みどりの恥ずかしがり屋病を考えても、到底できる技じゃない。


だけど、私は少しでも黄士君の傍に居たいのだ!


みどりはやっぱり否定を続けている。


「そっか、じゃあ駄目だよね……」


私は諦めた……かのように見せた。この私が、そう簡単に引き下がれるわけが無い。


みどりが行くのが嫌というのならば、向こうから来てもらうしかないじゃない。






私は昼休みの前の休憩時間に、昇君へと近寄った。


「ねぇ、昇君」


私が呼びかけると、その甘いフェイスが私の視界へと入る。


「あ、水本さん。どうしたの?」


どうやら、タイミング良く赤原君とは一緒じゃないらしい。聞く話によると、赤原君もみどりに似て恥ずかしがり屋さんらしい。見た目からは全くと言っていいほど想像がつかないんだけど。


「一緒に、お昼のお弁当食べない?」


不思議そうな顔をした昇君に、私は色々と言葉を重ねた。赤原君とみどりをもっと仲良くさせようとか、もっと学校でもラブラブさせようとか。


もちろん、最後には私の気持ちも伝えたんだけどね。黄士君が好きだと知った昇君は、知ってたよ、みたいな顔をしていた。まぁ、あれだけ土曜日にアピールしていたら、誰でも気付いちゃうとは思っていたんだけどね…。


とにかく、昇君もみどりたちの事に関しては賛成だったらしく、私の提案に賛同してくれた。


よし、これで大きな味方が付いたぞ。あとは、昼時が来るのを待つだけだ。


私はニヤニヤしながら、みどりたちの下へと戻った。






そして昼休み。私はドキドキしながら迎えた。


どうやら、昇君はこういうのは上手いらしい。いつの間にか私達の隣に居て、みどりもビックした顔で弁当を開けていた。


「お、美味そうじゃん」


そう言ったのは赤原君。みどりの開いた弁当にお箸を突っ込むと、玉子焼きを取って口の中へと放り込んだ。


美味しいと言っている赤原君を見て、みどりは顔を真っ赤にしていた。きっと、この弁当はみどりが作っているのだろう。確か、昔にそういう話をした気がする。


「黄士君も食べる?」


私は無理矢理黄士君の隣に座ると、やっぱり一方的に喋り掛けてみた。


「い、いらない……」


どこかで買ってきたパンを食べながら、黄士君は私を見ずに答えた。


「そっかぁ」


そして私は、黄士君が食べているパンへと視線を向ける。別に狙っているわけじゃない。ただ、ちょっとした閃きが私の中を過ぎったのだ。


「明日から、黄士君の分の弁当も作ってこようか? みどりも、赤原君の分を作ってきたらどうなのよ」


ニシシと笑ってあげると、みどりは思いっきり否定した。その光景を見ていた赤原君はあからさまに落ち込んでいる。


「ほらほら、赤原君落ち込んじゃったじゃない」


「お、落ち込んでねぇよ」


そう言って、赤原君は弁当を食べ始めた。


「ね、どう? 私が黄士君のお弁当作ってきてあげるよ!」


満面の笑みのつもりで笑ってみたが、黄士君がこっちを見ようともしない。


むぅ、それそれで悲しい。


「め、いわくだし」


黄士君がポツリと呟いたその言葉を私は一生懸命拾った。


「迷惑じゃないよ! 私、お弁当作るの好きだし、なんたって……」


やっぱり赤原君や昇君に知られるのは恥ずかしいから、私は黄士君の耳元で『私、黄士君のファンクラブだよ?』と呟いてみた。


「え、え!? つ、作った……?」


慌てている様子の黄士君。もしかして、私の言葉を本気にしていなかったのだろうか。まぁ、もう遅いことだけど。


私は肯定の意味を込めて、ニッコリと笑った。


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