水の恋色(2)
「ご飯いこうぜ」
前を歩く男子集団から、私は目が離せないでいた。
「さっきから、どうしちゃったの?」
再び、みどりに心配されるような行動をとっていたみたいだ。
「え、いや……そのさ」
今言えば、目の前にいる彼に聞こえてしまうかもしれない。私は、また後でと言って、今は誤魔化しておいた。
「莉奈、変なのぉ!」
ニコニコ笑う愛白には悪気は無いんだろうけど、やっぱり彼女の声は本当に大きい。
前にいる男子集団からも、視線をいっきに浴びた。
そ、そんなに見ないで……。
と、思っても、彼だけは私を見ていなかった。
私達の行きつけであるファミリーレストランに着いた。ここは安いし美味しい。
女子3人で来ると、6時間は普通に潰せる場所でもある。まぁ、フリードリンクだけの客なんて、お店にとっちゃ、いい迷惑だと思うけどね。
自然の流れに任せていると、窓側に女子の私達が。その逆方向に男子が座るようになった。
私の前には愛しの彼が。
心臓がバクバクして止まらないよぉ!
私達が座る頃を見計らって、店員さんは近寄ってきた。
「ドリンクはどうされますか?」
20代前半ぐらいの女の人が、優しそうにそう言った。
その言葉を聞いて、赤原君はみどりへ何かを聞いている。すると、みどりは私達のほうを見て、今日はフリーじゃなくてもいいよね? と聞いてきた。私と愛白は、反応的に頷く。
「じゃあ、俺はメロンソーダ。昇と黄士はどうする?」
赤原君の隣に座っている昇君と黄士君に聞いた。昇君は一瞬迷って様子を見せて、笑顔でお茶と。黄士君はクールに僕もとだけ呟く。
カッコイイ……。
その言い方、カッコイイよ黄士君!!!!!!!!!
私の目がハートになっていると、隣から愛白に体を揺すられた。
「な、な、ななななななに!?」
「何じゃないのぉ! 莉奈はどれにするって聞いてるんだよ?」
むぅと、口を尖らした愛白が目に入る。
「え、えっと……お茶で」
「はーい!」
愛白は返事をすると、店内に響くぐらい元気に注文を終えた。
目の前に座る黄士君。
眼鏡をはめて、木陰で本を読んでいると絵になるんじゃないかっていうぐらいクールな男の子。
学校で何度か見かけていたけど、私服の破壊力は半端ないものだった。
別に、至ってすごい格好をしていたわけじゃない。なぜか、そのオーラが私の心を魅了した。
それから数分後、ご飯を注文し終えると、私は席を立った。どうしても、この二人に言いたいことがあったから。
長年のコミュニケーションで、二人に合図を送る。
「……」
みどりに目線でコンタクトを取ろうとするが、全く私に気付く気配が無い。
今のみどりには、赤原君しか映っていないみたいだ……。
私は次に愛白へと視線を向けた。
……まぁ、愛白に期待した私が馬鹿だった。彼女は私の視線に気付いたんだけど、事もあろうか「何見てるの?」で済ませてきた。まぁ、そんなところも彼女のいいところなんだけど。
私は「お手洗い行ってくるね」と言うと、さすがのみどりも気付いたようだ。愛白はというと、別に気付いたわけじゃないんだけど、一人残されるのが寂しかったのか、私達と同じように席を立った。
これじゃあまるで、合コンをしているみたいだ。
「どうしたの?」
化粧室に着くと、みどりは真っ先に私の行動について尋ねてきた。
「あのさ、黄士君いるじゃない?」
「うん、いるね」
みどりは不思議そうな顔で答える。
「カッコイイ……っていうか、惚れたんだけど」
私がそういうと、みどりは数秒間固まった。
愛白は気にする様子も無く、ニコニコと笑っている。
「え、えええええ!?」
いきなり大声を出したみどりの口を、私は必死に押さえた。
「黄士君!?」
「う、うん!」
私は真っ赤になりながらも、みどりに落ち着いて! と叫びながら答えた。
「そ、そうなんだ!」
みどりはいつもより少し大きめの声でそう言った。みどりは私の告白に驚きを隠せないみたいだ。
「そうなの! だからね……手伝ってください!」
私は両手を合わせて頭を下げると、みどりは落ち着いたのかプッと笑い始めた。
「いいよ! 一緒に、黄士君を攻略しようではないか!」
みどりは右手をグーにして、突き出してきた。これは、私達が何かを協力してするときには必ずと言っていいほどするもの。
私はその拳に向かって、私の拳を突き当てた。
「頑張ろうね!」
愛白も笑顔で応援してくれている。私はそのことが嬉しくて、いつもより笑顔になれた。
席に戻ると、私達が頼んだ料理は運ばれていた。
「おっせぇよ」
赤原君がみどりにそういうと、みどりは怒りながら「女には色々あるのよ」と答える。
「じゃあ、食べようか」
みどりの一言で、私達は箸を手に持った。
ご飯を食べ終えて、私達はみどりのスケジュール通り買い物に来ていた。
どうしても、赤原君の服を選びたかったらしい。それならば二人で行けばいいのに、なんて思った私は駄目な人間なのだろうか。
でも、ここに来てよかった。
黄士君の私服姿を見ていなかったら、今の私はこんなにも充実した気分になれていなかったはず。
みどりの恥ずかしがりやにバンザイだ。
みどりが一生懸命赤原君に似合う服を探していると、黄士君と昇君は暇そうに二人で服を眺めていた。
「愛白、行こう」
私は愛白の手を取って、二人に近づいた。
「黄士君と、昇君……」
私は勇気を出して、二人の名前を呼んだ。最初に返事をしてくれたのは昇君のほうだった。
「どうしたの?」
昇君は、女の子から相当の人気を得ている。彼が見せる優しい性格と、その笑顔で女性のハートをゲットしているのだ。
「何かしない? あ、黄士君の服を私が選んであげる!」
私はニッコリ笑って、黄士君の腕を取った。
「……?」
突然の行動に、黄士君は不思議そうな顔をしている。昇君のは愛白に任せた!
私は愛白にウィンクすると、愛白も私の意図に気付いたみたいで、昇君と楽しそうに話しを始めた。
その中に、黄士君の名前が聞こえてきたのは気のせいだと思っておこう。
「ねぇねぇ、これなんてどう?」
私は服を黄士君に合わせながら、尋ねてみた。全く関心の無い様子の彼は、何も喋ろうとはしない。
そこがまた魅力的なの!!
「えっと……」
4着目にして、やっと黄士君は口を開いてくれた。喋れない黄士君もかっこいいけど、喋ってくれる黄士君もカッコイイ!
「服、あるから……」
「そ、そうなんだ」
そうだよね、赤の他人の私が服を選んでも迷惑なだけかもしれない。
駄目だよね……。
ちょっと落ち込んでいると、黄士君が再び喋りかけてくれた。
「でも、一着欲しい」
黄士君のその言葉がとっても嬉しくて、私は再び黄士君に合いそうな服を選び始めた。