水の恋色(1)
「ねぇ、みどり。最近赤原君とはどうなのよ?」
私、水本 莉奈は、みどりをからかうのが好きだ。赤原君ネタでみどりに何か言うと、すぐに顔を真っ赤にするの。
「べ、別に関係ないでしょ!?」
昼食をとりながら、みどりはそう言い返してきた。
みどりと、その幼馴染の赤原君が付き合いはじめてから1ヶ月が経った。あれから、何かが変わるというわけでもなく、いつものように二人は喧嘩のようなものをしている。
ようなもの、と言ったのも、みどりは前とは違って寂しそうな表情をしないからだ。
二人は楽しそうに言い合いをしている。昔までは、あんな顔はしなかった。
いつものように、私達3人は楽しく学校で昼ごはんにありついていたとき、みどりは何かを決心したかのように箸を机の上に置いた。
「あ、あのね……」
言いにくそうに言葉をにごらせる。
「どうしたの?」
私がそう聞くと、みどりは少しだけ顔を赤くした。
へぇ、赤原君ネタか。
「え、えっとその……今度ね、祐太とデートするんだけど……」
みどりがそこまで言うと、愛白はパァッと顔を光らせる。
「本当!? おめでとー、みどりぃ」
天使のような可愛い笑顔で愛白はそういう。その言葉に反応して、みどりは顔をより一層赤く染め上げてしまった。
「え、えっと、その、それでね、6人で遊ぼうって言う話が出て……」
「6人?」
私はその6という数に疑問を持った。
みどりの仕草によると、二人では何度か遊んでいるみたい。聞いても答えてくれないから、本当のことは全く分からないんだけどね。
「そう。私達と、祐太の友達の3人で遊ぼうって言われて」
オドオドしたままみどりはそう言った。
多分、この様子を見たところ、みどりは二人じゃ恥ずかしいからって私達を巻き込んだな……。
まぁ、私としては、みどりの彼氏をじっくりと見たいから全然OKなんだけどね!
決断したら、即行動。それが私の志とでも言うのかな?
「わかった! じゃあ、今週の土曜日遊ぼうよ!」
私がそういうと、みどりは安心したかのように一息ついた。
「じ、じゃあ、私は祐太に言っておくから。二人とも土曜日空けておいてくれる……?」
私は笑って頷く。愛白は大きな声で「はーい!」と返事した。
その行動で、教室全体の注目を浴びていることに彼女は気付いていない。
まぁ、日常茶飯事だから、私達もなれちゃったんだけどね。
そして、私達は話題を変えて、ご飯を食べ始めた。
土曜日。
私は、みどりから連絡を受けた時間に合わせて準備をしていた。
11時に駅前の時計台の下に集合。
ここから歩いて出かければ10分も掛からない。私はゆっくりと身支度をして、家を出た。
今日の服は、ちょっぴりいつもよりも決めてきたつもり。
みどりの彼氏の友人達と遊ぶのだ。みどりの評価を下げるわけにもいかないし。
内心、ドキドキしている私は、いつもより足早に集合場所へと向かった。
時計台の下に着くと、そこにはみどりだけが立っていた。てっきり、赤原君と一緒に来ると思っていたのに、少しだけ残念だ。冷やかすポイントが減ってしまったよ。
「おっはー! みどりぃ」
私は片手を上げ、みどりの名前を呼ぶと駆け足で向かった。
みどりは私に気付くと、笑顔になって私を迎えてくれる。
「おはよー。今日はごめんね?」
申し訳無さそうなみどりの顔を見て、私は少し笑ってしまった。
正直、みどりの顔は可愛い。今の今まで、誰も手を出さなかったのが不思議なぐらいだ。まぁ、学校生活をこれだけ過ごしていると、嫌でもその理由が分かってしまうのだけれど。
もちろん、赤原祐太の存在だ。彼が故意的にやっているのか、無意識にやっているのかはわからないけど、みどりに近づく男に向かって放つ殺気は容赦ないものがある。
私はその光景を見るたびに苦笑いしていたほどだ。
「そういや、赤原君たちは?」
私は疑問に思ったことを素直に口に出すと、みどりはあたふたしながら時計を確認していた。
きっと、私が怒っているとでも思ったのだろう。
「も、もうすぐ来るよ!」
「おっけぇ!」
私はピースしてみどりを安心させるために笑った。
そんなやり取りをしていると、みどりと私の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。
「愛白!」
「ちょっとお洒落してきちゃった」
エヘっと笑うと、みどりは愛白の服装をほめ始める。愛白は、白い服がよく似合うのだ。天然の彼女は、子供のとき、よく白い服を汚して家に帰っていたらしい。
「みどりも綺麗だよ! 赤原君が来るからかな?」
ニシシと愛白もみどりをからかうと、すぐにみどりは顔を真っ赤にした。
「そ、そ、そんなこと……」
確かに、今日はいつも以上に気合が入っている気がする。服装も、いつもはラフな格好をしているんだけど、今日はヒールを履いてきているし。
「それにしても、今日は何するか決まっているの?」
みどりに聞いてみると、彼女は手帳を開き出す。もしかして、スケジュールまで組んできたの? さすがはA型……。
「えっと、最初はご飯食べるでしょ? それでね……」
みどりが、これからの予定を言っているとき、私の後ろから声が聞こえてきた。
「お、いたいた」
聞こえてきたその声は、学校ではよく聞く声。
「ゆ、祐太!」
みどりの真っ赤になった顔は、さらに赤みを増して愛しの彼の名前を呼んだ。
私のみどりが向いたほうに目を向けてみた。
……ズキュン!
本当に、えっ……という感じだった。
私の心は今にも爆発しそうだ。
なんたって、こんなにも一目ぼれというものに破壊力があるなんて思ってもいなかったから。
カッコイイ……。
心の底からそう思ってしまった私は、もう何も止めることは出来なかった。
ただ、今は彼だけに私の全てを奪われている感覚がする。
「り……?」
バクバク。
弾け飛びそうだ。
体が熱い。きっと、顔が真っ赤になっているに違いない。
「莉奈?」
私は名前を呼ばれながら、みどりに体を許されて彼から目を離した。
「どうしたの?」
みどりの心配そうな目。今は、みどりに心配をかけさせる訳にはいかない。
私は思いっきりの笑顔で、なんでもないよと答えた。