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十人恋色  作者: Toki.
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茶の恋色(3)

携帯を片手に、俺は自宅のベッドの上で悩んでいた。


メールをするべきか、どうなのかを。


ここでメールをして、何になるというのだ。


俺と、玲奈の関係はもう終わっている。そして、始まることもないはずだ。


なのに……どうして俺の指は、この紙に書かれているアドレスを打っているのだろう。


『もう一度』


その言葉が、一瞬頭をよぎった。


カチカチと携帯を打つ音が、静かな俺の部屋に鳴り響いている。それは、全てを打ち切るまで止まることはなかった。


しかし、その音はいっきに静まることになる。


原因は、内容部分に移ったときだった。


何を打とう? 今日は会えたね、とでも打てというのか? なんだ、その未練たらしい言葉は。


俺と玲奈は、もう別れたのだ。


『茶木 蓮』


結局、俺の名前を入れることが精一杯だった。そして、送信ボタンを押す。数秒間の後に、送信が完了されましたと表示された。


俺は携帯を閉じて、大の字にベッドの上に広がった。


開放的な気分になれるこの格好は、俺の好きな体勢の一つ。少し、自分に素直になりたいときにこうするときがある。


「ピリリリリリ」


携帯が音を発した。


携帯を閉じてから、数十秒しか経っていないというのに、もう玲奈から返信がきている。本当に、最近の女の子は打つのが早いみたいだ。


『メールありがとう! 送ってくれて本当に嬉しかった。また今度会おうよ』


ただ、それだけが書かれていた。


嬉しかった?


今度会おうよ?


俺には考えられないことだった。だって、俺は振られたのだ。あの“他の男と一緒に居た”玲奈に。


……会おうなんて無理だろう?


「考えてみろよ」


誰もいない自分の部屋で、俺はボソッと呟いた。


今、俺と玲奈が会ってどうなるというのだ。


それよりも前に、本当に玲奈は俺からメールが返ってきたことに対して、本当に喜びを感じているのか?


別れた奴だぞ。


俺は返信するのを、数十分ためらった。


結局、俺は返信することになる。やっぱり、心で理解は出来ていないみたいだ。


ちょっと自分に素直になろう。


『声が聞きたい』


この気持ちの整頓をするためにも。そして、みどりを好きになった理由についても。


全て解決するために、俺はある行動をとった。





右手を動かす。


いつもよりゆっくりと、俺は携帯のカチカチという音を鳴らしていた。


慎重に考えて、送っても大丈夫なメールの内容にするために。


『会おう。今度の日曜日とか空いているのか?』


俺の素っ気無いメールは、すぐさま玲奈へと届く。


そして、さっき同様に、すぐさま返事がきた。内容は少なく、分かりやすいものだった。


『暇だよ! その日会おうね』


俺は再び、玲奈と会う決意をした。












「蓮!」


駅の前で、元気がいい女が俺の名前を呼んだ。


「玲奈」


俺は手を振っている彼女の名前を呼ぶ。


今日は日曜日。午前、11時を回ったところだ。


俺達は昔から、何かあるごとにここで待ち合わせをしていた。互いの家に行くときにだって、必ず外で待ち合わせをしたものだ。


「ごめん、待った?」


俺より前に着いていた玲奈に声をかけると、玲奈は首を振って今来たところと答えた。


「何する?」


「ん~、蓮はどこに行きたい?」


この会話も昔どおり。俺達はいつだって行き当たりばったり立ったのだ。


「じゃあ、昼食も一緒に取りたいから、デパートにでも入るか」


「はぁい!」


玲奈はニッコリ笑って、俺の後ろに着いてきた。




今日は、ただ玲奈に会いたくて来たわけじゃない。




心に俺はそう言い聞かせ、デパートへと入り、ファミリーレストランへと俺達は入っていった。


「そういえばさぁ」


久しぶりに会ったからなのか、昔はあまり話さなかった、中学校時代の友人の学校生活について語ることが多くなる。


今は、あいつがもう学校を辞めたとか、誰かと誰かが付き合っているとか、そんなくだらない話だ。


「ねぇ、蓮」


玲奈は、一方的に話すのをやめ、俺の名前を呼んだ。


「どうした?」


「彼女いないってこの前言ってたよね」


「……あぁ」


いきなりこの話をし始めるなんて嫌な予感しかしない。


「私ね……」


そこまで言った玲奈を、俺は睨みつけた。そんなつもりじゃなかったのだが、体が勝手に動いてしまった。


嫌な予感が、再び的中してしまうのが怖かったからだ。


「聞いて」


玲奈の静かな声、こんな声は滅多に聞く事はない。だけどその分、いい方向に転ぶ確立は低くなる。


俺は怖かった。


逃げ出したくなった。


弱虫だと思われてもかまわない。もう、傷つくのはごめんだ。


「蓮」


下を向きっぱなしの俺を心配してか、玲奈はそっと俺の手を掴んだ。


「な、んだよ」


そこまでされて、反応しないわけもいかない。


「聞いて欲しいの」


顔をあげると、そこにはいつも以上に真剣な瞳で俺を見つめている玲奈がいた。


「ごめんなさい」


「なんで謝るんだよ」


俺は冷たい声で言い放つ。


自分に言い聞かすために。


やる事があって、俺は今日玲奈にあったのだと。


「不注意だった」


今にも泣きそうな表情をしていた。


「言い訳かもしれないけど、聞いて欲しいの」


俺が何か言ったら、玲奈はこの場で泣いてしまう。そんな感じがしたから、俺は口を開くことが出来なかった。


「あの男の人はバイトの先輩でね、いつも相談に乗ってもらっていただけで、何も無いの。あの時は……」


あの時。


俺達でいうあの時とは、俺が玲奈とそのバイトの先輩という男が一緒に居るのを見たときだ。


「蓮、覚えてる? 私たち、もうすぐ付き合って二年だったよね?」


俺は小さく肯定の返事をした。


「いつも蓮に頼りっぱなしだったから、蓮にプレゼントしたくて……。何がいいか分からないから、先輩に一緒に選んでもらおうとしてたの」


そのときにどうやら、俺は玲奈たちを発見したみたいだ。


「あの時、素直に言っていればよかったのかな……。そうしたら、蓮は私を許してくれたのかな? いや、私は先輩と一緒に行っちゃだめだったんだよね」


一粒、また一粒と玲奈から涙が零れ落ちた。


あの時、もしこの話を聞いていたら俺はどうしただろう? 許しただろうか。


いや、俺が許せなかったのはそんなことじゃない。


違うんだ。


「ねぇ、蓮。私……私ね」


「お前さ」


俺は玲奈の言葉を遮った。どうしても言いたかった。


「自分の容姿に気付いてる?」


玲奈の容姿は、誰もが認める美人だ。こいつのことを美人じゃないという奴がいれば、ここに出してほしいぐらいの。


「え?」


しかし、こいつ自信、自分の容姿の素晴らしさに気付いていないのだ。


「お前、俺がお世辞のような意味で言っていると思っていたみたいだけど、本当に綺麗なんだぜ?」


泣くのをやめ、玲奈は少し顔を赤くした。


「普通の男は、お前を放っておかない。中学校のとき、誰もお前に告白しなかったのは、お前が綺麗すぎるからなんだ。手を出したら、中学校男子生徒全てを敵にすることと一緒だからな。だけど俺はタブーを犯した。だから、俺はイジメにもあってきた」


今までの俺が受けてきたことを話すと、玲奈は唖然としていた。それもそうだろう、皆こいつの前ではいい人ぶっているのだから。


「お前と一緒に居た、あの男」


「先輩のこと……?」


「あいつだって、お前のことを女としか見ていなかったはずだ」


「……え」


驚くように、玲奈は俺を見ている。


「どうせ、俺と別れた後、あいつと付き合ったんじゃないのか?」


これは俺の想像だ。しかし、確実にあの男は落ち込んでいる玲奈に手を出したはずだ。


俺の言葉が正しいというかのように、玲奈は開いた口をつむんだ。


「……気をつけろよ」


俺は、さっきまで泣いていたのに、また泣き出しそうな玲奈を見ていられなくて、その場をたった。


そのとき、玲奈は声を張り上げる。


「蓮、待って!」


立ち上がった、俺の袖を玲奈は力いっぱい握っていたのだ。


「お願い、待って……」


玲奈は泣くのを堪えながら、俺に訴えてきた。そんな玲奈を放って、歩き始めるほど俺も悪い奴じゃない。


俺はゆっくりと、椅子に腰掛けた。


「まだ、言いたいことがあるの」


玲奈は下を向きながら、ゆっくりと話し始めた。


「蓮の言うとおり、私はあの後先輩と付き合ったよ。だけど、すぐ別れたの。な、何もされてないからね?」


玲奈は少し顔をあげ、こっちを向く。


「やっぱり駄目だったの。私……」


少し間をおき、玲奈の目はしっかりと俺の目を捕らえた。


「私、ずっと蓮が好きなの」








俺の思考は停止した。


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