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十人恋色  作者: Toki.
10/40

緑の恋色(5)

祐太に好きといわれてから、私は心臓をバクバク鳴らしながら家に帰った。


『お前のこと好きだからに決まってんだろ!』


確かに祐太はそう言った。


「祐太が……私を?」


……信じていいのだろうか?


だって、祐太は今までずっと私を嫌ってきたんだ。なのに、なんで今?


「どうして?」


どうして……。


祐太のいない世界で、蓮君と幸せな人生を過ごせると思ったのに。


……幸せ?


私は本当に、そうなったとしたら幸せに過ごせたの?


祐太がいない世界なんて、考えられる?


答えはもう出ていた。


自分の部屋のベッドに仰向けに転がると、私は携帯を片手にとった。


もう一方の腕は、私の視界を隠すようにかぶせる。


「もしもし?」


「どうした?」


心配そうな蓮君の声が電話越しに聞こえてきた。


『だから今度は、俺がみどりの心を暖めてあげたい』


優しい声で言ってくれた、蓮君を私は思い出していた。本当にあの時、私は蓮君になら全てを捧げられるんじゃないかって思った。


「みどり?」


私は何も喋ることが出来なかった。


頭の中で、次の言葉を考えた瞬間、私の喉は押しつぶされたかのように喋れなくなったのだ。


「れ、れんく……」


うまく喋れない。


あぁ、私泣いているんだ。


そう気付いたとき、私の耳に涙がこぼれ付いたのが分かった。


「ごめん……ごめんねっ」


ただ、それだけを呟いていた。今の私は謝ることしか出来ないから。


「ごめん……」


心のダムが崩壊したかのように涙は溢れる一方だった。


「みどり……」


数分間、私の声を聞き続けてくれていた蓮君がそっと喋り出す。


「俺なら大丈夫だから」


いつものように、明るい声で答える蓮君。


「みどり」


「なっな、に?」


しゃっくりが出て、上手く喋ることが出来ない。


「俺の分までさ、幸せになってくれよ」


蓮君は最後まで泣かなかった。多分、苦しいんだと思う。


私には分かる。


いつもより少し違ったから。


「ありがとう……」


私は蓮君に泣きながら感謝の言葉を呟いた。








電話が切れてから数分間泣き続けていくと、だんだんと落ち着いてきた。


「ふぅ……」


心を落ち着かせるように、大きく息を吐く。正直、まだ辛い。


「祐太」


私は蓮君ではなく、祐太を選んだのだ。


10年間の思いは、そう崩れることは無かった。


「祐太、会いたいよ」


会いたい。


急に恋しくなって、私は立ち上がった。


もう我慢できない、これ以上彼と離ればなれになるなんて考えられない。


そして足を速める。


もちろん、目的地は祐太の家だ。


1分ほど歩いたところに、祐太の家はある。昔よくお邪魔させてもらっていた。


「はい」


チャイムを鳴らすと、祐太のお母さんの声が聞こえてきた。


「おばさん!」


インターフォン越しに、私は聞くことにした。今考えてみれば、私の顔は多分真っ赤にはれている。こんな顔を祐太のお母さんに見せるわけには行かない。


「祐太なら、今ちょっと出かけているけど……」


その言葉を聞いた瞬間、かなり気が落ち込んだ。せっかく祐太に会えると思ったのに。


私はおばさんに感謝をつげて、一旦その場から離れる。


よく考えてみよう。祐太のよく行く場所は?


……知らない。


幼馴染とはいえ、この何年間朝の登校時間でしか一緒になったことがないのだ。


祐太が遊ぶ先なんて知るわけが無い。


「あ、そうだ」


私はひとつ閃いた。


即行動。携帯を片手に持つ。


電話帳からある人物の名前を探した。多分、彼なら祐太の居場所を知っている。


「もしもし!」


コール音が消えると、私はまっさきに声をあげた。


「え、みどり?」


それは私が昔よく遊んでいた友達。


「昇君、祐太の場所知らない?」


青木 昇だった。彼とはもう、何年も喋っていない。いきなり電話がかかってきた昇君はビックリしているはずだ。


「え、祐太? 今家に居ないの?」


「うん」


「じゃあ、神社だな」


少し間をおいて答えたのは、神社という不特定多数の場所だった。この辺は、なぜか神社やお寺が多い。神社というキーワードだけでは、わかりっこないのだ。


「あのさ、道の外れにある……」


昇君は、祐太がいると思われる神社の道を言葉で案内をしてくれた。


歩きながらその案内にしたがっていると、神社がうっすらと見えてきた。そのとき、昇君は思いもよらないことを口走る。


「……みどり、頑張れ。祐太なら受け止めてくれる」


「え?」


「大丈夫だよ。俺は、みどりと祐太がずっと恋人になればいいって思ってた」


「どういう……」


「じゃあ、頑張れ!」


そう言って、一方的に電話が切られた。


私は色んな人に支えられて生きている。そのことが、この場面になって思い知らされた。


神社へ足を踏み入れると、奥のほうにあるベンチで仰向けになっている人物の姿を捉えることが出来た。


一歩、また一歩とそれに近づいていく。


祐太。


彼の隣まで言って、心の中でそう呟いた。


きっと、ここで声を出せば私は覚悟を決めなきゃいけない。


祐太と付き合う覚悟を。


「ゆ……た」


最初は聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声。


正直言って、怖かった。


祐太とうまくやっていけるのか、あの言葉が祐太の本心なのかということが。


「ゆうた」


今度は少しボリュームをあげる。


しかし、まだ反応しようとはしない。


「祐太」


今度はさっきよりもずっとはっきり名前を呼んだつもりだった。だけど、彼は気付こうとはしない。


「祐太!」


もう一度彼の名前を呼んだ。愛おしくてたまらない彼の名前を。


そして、口は開かれる。


「え?」


驚いた表情で私の顔を見る。


「どうしてここに?」


どうやらここは、祐太の秘密基地みたいな存在らしい。いたるところに、祐太のものと思われるものが置いてあった。


「ねぇ」


私が覚悟をきめて、ある言葉を言おうとすると、祐太の声がそれを遮った。


「や、めろ」


祐太は目を瞑って、私のほうから視線をそらした。


「聞いて」


お願い。祐太、こっちを向いて。


「……悪かった」


「は?」


いきなり祐太の謝罪の言葉に私は戸惑った。なんで謝るの?


そして、次の瞬間、信じられない言葉が。


「勢いで言ってしまった」


「勢いって……じゃあ、あれは嘘だって言うの!?」


……嘘。


そんなことは聞きたくなかった。私は騙されていないって信じたかった。


私の言葉に罰が悪そうな顔をする祐太に私は問い続ける。


「どうなのよ?」


嘘じゃない……でしょ?


ねぇ、言って?


私のことをもう一度好きだって言ってよ!


「ねぇ、答えてよ?」


「お、俺は……」


もう、嫌いだなんていわないで。


私、せっかく決心したのに!!


「お前のこと……」


それ以上、聞きたくない。


言わないでよ。その言葉はこの10年間のどの言葉より辛い言葉。聞いてしまったら、全てが終わってしまう。


私、ずっと祐太のこと見てきたのに。


彼女がいても、私……


「私、ずっと我慢してたんだよ?」


涙が出そうになった。もう、我慢しなくていいって思ったのに。


「祐太のこと……」


心がうまく制御できなくなっていた。


「分かってたよ!!」


祐太の張り上げる声が、私の耳の中から脳天へと通じる。


「知ってたよ! お前が俺のこと嫌いなことなんかずっと前からな! だから、俺はお前に言い寄らなかっただろ! 好きじゃなくなろうと努力したんだよ! けど無理だったんだ! もうお前には近寄らない。それでいいだろ? 満足だろ? 我慢しなくていいんだぜ? 俺の顔なんか見なくていいからな」


耳を疑った。


私が祐太のことを嫌いだって?


祐太が私を好きじゃなくなろうと努力したって?


……私に近寄らないって?


「……帰る」


祐太のかすれた声が私の耳へ届いた。


ねぇ、祐太。私たちはすれ違っていただけなの?


いつも、いつも、私たちはお互いにお互いの気持ちを勘違いして、勘違いさせていたんだよ。


もう、一人で全て解決したように思わないで。


そんなことを思った私は祐太を引き止めた。


「何でよ……」


私の声は少しずつ大きくなっていく。


誤解を解きたい。


それが私の現段階、全ての意志だった。


「何でよ! 本当に嫌いだったら、一緒に登校なんてするわけないじゃない!」


私は震えながら、そう叫んだ。


やっと素直になれたよ、私。


「……幻聴?」


疑うような目で彼は私を見た。


だけど、もう一度解放された気持ちは、留まるということをしなかった。


「私、祐太のこと大好きなの! なんで気付いてくれないのよ!」


「嘘……つけ」


「嘘じゃないわよ! 10年も前から好きだったのよ!」


「や、めろ。からかうなよ」


「本当にわかんないの!?」


「わかんねぇよ!!」


なんで信じてくれないのよ!!


そう思った私は、自分でも信じられない行動をとった。


私は生まれて初めてキスを交わした。これが私の気持ちだと信じて欲しくて。


もうすれ違ったりしない。気持ちを通じ合わせたい。これが私の幸せだから。


「これで、信じた……?」


目の前にいる祐太は、何が起きたか分かっていないようだ。


「信じられないなら、もう一回するけ……」


私の言葉の途中で、祐太は私の口を口で塞いだ。そしてすぐ離す。


「ちょ、何よいきなり!」


「お前だって!」


そこで私は馬鹿らしくなって、口を開くのをやめた。ただ、唇の感触を思い出す。


本当に私は祐太と……?


「本当なの……?」


驚きのあまり、私の心の言葉は口へと出た。


「ファーストキスだったんだからね……」


祐太にこの出来事を責任とって欲しくて、私からはそんな言葉が漏れていた。普段なら、恥ずかしくて絶対いえないのに。


「なぁ、みどり」


優しい祐太の声。私はずっとこの声を待っていた。


「今なら信じられる。その、なんだ……言ってくれないか?」


祐太は恥ずかしそうにそう言った。それがとても恋しくて、私は祐太の望んでいる言葉を呟く。


「祐太」


ねぇ、どれだけ言ったら、私の愛の大きさを測れるのかな?


「大好きだよ」


すっと、私は祐太の腕の中に吸い込まれた。


「俺も大好きだ」


その言葉が嬉しすぎて、私の瞳からは大粒の涙が零れ落ちる。


私は涙を見られないように、祐太の胸にしがみついた。













生きていくために光を必要とする葉のような愛。


それが緑の恋色。


世界でただ一つの恋色。



おつかれさまでした。そして、読んでくださった皆様、ありがとうございます。

これにて、緑の恋色 早川 みどりのお話はおしまいです。

赤の恋色を見た後では、赤の恋色との温度差というか、感じてもらったものは違ったでしょうか?

祐太に自分の気持ちを気付いて欲しくて、色々大胆な行動まで……!

そして、この話で一番のキーだった茶木 蓮。彼もまた、失恋してしまいました。


しかし、恋は次の物語を生み出すのです。

次は、その茶木 蓮のお話となります。

どんな話になるのやら。

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