この秋の海に幸
まだ死んだ魚には
なれないのだから、
朝晩、地下道を歩いて
仕事に向かう。
周りを見渡すと、
どの人も年下で、
腰など曲げずに
魚になっている。
時はまた伝える術を
進化させて、
一人一人の意識に
入り込んでくる。
誰かがどこかで
ふと思ったことを、
ほんの少し後で、
吸い込んでしまう。
知らなくてもいい、
知らないほうがいい、
神様の御業と仕事に、
邪魔にもなる情報過多。
年下の人たちは、
この海を泳いでいる。
年上の人たちも、
どの海を泳いでいる。
死んだ魚にはなれぬと
思ってはいても、
海が汚れていたら
自ずと弱ってくる。
海を汚していたのは、
工場の垂れ流しだった。
海を汚しているのは、
この思いの垂れ流し。
朝晩仕事に向かい、
戦争に駆り出されずに
いることの幸運に会う。
この幸運も垂れ流し。
咳こめない日々になり、
心底に感じられる詩に、
たくさん出逢おうと、
この秋に栞を挟んだ。
仕事に向かいながら、
仕事から戻りながら、
汚してしまった海を
労り、浄めようと。
そして昨日から戻り、
明日へと向かって、
年も人種も関係なく、
幸多くあれと書く。