8.デート
日差しが強い晴れやかな天気になった。フランは、休日でも基本的に部屋から出る事が無かったのだが、今日は特殊な事例だ。
本当に彼は来るのだろうか。
フランは緊張しすぎて、気がつけば1時間前に噴水近くにあるベンチに座っていた。何故、自分はこんな所にいるのだろうという感情がずっとフランの頭の中でグルグルと巡っている。
自分を落ち着かせるために、フランは台本を開いた。台本はカバーをかけて何を読んでいるか分からないように配慮していた。
思考を巡らせる。
どういう指摘をしようか、彼にあう演技プランは何か、考えるだけで楽しくなる。異性との付き合いに不慣れなフランは、仕事のことを考える方が落ち着くことが出来た。
集中して台本をある程度読んでいた時、ふいに台本がパッと無くなった。さきほどまで台本があった空間には、人の体が姿を現した。瞬間、フランの体は硬直する。
フランは恐る恐る見上げると、随分と不機嫌なエリシャがいた。普段と違い、少し長めの金髪を軽く結んでいる。可愛らしい衣装とは違い、シックな衣装に身を包んでいた。普段女性を演じていると思えない男らしさが滲んでいた。
「何でドレス来てないの?」
「へ?」
「ドレス」
フランは確かにいつも稽古に行く時のようなフォーマルなジャケットを着ていた。
「あのぉ……実家にすべて置いてきたので、ドレスは無いです」
気まずくなってフランは手元に目をやる。それも数秒で、景色が動いた。エリシャがフランの手を思い切り引っ張ったのだ。フランの身体はフッと浮き上がり、気がついたら立っていた。
「買う」
「いや、使わないので――」
エリシャは急ぎ足で街中へと歩き始めた。フランの足も連られて動き出す。何も抵抗が出来ない。繋がれた手が、柔らかく、温かくて、思わずフランの顔が紅潮した。
デートと言われて身構えていたが、ライが言った通り、同性と遊んでいるような気楽な感覚がフランの中から滲み出す。
彼の御用達のお店で、フランは様々なドレスを試着させられた。女装をした店員さんが色々と拍手をしてくれる。フランの気恥しい気持ちとウキウキした気持ちが天秤のように揺らぐ。フランが似合うドレスを来た時、エリシャの嬉しそうな顔を見れて、意外と笑う人なのだと新たな発見をすることが出来た。
エリシャは、フランのために、青色とオレンジ色のドレス二着買ってくれた。
「ありがとうございました」
買い物が落ち着いて、購入した青いドレスを着たフランは、エリシャが好きな飲食店に入った。食事が来るまで時間で、フランは改めてお礼を言う。
「敬語無し。次、そのドレス着てきてよ」
エリシャは先にきていた飲み物を飲みながら、当たり前のことをしたかのような口調で返答する。
次のデートあるのかとフランは戸惑う。
「あと、これ」
エリシャは立ち上がり、フランの髪の毛に手を伸ばす。エリシャの身体が近い。フランの目が泳ぐ。
しばらくして、エリシャはスっと座る。フランの髪には、可愛らしい小さな花の髪飾りが付いていた。フランは思わず触る。
「似合うと思って買っておいた」
エリシャの顔が別の方向を向いている。少しばかり頬が赤らんでいるような気がした。
「いいん……ですか。こんなに」
「大丈夫。次、付けてきて」
「……はい」
フランは躊躇っていた返答をついに出してしまった。
綻んだエリシャの笑顔がとても綺麗だった。
「エリシャさん、そういえば……これ」
「あぁ、あったんだ」
フランは渡すかどうか悩んだ末、ぐちゃぐちゃになってる2冊の台本を取り出した。エリシャは特に悲しい顔をせず、素直に台本を受け取る。
「新しい台本も……これ」
なるべく敬語を使わないようにすると、何処かたどたどしい言葉遣いになってしまう。
「ありがとう」
「ごめんなさい。こんな事になるまで気づけなくて」
「分かってた事だから」
「強くなりましたね、エリシャさん」
「フランさんのおかげだよ」
フランは私がそんなことしたのだろうかと首を傾げる。その光景をエリシャはからかっているような顔で見つめた。




