9.練習
稽古はその後、特に問題なく進行していった。エリシャは初デートで何かを掴んだのか、演技の繊細さが増していった。しかし、歌とダンスはまだ技術が不足している。そこを補うため、エリシャはセナを誘い、自主稽古をしていた。
「エリシャさん、大分、ダンスも表現力があがってきたよ」
「ありがとうございます」
男役のセナとも相性が良い。エリシャの技術不足をセナが大丈夫だよと包み込んでいる。
「少し休憩しようか」
「はい」
エリシャは顔は汗をかいていないが、服が練習量を物語っていた。エリシャは少しフラフラした足取りで稽古場から出ていく。
「セナさん、すいません。少し心配なのでついて行きます」
「フランさん、ありがとう。お願いします」
稽古場から出ていたエリシャの脇をフランはしっかり抱え込む。はじめてフランは自分からエリシャの身体に触れてしまったのに気がついたが、構わず身体を支えた。
「ありがとう」
「更衣室に行きましょう。もう少しです」
近くにある更衣室にエリシャを連れていき、椅子に座らせる。その横にフランも少し空間を保ちながら座った。日々の練習が彼の身体を蝕んでいるのは分かっていた。
「……ねぇ、覚えてる?」
荒かった息遣いが、少し改善した頃、エリシャはフランに語りかけた。
「私、小さい頃に劇場に遊びに来ていて迷子になったんだ。その時、お姉さんが助けてくれたんだ。口の上に黒子があって、それが凄い印象的だった」
「――――私だ」
フランは当時の事を思い出した。あの手を取った小さい子がとフランは驚く。
「あの時の――」
「一目惚れだったんだ」
2人きりの更衣室で、エリシャは優しくフランを抱きしめた。




