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異変


 翔也が落ちて来た次の日、学校は急遽一日だけ休校となった。


 生徒たちに落ち着く時間を、という話らしいけれど、本当は押し寄せてくる報道への対策だろう事は何となくさっした。どんな理由にしろ、休みになった事で僕はホッとしていた。今学校に行ったところで、どんな顔をして行けばいいのか想像も出来なかったからだ。


 家にも何度も来た事がある翔也の死に、家族も驚いていた。それが分かったから、僕は部屋から出ようとはしなかった。正直、何を聞かれたところで僕にも分かっている事は一つもないし、話しをする気にもなれない。今はただ、静かな空間で過ごしたかった。


 食事に呼び出されそうにもなったけれど、まったく食べる気にもならなかったからお茶だけ飲んで、すぐ部屋に戻る。


 スマホを手に取り、すぐに手放した。幼馴染たちにさえ、今は連絡を取る気にはならなかった。それは皆も同じようで、特に誰からも連絡はない。皆自分の気持ちを整理することでいっぱいいっぱいになっているのだと思った。




 翌日、一日だけの休校が終わり、惰性で登校していくと、校門のところに人影が見えた。


 もしかして、報道関係の人たちが張り込んでいるのかもしれないと警戒する。けれど、その人影は一真だった。


「おはよう。どうしたの?」

「ちょっとな、それより、大丈夫だったか?」

「何が?」

「来る途中で、マスコミに掴まってる奴がいたよ。インタビューされてた」


 一真が僕の来た道と反対を見て言った。やっぱり、そういう人たちもそれなりの数が来ているのかとうんざりする。


「僕は大丈夫だったよ。一真は?」

「オレも大丈夫だ。それより、神奈と恵里香が来たらちょっと付いてきてほしい」


 そう言った一真の声は、どことなく震えているような気がして、何か良くない事を察した僕は黙って頷いた。


 少し待っていると神奈がやってきて、その後すぐに恵里香も登校してきた。


 二人とも顔色がよくない。ムシムシと暑い中、寒そうに自分の腕を抱いている神奈。恵里香もいつものおっとりした笑顔を失っていた。


 同じくよく見れば顔色が悪い一真が、話しがあると二人にも伝えると、神奈も恵里香も特に理由を聞くこともなく付いてきた。むしろ、二人とも何か話すべき事があるみたいだった。




「昨日と今日、家にこれが届いた」


 昼休みにいつも集まっているベンチで、そう切り出した一真が鞄から取り出したのは、紙で包まれた何かだった。


 僕には何か分からなかったけれど、神奈と恵里香は違ったらしい。ビクッと身体を震わせて身を引いた。


「何これ?」

「開けてみれば分かる」


 僕の質問に、一真は顔を歪めてそう言った。自分では何なのかすら口に出したくないみたいだった。そんな様子、若干肌寒さを感じたけれど、見て見ないことには話しも進まない。僕は一真の手から紙包みを取って、丁寧に開いてみた。


「……うわっ⁉」


 思いもしなかった中身に驚いて、僕は手を離してしまった。


 紙と中身が地面に落ちる。包まれていたのは、髪の毛の束だった。


「か、髪の毛?」

「あぁ、それに紙もよく見てみてくれ」


 開き切った紙は、人型になっていて、そこで初めて形代だった事を理解した。


「昨日同じものが郵便受けに入ってたんだ。それはすぐに捨てたけどな、今日も同じものが入ってたから、一応持ってきた」


 一真が少し怯えているように見えたのは、これが理由だったのだろう。皆にも虐めの矛先が向き始めたのだとしたら、そう考えると冷や汗が出て来た。それに、いたずらだとしたら質が悪すぎる。


 ただ、皆は僕とは違う可能性を考えているみたいだった。


「それ、うちにも来た。気味悪くてすぐに捨てたから持って来てないけど」

「実は私の家にも届いてた。私もすぐ捨てちゃったけどね。これってやっぱりあれかな、神様からなのかな」


 様子のおかしかった二人も、一真が見せたものを見て言う。だから、二人は紙包みを見た時点で、それが何か分かり、身を引いたのだろう。


 一真だけでなく、恵里香と神奈の家にも届いていた。そんな異常事態に、僕もいたずらとはとても思えなかった。


 だいたい、虐めをしていたクラスメイトたちが形代なんてものを使う理由がない。それに、僕たちが形代を気にする理由の『身代わりかくれんぼ』の事は、僕たちしか知らない事だ。


「マジで神様っているんかな?」


 引きつった笑いを浮かべながら一真が呟いた。その声はさっきよりもはっきりと震えている。神奈も恵里香も、何の反論もしなかった。僕はこの空気を何とかしたかった。


「い、いるわけないよ! きっとこれも僕を虐めてた誰かがやったんだ。皆に僕から離れるように警告してるのかもしれない。僕のとこには届かなかったし、きっとそうだよ!」

「……あの時、優君は鬼だったから」


 恵里香の言葉にどんな意味があるのか分からない。ただ、何か確信めいた言い方をする恵里香が少し怖い。


「鬼だった事が、何か関係あるの?」

「身代わりかくれんぼをした時、鬼だけは紙人形を付けなかったよね? それって、鬼は隠れた人を見つける神様と同じ立場で、連れて行かれる心配がないからなんじゃないかな。つまり、いつも鬼をしていた優君は神様が連れていく対象外だってこと」


 教室の空気が氷ついた。


「かくれんぼの事を知ってるのは、私たちだけでしょ。優君を虐めてる人達が紙人形の事なんて知ってるわけないもの。だから、鬼をしてた優君以外に、神様から届けられたって考える方が、辻褄が合う気がしない?」


 恵里香の真っすぐな目が少し怖かった。


 二人も複雑な顔をこちらに向けている。


 僕はもう何も言えなくなった。僕たちの間に少し距離が出来たような気がした。

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