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形代


「なに言ってんの恵里香?」


 そういう神奈も大真面目な顔をしていた。厳外にふざけないでという叫びが聞こえてきそうな気がする。


 恵里香に静かな怒りをぶつける神奈。その空気の冷たさに、割って入るのが躊躇われた。けれど、当の恵里香はまったく怯んでいない。大真面目な顔つきのままだ。とても冗談を言っているような人の顔には見えない。


「紙人形が置いてあったでしょ」


 恵里香は神奈の気迫にひるむことなく、何も気にしていないように話を続けた。


 紙人形。形代のことだ。紙を人型に切ってつくられたもの。


 日常生活では滅多に見る事のない形代。学校ではもちろん見たことはないし、僕がこれまでに見たのは、ほとんどが漫画とか映画の中だけだった。


 ただ、一度だけ生で見たことがある。『身代わりかくれんぼ』幼い頃に神社の行事で行われたその遊びに参加した時だけ。


 そんな珍しい物が、あの時、翔也の死体のすぐ傍に、いつの間にか置かれていた。最初はなかったような気がする。けれど、あの時は翔也の事しか見えていなかった。僕の視界に入らなかっただけで、最初からあったのかもしれない。けれど、どちらにしろあんな物があったのは不思議で、不気味だった。


「あれが何なの?」

「あの神社で遊ぶ時は、あの紙人形を身体に貼っておかないと、寂しい想いをしてる神様に連れて行かれちゃうって言われてたでしょ。私たち、言いつけを破って神社で遊んでたから」


 真顔で話す恵里香が、どんな気持ちでこんな事を言っているのかは僕には分からない。けれど、流石に現実味がなさすぎる話だ。反論せずにはいられない。


「そんな事言っても、あの神社で遊んだことは何度もあるじゃないか。身代わりかくれんぼをした時しか、僕たちは形代をつけてなかった。それでも今まで何も起きてなかったんだよ?」


 言い伝え通り本当に神様がいて、形代を付けずに遊んだ子供を連れて行ってしまうなら、僕たちはとっくに皆連れて行かれているはずだ。今更何か起きたところで、関係があるとは思えない。そんな僕の想いとは対照的に、恵里香は神様が存在する可能性を捨てていないようだった。


「最後にしたかくれんぼが良くなかったのかもね。行事になってるくらいだから、かくれんぼだけ、特別な意味があるのかもしれないよ」

「それにしたって何で今更? あの時だって結局、恵里香は無事だったし、あれからもう十年くらい経ってるんだよ?」

「ん~この前神社に行っちゃったから、とか?」

「いや、ないよ。ない。それよりもっと現実的な事を考えないと、実際に三人があぶないかもしれないんだよ! 一真も神奈もそう思うでしょ?」


 正直、恵里香がこんな事を言うとは思っていなかった。翔也が死んで、三人にも魔の手が伸びてくるかもしれないという状況なのに、あまりにも現実味のない事を言うなんて、少し危機感が薄い気がした。


 それか、冷静そうに見えて、実は誰よりも動揺しているのかもしれない。むしろそう考える方が自然だと思った。普通、仲のいい友達の死体なんて見たら動揺しない方がおかしい。二人にも諭してもらって、少しずつ落ち着いてもらう必要があるかもしれない。


 けれど、すぐ僕に続いてくれるだろうと思っていた二人は、何故か黙ったままだった。


「一真? 神奈?」

「……一概に無い、とは言い切れないんじゃないか?」

「なっ⁉ 一真まで本気?」


 予想外だった。普段からオカルトになんて興味がなかったはずの一真まで神様を信じるような事を言うとは思わなかった。


「私も、ちょっと怖いかも」

「神奈まで⁉」


 いったい皆どうしてしまったのだろうか、大人しい恵里香はともかく、気の強い方である二人まで、普通なら絶対に信じなそうな話を否定してくれない。僕はこの状況に少しだけ恐怖心が湧き上がって来た。


「あの紙人形さ、初めはなかったんだよ」

「……どういうこと?」


 あの時の光景を必死に思い出しながら、一言一言確認するように口を開く一真。


「正直、翔也の事を直視できなかった。だからオレはあの周辺を見てたんだ。だからこそ、最初はあそこには何もなかったって、はっきり言える。おかしいんだよ。あの紙人形はいきなりあそこに現れたんだ。オレが目を離して、振り向くまでのちょっとの隙に、――


――そんな事出来るのは、神様とかだけなんじゃないか?」


 僕は初めから見てたわけじゃないから何とも言えない。けれど、一真が嘘をついているとも思えなかった。


 結局、僕は神様とかいう非現実的なものが関与している可能性を、皆の頭から消し去る事が出来なかった。

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