表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/9

冒険者ギルド

 「おいおい、ありゃ『鉄仮面』じゃねぇか?」

 「おお、本当だ。最近見ないと思ったら久しぶりだな。しかし……」

 

 そんな会話をしている他の冒険者をすり抜けて、納品カウンターに足を進すすめる。

 

 「相変わらずの腕前だな」

 「ああ…… Sランクなのも納得だぜ……」

 

 皆見つめるのは俺が抱えた獲物。ランクA以上にしか割り振られないクエストモンスター、マンティコアの死体だ。

 

 俺はそれをドサッとカウンターに置く。

 

 「依頼品だ。査定と現金化を頼む。」

 「わかった。」

 

 査定担当のおっさんは慣れたやり取りなのか、特に驚きもせずにてきぱきと査定作業を進める。査定が終われば一旦ギルドで買い取り、冒険者にお金を渡す。ギルドはモンスターを解体して素材に換え、必要とする商人などに売りさばく。

 

 こうやって成り立つのが冒険者とそれを管理する冒険者ギルドの稼業である。

 

 査定が続いている間、俺はその辺の椅子に座って待っている。すると、受付嬢のショコラが小走りでこちらに駆け寄ってきて耳元でささやいた。

 

 「ギルドマスターが時間がある時に顔を出せと言ってましたが、いかがします?」

 「これから会おう。」

 「では、お二階へ」

 

 そういって俺は二階の階段を上っていく。

 

 そんな『鉄仮面』の後姿を見ながら、ショコラは「ふへ~」と一気に気を抜いた。そんなショコラの姿を見て苦笑するのが先輩のシュガー。どちらもマロン色の髪でとびっきりの美人。この町の冒険者の憧れでもある。

 

 「相変わらず、『鉄仮面』さんの対応は緊張します~」

 「あはは、お疲れ様。寡黙なうえに表情が見えないから仕方ないわね。」

 

 シュガーのねぎらいの言葉にショコラはうんうんと頷く。

 

 「それに、ついにSランク冒険者になっちゃいましたからね。ああ~もう、昔の自分を殴り飛ばしたい気分ですよぉ!」

 「それは私も同じよ……」

 

 昔、『鉄仮面』がまだE級冒険者という最下位のランクだったころ、その時も二人は冒険者ギルドの受付をしていたが、当時は随分と冷たい対応をとってきたものだ。低ランクの仮面をかぶった不気味な冒険者。そんな彼に親切にできるほうが奇特なわけで、決して二人が意地割りでそうしたわけではない。

 

 だが、ギルドマスターだけはそんな彼に常に期待していたし、今となってはギルドマスターくらいしか彼とまともに会話することもできない。

 

 「よく二人で会ってますけど、一体何の話をしているんですかねぇ~」

 「そうねぇ、最近は二人で闘技場にこもることもないし、何の話かしら。」

 

 ギルドトップとこの町有数の冒険者の会話。気にならないほうがおかしいが、かといって知りようもない。そんなことをふと思いつつも、次々と受付に訪れる冒険者の対応に二人は追われた。

 

 

 

 

 「よぉ、久しぶりだなぁ。」

 

 ガハハと笑うのはギルドマスターのゴライアスさんだ。

 

 「ご無沙汰しています。」

 「そんな他人行儀な挨拶はやめろよ。ったく。あ、そうそう、無理を言ってお願いしたマンティコアの狩猟ありがとうな。助かった。」

 

 「いえ、お金も弾んでいただけますし、問題ないですよ。」

 「そういって、偉くなっても俺の言うことを聞いてくれるのはお前くらいなもんだぜ。」

 

 こうして、しばらくの間、ゴライアスさんの愚痴を聞くことになった。

 

 「ああ、そういえば、この間、面白い話があった。ドゴール学園の高貴な方々が冒険者になるっていって申請してきたぞ。」

 

 「ほお、それはそれは」

 

 アリア達のことだろう。知ってはいるが、アリアと俺の関係性を知らないゴライアスさんには知らないそぶりをしておかなければならない。

 

 「魔法科に通う学生4人のパーティーだ。そのうち3人は剣も使えるらしいがな。武技科の連中は何をしているのかと嘆かわしくなる。」

 

 「モンスターの接近を許さなければ魔法だけでも十分にやっていけますからね。」

 

 もっとも、冒険の過程では不意打ちされることもある。武技を使える仲間がいるのといないのとでは旅の安定度が全然違う。

 

 「まぁ、そうなんだがな。そこでお前に相談がある。連中に武技の手ほどきをしてやってくれないか?」

 

 「は?」

 

 「いや…… お前も驚くことがあるんだなぁ…… もう一回言うぞ? 連中に武技の手ほどきをしてやってほしいんだわ。」

 

 しばし考えた。確かに、武技を学んでくれたほうがアリア含め全員の生存率が高まり、いいことづくめだ。

 

 だがしかし、武技を教えている中でひょっこり正体がばれたらどうする?

 

 特にアリアにはばれる可能性がある。長年一緒に暮らしてきたのだ。ちょっとしたしぐさや喋り方で感づかれる可能性もゼロじゃないだろいう。

 

 そして、それは非常にマズイ。

 

 「私以外の人ではダメなのでしょうか?」

 

 俺以外にも武技を教えられる人間くらいるだろう。

 

 「それがなぁ、なんとロマリア王国からの正式な依頼ときたもんだ。よほど子供が大事に見える。報酬金額も、ほれ。」

 

 そうして、俺に手渡されたのは1通のレターだ。

 

 「お前への届け先が分からなかったからギルド宛に届いたぞ。それで中身も見ても構わないというから見させてもらった。悪く思うなよ?」

 

 俺はその手紙を確認する。




 

 "拝啓、『鉄仮面』様。

 

 あなたに国を救っていただいてから、もう3年もの月日が経つのですね。

 その節は大変お世話になりました。王国はおろか、民に至るまであなた様に感謝しています。

 

 さて、最近私の娘がパルスの学校に通うことになり、あなたに憧れて冒険者になるといって聞きません。

 勿論、将来にわたってずっと冒険者になるという話ではなく、せめて在学中だけでもという話なので、私としても娘のわがままは聞いてやりたいと考えていました。

 

 娘は魔法はそこそこ使えますが、あなたが得意とする武技が全く使えません。

 そして、娘から話を聞くと、なんとパーティーを組むことにした者達全員が武技をろくに使えないことが分かりました。

 

 これではとても不安でおちおち眠ることもできません。

 

 貴方のお仕事のお邪魔をするようで申し訳ありませんが、娘とその仲間の方々に武技の手ほどきをしてあげていただけないでしょうか。

 

 勿論、費用はお支払いします。

 

 小切手にお好きな金額を書き込んで銀行でお受け取り下さい。

 

 追伸

 

 娘の結婚相手はまだ定まっておりません。お見合い話を持ち掛けても応じてくれません。

 あの子の母親として将来を心配しています。もし『鉄仮面』様に意中のお相手がいないようでしたら、私の娘などはいかがでしょうか? "



 

 途中から手紙を持つ手が震えてしまった。

 

 手紙を読み終えた俺の顔を、ゴライアスがニヤニヤと見つめてくる。

 

 「…… 何を笑っているんです?」

 「いやぁ、俺の弟子も隅に置けない奴なんだなぁってな。ちょっとした親心だよ。」

 「ソウデスカ……」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ