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捜査官のような女の子

 毎日が目まぐるしく動いていく。

 

 やはり一日の活動時間の大半を占める学園生活というものが本格的に始まると、これまでしていたことが疎かになってしまう。もっとも、それは関係各位(・・・・)には既にそれとなく伝えてあるのであまり問題になることはない。

 

 それにしても学園の授業というのはどうもこう、緊張感が出なくて困ってしまう。今受けている錬金術の授業もそうだ。

 

 今やっているのは錬金術の中でも薬品と薬品を混ぜ合わせ新たな薬を作り出す『調合』という技術の座学。

 

 言っちゃ悪いが錬金術の中でも基礎知識といったところ。

 

 とはいえ、僕自身習いたての時は、それはもうマルレーネさんに口酸っぱく注意されたし、失敗すれば怒られもした。うっかり薬品を間違えて爆発性のある物質を調合してしまった時のマルレーネさんの顔、マジで怖かった。

 

 そんな昔の失敗経験を思い出しながら苦笑いしていると、先生から何故か当てられてしまった。

 

 「ロード。随分余裕があるようじゃないか。どれ、この問題を解いてみなさい。」

 

 「す、すみません……」

 

 どうやら授業に集中していないということを見抜かれてしまったようだ。とはいえ、とりあえず解くようにと言われた問題を見る。

 

 ああ、典型なハイ・ポーションという高度な回復薬の調合の材料の配分と調合方法に関する問題か。と思い、すらすらと黒板に回答を書いていく。

 

 ハイ・ポーションはポーションと比べて細胞分裂を活性化させる成分の比率を高めたもの。だけど、その成分を持つ薬草を単に多くしただけではダメだ。薬草を乾燥させ、特効成分を抽出しなければならない。

 

 「できました。多分あっていると思うのですが……」

 

 「うっ、うむ。次からはちゃんと授業に集中するように。」

 

 何故か先生の顔が青い。どこから体を悪くしているのかもしれない。

 



 「ロード。お前って凄い奴なんだな。」

 「へ? なんで?」

 

 授業が終わると数名の生徒から絡まれてしまった。

 

 「いや、だってさ。ハイポーションの調合方法なんて、それ知ってたら既にちょっとした錬金術師としてはやっていけるレベルだぜ。」

 「そうそう、先生もきっと誰も答えられないことを前提に問題出してたと思うんだけど。」

 

 ……うっかりしていた。

 

 そういえば、アリアのことばかり考えていて、自分のクラスの生徒達の実力、教師の実力など考えながらレベル調整することを忘れていた。

 

 「あ、あはは。 いやぁ、うちの両親がハイ・ポーションに関しては詳しい人でね。」

 

 「へぇ、ロードの家って錬金術師だったのか。」

 「今度勉強教えてよ。」

 「あはははは、うん、今度ね。」

 

 こんな感じでのらりくらりとやり過ごす。

 

 

 

 いかんいかん、目立つのはダメ、目立つのはダメ、と言い聞かせながら次の剣術の授業に向かう。

 

 この学園では、剣術や魔術の基礎は三クラス合同だ。従って、グラウンドには魔法科、武技科、魔工科の三クラスの生徒たちが集まっている。

 

 剣術の授業はその名の通り剣の扱い方を学ぶための授業で、武技科の生徒がいずれ習う『武技』は使わない。

 

 『武技』とは、肉体の生命エネルギーを糧に身体能力を向上させることで発露する技のことで、魔法と並び、戦闘系職業では重宝される。殺傷力が高いため、学校で教える場合はかなり厳重な管理の元行われるのが専ら。

 

 どうやら、アリア達も一緒に授業を受けるようだ。

 

 遠目で目が合ったためか、アリアがこちらに向かって小さく手を振ってくる。相変わらず可愛い妹だ。こちらも小さく手を振る。

 

 そして、アリアの周りにいる生徒達を見て分かった。あれが、例の3人か。

 

 金髪の男がフリード皇子、赤い髪の女性がルイーゼ王女、そして黒髪の男がマサキ王子とかいったか。

 

 確かに、はた目から見ても突出した存在感。優れたビジュアル。性格は知らないけどアリアの学友としては申し分ない。

 

 もしかしたらこの場でその実力の片鱗でも見れるかもしれない。そうワクワクしていた。

 

 

 

 「今日は生徒諸君の実力を見るためにも、二人一組になって簡単な打ち合いをしてもらう。心配するな。ただ剣と剣を打ち合わせるだけだ。ただ、気を抜くと怪我をすることもあるから気を付けるように。」

 

 『はい』

 

 教師の指示に元気よく返事をする生徒達。

 

 しかし、まいった。

 

 二人一組と言われても、僕と組んでくれるほど仲良い友達なんていない。周りは着々とペアを作っていく。アリアを見ると、どうやらアリアはマサキという王子様とペアを組むことにしたようだ。

 

 いかんいかん、アリアの前に自分をなんとかしようと周りをキョロキョロ見ていたところで声を掛けられる。

 

 「私と組みませんか?」

 

 見れば、確か入学初日で僕の義手のことを尋ねてきた女の子だった。青髪の眼鏡をかけた女の子。ただし、今日は剣術の授業のためか眼鏡をかけていない。ただし、あの鋭い眼光は健在だ。

 

 「いいけど、君は確か……」

 「はぁ…… ソニアです。調合のレシピは知っていてもクラスメイトの名前は覚えないんですね。それより組んでいただけるんですか?」

 「もっ、勿論だよ。こちらこそよろしく。」

 「よろしくお願いします。」

 

 名前を憶えていないことを見透かされた上に、かなり気の強い? いや、口の悪い? 女の子のようだ。まぁ、名前を憶えていなかった自分が悪いのは間違いないが。

 

 

 

 カン、キン、カン、ガツン、カン、キン

 

 

 剣と剣のぶつかり合う音がグラウンドに響き渡る。剣は刃をつぶしてあるので切られるということはまずない。ただし、金属でできているのでそれなりに重さはあるはず。基本的には片手剣を皆使っているが、生徒によっては両手剣を使う者やレイピアや短剣を使う者もいる。

 

 自分に合わせた、自分が使いやすい武器を使うのが最良なので、そこは本人次第。

 

 僕はオーソドックスに片手剣を使っているし、目の前のソニアもそうだ。

 

 僕とソニアは、ソニアが打ち込んでくるのを僕が受け止めているという感じで進めていた。もっとも、そう取り決めたわけじゃなくていつの間にかそうなっていた。

 

 黙々と打ち込んでくるソニアを見た。

 

 剣筋は悪くない。ただ、どうしても素人という感は否めないが、鍛えればそこそこの実力にはなるんじゃないかと思う。もっとも、魔工科の生徒で剣術を頑張ろうとするものは少ないとは思うが。

 

 「余裕なんですね。」

 「余裕? というか、これ、ただの打ち合いですよね。」

 「ただの打ち合いだとしてもです。最初からずっと動きに余裕があります。剣術をどこかで学んでいたんですか?」

 「いえ、素人のはずですが?」

 「……」

 

 しまった。確かに言われた通りこんな練習は余裕すぎる。余裕なものを余裕ではないように振舞うのはとても難しい。といか無理だ。目立たないようにとは思っていてもこればっかりは無理だ。

 

 とはいえ、この程度でマークされるほどのことにはならないだろうとも思い、打ち合いを続ける。

 

 ソニアは黙々と練習を続けていた。真剣なまなざしに手加減なく打ち込んでくるその姿は中々様になっている。しかし、こうしてみると中々かわいい子だなぁと思ってしまう。

 

 アリアが清楚可憐な女の子という感じなら、この子はクールな女の子と言った感じか。ただ、クールといってもその内側にはかなりあくの強い何かを持っていそうな気はするが。

 

 「エクセレントリオ賞、ご存じですか?」

 

 急に問われた質問の意味が分からず、また、全く無関係ではないその名前に一瞬ドキッとした。

 

 エクセントリオ賞とは魔剣の品評会にて最高の評価を得た魔剣に対して贈られる賞。鍛冶屋や錬金術師といった魔剣の製造に携わる者としては知らぬ者はいないだろう、栄誉ある賞だ。この賞をめぐってどれだけの数の名工がしのぎを削るか知れない。賞を取れれば恐らく一生安泰と思われるほどの名声と仕事の受注が舞い込んでくる。


 内心を透かされたことを分かったかのようにソニアは話を続ける。


 「やっと心が動いてくれましたね。」

 「なんのことですかね。」

 「先月、エクセントリオ賞の表彰が行われました。誰が受賞したかご存じですか?」

 「いえ、詳しくは知りませんね。」

 

 嘘だ。勿論知っている。マルレーネ師匠だ。と言いつつ、その作成者は自分だったりするが。

 

 「魅惑の錬金術師、マルレーネ。名前くらいはご存じでは?」

 「ああ、名前は知っていますよ。」

 

 なんせ、マルレーネ師匠は錬金術師の中では割と有名だ。知る人ぞ知る、といったところか。

 

 「不思議だったんですよ。彼女はこれまで一度も品評会に魔剣を出品していないんです。そもそも得意分野は薬学方面でしたからね。勿論、工学方面にも卓越した技術があるのは知っていますが。」

 「詳しいですね。彼女のファンなのですか?」

 「いいえ、まさか。こんなことはちょっと調べればわかることです。ただ、その品評会で彼女の傍にあなたと似た人がいたので気になりました。もっとも、品評会ではあなたは目立たない位置にいましたからね。その時は気にもなりませんでした。私が気づいたのは自己紹介の時ですよ。」

 

 確かに授賞式の時はマルレーネ師匠の付き添いということであの場にいた。極力目立たないようにマルレーネ師匠の影のごとく振舞っていたはずなのだが、その場に彼女もいたとは意外だった。

 

 あの場はとても若人が出入りするようなところではない。

 

 「……」

 

 「沈黙ですか。それもいいでしょう。白髪に左手の手袋。随分と特徴的ですよね。ところであなたは何者ですか?」

 

 僕は天を仰いだ。

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