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冒険者

 「クラスはどうでしたか?」


 家に帰り、夕食でのこと、アリアが尋ねてきた。


 「いやぁ、初日からやってしまった感が否めない・・・・・・ 」


 やってしまった、というのは義手のことを知られたこと。あれを見てちょっと自分とは違うと感じた生徒は多いだろう。


 「まぁ、知られないのが一番だとは思いますが、下手に隠しているよりは良かったのではないでしょうか。」


 「そうかもしれない。」


 ポジティブ思考のアリアに励まされる。もっとも、別に僕もそこまで落ち込んでいるわけではない。そもそも友達を求めて学園に通っているわけではないのだから。まぁ、学園生活が楽しいことに越したことはないので、できれば友達が出来たほうがいい・・・・・・かもしれない。


 「そういうアリアこそ、クラスはどうだった?」

 「はい! 実に多くのお友達の方々が声をかけてくれました!」

 「アリアほどの優秀かつ奇麗な女子生徒は誰もほっとかないと思うよ。」

 「そんな・・・・・・ お兄様ったら」


 ちょっと恥ずかしそうに身悶えるアリアだが、これはお世辞ではなく客観的な事実だ。これまでどれほど不埒な奴らを葬ってきたか知れない。


 「将来に渡って友達になれそうな人はいたかい? まぁ、入学初日からこんなことを聞くのもどうかな、とは思うけど。」

 「さぁ、それはどうでしょう。」

 「まぁ、そうだよね。」

 「ただ、気になる方は何名かいらっしゃいました。」

 「へぇ?」


 アリアが気になる程というと、兄としては気になるところ。マークはしておかなければならない。


 「一人目は、ヘーゼル帝国の皇子様でした。しかも第一皇子。名はフリード様。帝国の皇子というだけあって、かなり優秀な方だとお見受けしました。」


 マルスの近隣国のうちの一つ、ヘーゼル帝国の皇子か。実力至上主義かつ昔のハルバード王国と同様に他民族・他種族国家だ。そして軍事・経済ともに大陸屈指の実力。その第一皇子となると相当なものだろう。


 「二人目は、ロマリア王国の第一王女、ルイーゼ様。出自だけでなく、その優美なお姿は殿方の憧れの的でしたわ。」


 これまたマルス近隣諸国の一つ、ロマリア王国の王女様か。王女以前にロマリア王国という国に関心がわいた。以前依頼で仕事をしたことがあった国だが、あれからだいぶ国力も回復しただろうか。ちょっと懐かしい。


 「そして、三人目、この方は少々規格外でした。学年主席。魔法だけでなく武技にも卓越した実力をお持ちだと評判の、勇者様のご子孫、マサキ・クスハラ様。新興国ジャポネスの王子様ですわ。」


 新興国ジャポネスを興した勇者の話はお師匠から聞いたことがあったけど、まさかそこの王子様がこの学園に来るとは思っていなかった。確か、その勇者はお師匠と共に昔魔王を倒した英雄の一人だったはず。


 いや、物語からすれば、勇者と共にお師匠が戦ったのか。


 なかなか粒ぞろいのクラスのようで何よりだ。あとはその中でアリアにふさわしいと思える相手がいればよいのだが・・・・・・


 まぁ、それはじっくり考えればいい。まだ時間はある。


 「その三人が新入生主席、次席、三席、ということか」


 そして、アリアが四席だろう。アリアには、肉体に問題ないレベルで陰に陽に様々な強化・育成を行ってきた。そうそう後れを取るものではない。


 「はい。早速意気投合されたそのお三方にお声をかけていただきました。」

 

 本来、ハルバード王国の王女という立場で学園に通うことができれば、ここまで謙った言い方はしなくて良かっただろうに、と少し苦々しく感じてしまう。


 「随分と社交的というか、なんというか、魔工科のクラスにもその社交性を分けてほしいよ。」

 「ふふっ、お兄様こそ、クラスに気になる方はいらっしゃいましたか?」

 「いやぁ、そんなことを考えることもなかったよ。義手の件で・・・・・・」


 ふと、あの眼鏡をかけた女の子のことが頭をよぎったが、話題に出すほどではない。


 「ただ、そのお三方から冒険者にならないかと、勧められました。何度か断ったのですが、特にマサキ様は諦めていただけず、困ってしまいました。」


 「ぼっ、冒険者?」


 色んな意味で驚いた僕は素っ頓狂な声を上げてしまう。


 何故にそんな高貴なお身分の方々があえて冒険者なんてことをやろうとするのか?

 実力的には申し分無いとはいえ、アリアが冒険者になる、ということへの忌諱感。


 「そして、断りつつも実は私も憧れていたのです。冒険者に。」

 「へ?」


 これまでのアリアの人生のどこに冒険者に憧れる要素があったのだろうか。


 「お兄様。「冒険者だけは止めておきなさい」と口酸っぱく忠告いただいていたことは重々承知です。ですが、冒険者になってみてもいいでしょうか?」


 真剣なまなざしでこちらを見てくるアリアに圧される。正直、こうなった時のアリアはかなり頑固でもあり、厄介な相手だ。それに、例の3人が一緒というのならそう悪いことにはならないかとも思った。勿論、色々と陰ながら支援しなければならないかとは思うが。


 僕はため息をついた。


 「わかったよ。こうなったアリアは何言っても聞かないからね。」

 「ありがとうございます! お兄様!」


 途端に満面の笑みを浮かべるアリアに苦笑いしてしまう。


 「しかし、どうして冒険者になんて憧れたんだい?」


 自分で言うのも何だが、命がけの職業だ。血を流し、泥水をすするような辛い思いをしてでも大金と栄誉を求める、そんな職業。


 蝶よ花よと大事に育てられた王族貴族様には似合わない。

 決して蔑みではなく。


 すると、アリアは恥ずかしそうにこう口にした。


 「『鉄仮面』様の英雄譚・・・・・・ 大好きなんです。」

 「ソウデスカ・・・・・・」


 何も言えなくなってしまった。


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