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入学式

 ドゴール学園は都市国家パルスにおいて著名な学園だ。まず、この学園に入学するだけでも10倍もの倍率を突破しなければならない。そのために裏金入学なんてことも結構あるらしい。


 そして、この学園に通ってくる学生はなにもパルス出身者だけではない。広く大陸各国から優秀な生徒が集まってくる。


 この学園の卒業生は、軍事、経済、政治、魔法、科学、様々な分野で活躍してきた。それだけ生徒も優秀だし、教える教師陣や教育設備もかなり充実している。


 したがって、学費も半端ない。


 もっとも、学費についてはアルバイト掛け持ちのおかげで困ることは無かったが、それにしても、恐らく一般の家庭では無理だろう。だから、ここの学園に入学できるという時点で、その人は相応の財力や権力を持つ者の子息ということになる。


 であれば、故郷のハルバード王国の貴族の息子も通うのではないか?という疑問が当然出てくるが、答えはYESである。


 だが、7年間の月日で随分と当時の面影は無くなっているし、僕に至っては髪の色さえ変わり果てた。昔ブラウンだった髪の色は今では白髪になっている。そして、名前も変わっている。


 そうすぐには勘ぐられない。


 それに、ここはパルスだ。仮に正体が学園の中でばれたとしても、やりようはいくらでもある。最悪、学園から逃げればいい。


 それ以上に、この学園の子息達と交流関係を持つことはアリアにとってリスクを犯してでもプラスと判断したから賭けに出たのだ。その判断は今でも正しかったと思っている。


 そんなことを考えながら入学式の祝辞を聞き入っていた。


 祝辞は恒例として生徒会長が行うものと決まっていた。


 「どこかで見たことがあると思えば、生徒会長は『雷姫』だったのか。」


 誰にも聞かれないほどの小さな声でつぶやく。


 『雷姫』ローズ・ヴォルティアナ


 冒険者になってわずか1年でB級冒険者に昇格した若きエース。その異名の通り、雷を扱える風属性の魔法を得意とする魔法使い。もっとも、剣の腕前も相当なものだと聞いている。


 そして、恐らく彼女のパーティー『六芒星』のメンバーもこの学園にいるだろうということは想像に固くない。


 金髪のツインテールに勝気なキリッとした眉毛が特徴の彼女は確かパルスの有名政治家の娘だったはず。あえて冒険者なんて危険な職業を選ばずともよかっただろうに、とふと思ったが、きっと彼女には彼女なりの事情があるのだろう。


 「この学園に入学されたこと、おめでとうございます。当学園はご存じの通り真に実力のある者だけが通うことを許された栄光と歴史ある学園です。みなさんはこの学び舎で学ぶ3年間を将来の貴重な糧とし、そして知り合う友人たちを将来の友人として、実りのある学園生活を送られるよう願っています――――」


 流石といったところか、よどみなく政治家のご息女らしくスピーチをする彼女に苦笑いしてしまう。冒険者ギルドで何度となく勝負を挑まれたこともあるが、あの時の彼女はもっとギラギラとした、それこそ野獣のような目をしていたように思えるが、流石に場をわきまえている。


 

 入学式はその後も主要人のスピーチが続き、特に問題なく終わった。


 その後は各クラスでのホームルームだ。


 といっても、別に大したことはない。各々が自己紹介をするだけだ。ロードの前に自己紹介をする同級生はみな将来の希望をキラキラとした目で熱く熱弁していた。時折見せる魔法科や武技科に対する、取る人にとっては蔑みとも思えなくもない言葉は、恐らく本心なのだろう。


 とはいえ、自分の将来に希望を持つ同級生達がロードにはまぶしく見えた。


 「10年後には――――――――」


 自分には存在しない5年後の将来。それを聞くのは正直辛かった。


 そんなことを考えていると、ロードの自己紹介の順番が回ってくる。


 「ロード・ブラックスミスと言います。運よく魔工科の試験に合格し、みなさんと3年間学ぶ機会を得ました。どうぞよろしくお願いいたします。」


 随分とあっさりとした挨拶に自分でも苦笑いしてしまう。だが、目立たないと決めた以上は余計なことは言わないほうがいいし、下手するとマルレーネ師匠の弟子であることがばれてしまう。それは決してプラスにならない。


 ちなみに、「ブラックスミス」という姓は金で買った姓だ。ハーバードなんていう姓を名乗れるはずはない。そして、アリアには「ラプソディア」という別の姓を買ってある。つまり、学園においては俺とアリアは兄妹ではないということだ。もっとも、ふとした時に「お兄様」と言われてもやむを得ないとは思っているので、長年兄妹のように育ってきた、という話にしようとアリアとは口裏を合わせてある。


 挨拶を済ませた僕はさっさと席に着こうとするが、質問を受けて狙いが外れた。


 「その、左手の手袋は何か理由があるんですか?」


 質問者を見たところ、小柄な青髪の女の子だった。眼鏡をかけ、そのガラスの奥には好奇心というより嗅ぎつけた疑惑を暴いてやるというような目をこちらに向けてくる。


 参ったなぁ、と苦笑いするが、恐らく追求は続きそうだから正直に答えることにした。


 「皆さんにお見せすると気を害される方もいらっしゃるかと思って黙っていましたが・・・・・・・」


 そうして手袋を脱いだ僕の左手は精巧なシルエットをした義手だった。


 「このとおり、僕は左腕を事故で失いました。だから義手をしているんです。もっとも、割と自由に動いてくれる義手なので生活に支障はありませんが、あまりお見せして気持ちのいいものじゃないでしょう? だからこうして手袋を常につけているんです。」


 途端に場の空気が凍り付く。


 そして、「またやってしまった」と深いため息をついてしまう。


 質問者の女の子はというと、やや取り乱したのか、「あっ、ありがとうございました」といって質問を終えた。


 その後も自己紹介は滞りなく進んでいったが、案の定と言うべきか、早くもクラスで浮いた存在になってしまったようで、下校まで誰からも声を駆けられることは無かった。


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