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プロローグ:弟子自慢

 世界有数の大都市、パルス


 その都市は人口500万を数え、世界各地からヒト、モノ、カネが集まってくる。


 冒険者が絶えないきらびやかな歓楽街、人外の剣闘士が力と技を競い会うコロシアム、世界の富豪が集うビジネス街、そして最先端の錬金術が織り成す高度な工業地帯。


 そんな大都市のとある酒場でとある三人が酒を飲んでいた。


 「こうして三人で集まるのは何年ぶりだ? しかし、ゴルディアス、お前はフケすぎだろう。柄にもないギルマスなんてやってるからそうなるんだ。」


 金髪にロン毛のローブを着こなした若い男が口を開いた。すでに多量の酒を飲んでいて、ひどく上機嫌だ。


 一方で、フケすぎと言われた男、ゴルディアスはフンと鼻息をならし、反駁する。

 厳つい、まるでプロレスラーのように盛り上がった筋肉とスキンヘッドが否応にも存在感を高める。


 「フン、ざけんなディオ。 エルフのお前と人間の俺を比べんなや。黙ってりゃまだ可愛げもあるってんのに、そんな口の悪い性格だから嫁が来ないんだよ。あ、根暗な時空魔法とか扱ってるからか。」


 「ぐぬぬっ」


 ディオは歯ぎしりするものの、否定する言葉が見当たらず、言い訳を探す。


 「時空魔法は究極的に高度な魔法なんだよ!誰でもひょいひょい使える六属性魔法とは違うんだよ!」


 そんなやり取りを続ける二人を冷めた目で見る最後の一人。唯一の女性で紫の長い髪にミステリアスな瞳をもった美女。名をマルレーネという。


 「久しぶりにあったと思ったら、相変わらずのガキね。あなた達が本当にまともに弟子を育てられているのか心底心配だわ。まぁ、弟子に似てバカなのかもね。」


 三人が集まるきっかけは弟子自慢だった。ギルマスのゴルディアスが、「自分の弟子がついにS級冒険者になった!自慢させてくれ!」というのがきっかけだった。するとディオとマルレーネも便乗。


 自分の弟子こそ凄い!という話に繋がり、久しぶりに飲むか、という話になった。


 「マルレーネ、美人のお前でも今の言葉はゆるせねぇ、取り消せ。」


 ディオの目は割とマジだった。


 「俺のことは馬鹿にしてくれていい。確かに魔法馬鹿でわがままで世間常識を知らないことも多々ある。だが、アイツはこんな俺とは違う。」


 マルレーネはディオの言葉に驚いた。何を驚いたかといえば、ディオがここまで相手を褒めるということ。弟子という贔屓目で見ていたとしてもあのディオがここまで人を褒めることは今までになかった。


 「時の魔王すら恐れた、時空魔法のただ一人の使い手と言われているあなたがそこまで言うなんて・・・・・・その弟子はそんなに凄いわけ?」


 「おうよ! あいつは凄いぜぇ? わずか6年だ。たった6年間で俺が教えることは何にも無くなっちまった。」


 ディオは嬉嬉として自慢げに語るが、ゴルディアスとマルレーネは驚愕した。それはつまり、たった6年間でディオの知る時空魔法を完全にマスターしたということに他ならない。


 「たった6年間で・・・・・・それも、扱いが難しすぎて数ある魔法の中でも最高レベルに人を選ぶと言われている時空魔法をか? おいおい、それが本当なら逆に物騒じゃねぇか?」


 ゴルディアスが心配するのも分かる。それほど時空魔法というのは特殊かつ強力なのだ。


 通常魔法の域を越えた魔術の行使。時に新たな空間を作り、時に空間を破壊し、時に空間同士をつなげる。さらには時間を止め、時間を早め、時間を遅くする。重力を操る。などなど。


 もはや、並みの戦士や魔法使いでは到底太刀打ちできない、まさに化物とすら呼べる。それが時空魔法の使い手であり、自分たちが良く知るディオという男だった。


 そのディオが褒めたたえる弟子とは、自分の弟子を会わせたくない。二人は密かにそう思った。


 「で、ゴルディアスの弟子というのはどういう弟子なの? あなたもディオと同じく褒めちぎってたけど?」


 すると、ゴルディアスは気分を取り直し、自慢げに語りだした。


 「わずか5年だ。 わずか5年でEランクからSランクへ駆けのぼった男だぜ。冒険者ギルドで記録にある限り最速のプロモーションだ。それも、クエストは全てソロときたもんだ。お前らだって名前くらいは知っているだろう?『鉄仮面』という異名をよ?」


 パルスで今最も勢いのあると言われている冒険者。それが『鉄仮面』と呼ばれる謎の男。その名の通り常に鉄の仮面を被り、さらに全身を黒いマントで包んだその姿は、誰にも素顔を知られていないとされており、冒険者の間でも噂の種であった。


 曰く


 「仮面の下は大やけどがあるらしい」

 「実は女性だ」

 「某国の王子だ」


 などなど、様々な憶測を呼んだ。


 神出鬼没で、どんな依頼でも通常の半分以下の時間で片付け、さらに獲物の殺し方もまるで寝ているところを一突きで殺したかのように奇麗なものだった。


 「それで? あなたがその『鉄仮面』に何をしたというの? 冒険者の心得を語ってみせた、とかだったら笑うわよ?」


 ギルドマスターの仕事はギルドの運営だ。冒険者個人の育成ではない。嘲笑するマルレーネにゴルディアスはムキになって否定した。


 「バカヤロウ! アイツに剣を教えたのは俺だぜ? アイツが時間がある時はギルドの俺専用の闘技場で何度も打ち合ったぜ。今じゃあ、3本に1本は俺に勝てるほどの腕前だ。」


 「ブホッ!? まっ、マジかぁ? 人類最強とさえ言われたことのあるお前に、それも剣で勝てるなんて、何の冗談だ? 本当にそいつ人の子か?」


 「ディオ、お前・・・・・・それじゃあ、俺が人の子じゃねぇってことじゃねぇか。」


 『・・・・・・』


 (どう見ても人間じゃねぇ(ないわ))


 ディオとマルレーネの思考が見事にシンクロする。



 最後はマルレーネだ。


 「コホン。私の弟子は貴方たちの弟子のように物騒な輩じゃないわよ? なんといっても錬金術師の弟子ですからね。」


 「いいからもったいぶらずにさっさと自慢しろよ。 で、お前の弟子は何がすごいんだ?」


 ディオが暇そうに手をぶらぶらさせてマルレーネの話を急かす。


 「急かさないでよ……わずか7年よ。 わずか7年で、私の技術を全て受け継いだばかりか・・・・・・ 魔剣の品評会で最高峰の『エクセレンタリオ賞』を獲得したわ。 ああ、本人があまり目立ちたくないということで、架空の名前で登録したのだけどね。」


 『エクセレンタリオ賞』


 それは、魔剣という、魔道具の一つであり、剣を志す者であれば誰もが欲しがる武器。その魔剣を作り出す世界中の鍛冶師や魔道具屋が技を競い合って出品する品評会において、最も栄誉ある賞と言われている。


 名声を得た者は一生生活に困ることは無いとさえ言われており、世界中の富豪が競ってその品を買い取ろうと画策するほどである。


 マルレーネはその世界では著名な錬金術師であり、そのマルレーネに認められるということは、つまりそういうことだ。


 「地味にすげぇな。まぁ魔剣なんて時空魔法の前にはカスだが。」


 「地味言うな。しばくわよ?」


 「いや、地味だな。『鉄仮面』のほうが何倍もすげぇ。」


 「ゴルディアス、今度から貴方の武器は面倒見ないわ。」


 「ごめんなさい」


 何を隠そう、ゴルディアスは自分の専用武器のメンテナンスをマルレーネに常に依頼してきた。武器のメンテナンスは非常に重要で、それは武器が特殊であればあるほどメンテナンスする人を選ぶ。ゴルディアスの武器をゴルディアスが求めるようにメンテナンスできるのはパルス広しといえどマルレーネくらいだろう。


 再び酒を飲み始める3人。


 しばらくして、ディオが新たな話題を振った。


 「なぁ、才能って大事だと思うか?」


 その言葉に興味を惹かれる二人。何を隠そう、ディオこそが才能の塊のような男じゃないかと思うのだ。勿論、ゴルディアスもマルレーネも才能に溢れた者達だ。だが、努力すれば人並にはなれる武術や錬金術というものに比べて時空魔法は才能がものをいう世界だと二人は考えていた。


 ディオの話はまだ続く。


 「俺は以前まで才能こそ全てだと思っていた。これまで何人も才能がある奴らが俺に弟子入りしてきたさ。だが、時空魔法をモノにせずに辞めていく。そして俺は「才能の無い奴らだ」と罵ってきた。」


 ディオは握っていたジョッキを一気に傾ける。


 「だがな。あいつと6年間も付き合っているうちに俺の考えは変わった。いや、変えさせられた。才能よりももっと大事なものがあるんだな、とな。」


 「ディオ、その気持ち分かるぜ。」


 「ふぅん? それじゃあ、二人に聞くけど、才能よりも大事なものって何なの?」


 『覚悟だよ』


 ディオとゴライアスは迷いなく言い放った。そして見事に声が被ったことでお互いの顔を見合わせて笑った。


 「『鉄仮面』はただ金を稼ぐために強くなろうとした。

 だがな、ただ金を稼いで遊びたいとか、そんな理由じゃねぇぞ? 

 詳しい理由は言えんが、あいつは大量の金を必要としていた。


 元手がある奴ならそれで商売でもすればいいんだろうが、生憎あいつには何も無かったからな。

 だからあいつは冒険者として命がけで金を稼ごうと腹をくくった。


 最初の頃は特にひどかった。そりゃもう、毎日のようにズタボロよ。それをどこから調達してきたのか、大量の回復薬で無理やり治してクエストを受注する毎日だ。


 『冒険したいから冒険者になる』なんて夢みてぇな甘い考えでいる奴が大半の昨今、あいつは心構えが周りの奴らと一回りも二回りも違うんだわな。」


 ゴルディアスの熱い語りをマルレーネはふぅん、という風に聞いていたが、ディオだけは相槌を打ち理解を示す。


 「分かるぜ、ゴルディアス! なんだか久しぶりに気が合ったな。俺の弟子も同じだよ。

 魔法の才能なんてかけらも無かったし、そもそも魔力が全然ねぇ。

 だがよ・・・・・・その方法は言えねぇが、奴はその前提となる魔力を底上げしてきやがった。

 文字通り、命を削って条件を揃えてきやがったわけだ。 あの時の奴の気迫は凄かったねぇ。」


 「なんなのよ、ただの命知らずのガキじゃないの。そのうちすぐに死んじゃわないか心配だわ。」


 マルレーネだけは二人の意見に賛同出来なかった。あまりにも自分の弟子とは違いすぎる。


 「私の弟子はたった一人の肉親を病から救うために錬金術の教えを乞いに来たわ。

 貴方たちは『覚悟』が大事、と言ったわね。私は大事なのは『信念』だと思うわ。

 何か一つのことをトコトン突き詰めて、研究して、答えを導き出す・・・・・・

 いつ寝ているのかしら? と思えるほどあの子は勉強家。


 図書や研究論文を読み漁って仮説を立てては研究するというプロセスを常人の何倍ものスピードで繰り返す。成功よりも失敗が多いけど、それでも負けない。くじけない。


 その努力はただ一人の肉親のため。


 どう? なかなか泣けるでしょう?」


 マルレーネは自慢げに語った。少し頬が紅くなったのは酒のせいかのかどうかは本人にも分からない。


 「ああ、俺の弟子も家族のために金を稼がなきゃって言ってたな。」

 「なんだぁ? うちの弟子もだな。あいつの妹本当に可愛くてなぁ。」


 妹、というキーワードに何故かマルレーネも反応する。


 「あら、意外と共通点があるのね。」

 「ま、家族愛は最強ってことなんじゃねぇか?」


 身もふたもない話だ。


 「さて、そろそろお開きの時間ね。今日は色々と楽しかったわ。」


 「そうだな。次は『鉄仮面』がSS級冒険者になったときにでも誘うとするぜ。」


 「うちの弟子もそのうち冒険者になっちまうかもしれねぇなぁ。あれだけの時空魔法の使い手だ。引く手あまただろうしな。」


 「フフフ。お互い優秀な弟子を持つと大変ね。でも、私は今日分かったことが一つだけあるわ。」

 「ああ、俺もだ。」

 「奇遇だな。ワシもだ。」


 「「「お前等あなたたちの弟子と俺(私)の弟子を、会わせるわけにはいかない(わ)」」」


 自分の弟子は優秀だが、古き友人たちの弟子もまた物騒な相手らしい。

 まさかはないと信じたいが、それでも君子危うきに近寄らず、という奴だ。


 こうして3人の、実に10年ぶりの再会の宴は気持ちよく終わった。


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