オーガ討伐はじめ
オーガ討伐を受けた三日後、俺と瑞穂は森の最奥に踏み入っていた。
旅の道連れは組合所属の冒険者三人。残念ながら魔法は使えないが経験豊富な戦士たちで、オーガ相手でもある程度なら持ちこたえることはできるらしい。
いざという時には前衛として時間を稼いでもらおうと思っているが、基本的には戦闘に参加せずオーガ出現地域までの道案内と、討伐成功後の荷物持ちとしてついてきてもらっている。
報酬は戦闘なしで二十万ドム、戦闘ありなら山分け――オーガの魔石と素材なら五十万ドムを楽に超えると言われているのでその半分という契約になっている。
三人の手を借りずにオーガに勝ってしまうとたったの二十万しか報酬がもらえないので、それでいいのかと確認したが、道案内と荷物持ちで二十万ドムなら割りのいい仕事らしい。
ちなみに一万~二万ドム払えばそこそこのグレードの宿屋に一泊して食事も食べれるくらいの値段だ。三人組なので生活費一週間分くらいだろう。
うちは瑞穂のお陰でかなり稼げているが、他の冒険者たちはなかなか大変のようだ。
森の奥に進むと狼の姿が減り始め、ゴブリンたちの集団をよく見かけるようなった。
その集団を瑞穂の狐火で順当に処理しながら、ようやく俺たちは目的地に到着した。
◇
「狐火」
若い、いや幼いと言っても間違いじゃない少年がそう呟く度に、虚空に青白い炎が九つ浮かび上がり、魔物に向かって飛んでいく。
ゴブリンなら一発で即死、狼でも二発目で息を止める。
(とんでもないな……)
ギルドマスターからの依頼で引き合わされた魔法使いの少年は、今まで見たことがないほどの凄腕だった。
(炎の矢の魔法でゴブリンを焼き殺す魔法使いの姿は何度か見たこことあるが……九発同時につくって、一発も外すことなく全弾命中させるなんて聞いたことすらないぞ)
一人で森に潜り、狼などの集団型の魔物もあっさりで退治して素材を持ち込んでくるという話を聞いたときは耳を疑ったが。今ならそれが真実だったと言えるだろう。
自分の目で見ても信じられないほどのデタラメな強さだ。
(これだけの戦闘力の持ち主なら、確かに俺らはただの荷物持ちだな)
――森の奥の奥。
いつの間にか形成されていたゴブリンの集落を、一人で襲撃し、殲滅していく少年の姿にもはや言葉も出なかった。
◇
瑞穂が姿を見せると確実に面倒くさいことになる。
そう思ったので三人組の前では幻術で姿を消してもらい、狐火も俺が打っているように見せかけている。
実際にはすぐ隣にいる瑞穂が普通に狐火を使っているのだけなのだが、幸いバレる様子はなかった。
若いのにものすごく強い魔法使い、と勘違いされてしまって熱い視線を向けられているのだが、おじさん冒険者三人組にそんな顔をされてもあまり嬉しくなかった。
背中がむず痒くなるような思いをしながらゴブリンの集落を襲撃し、バタバタと倒れて地面に積み重なっていくゴブリンたちの姿に(後で魔石集めるの大変だ……)と思いながら戦っていたその時。
「グオオオオオオオオオオ!!!」
集落の中心、ひときわ大きな家の中から、身長2メートルを超えるオーガが飛び出してきた。