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チート(天然)

 森の中のある開けた場所で先ほど斃した猪の処理を始める。

 ユイザの町には食肉確保の専門家としてきちんと猟師が存在しているのだが、冒険者も一応動物を狩ることを認められている。毎日動物ばかりを狩っていると組合のおじさんに怒られるそうだが、数日に一匹くらいなら問題はない。

 ちなみに動物と魔物の区別だが、体内に魔石があって人間を見ると襲い掛かってくるのが魔物という分類らしい。魔石も不思議な物質だ。そのうち時間ができたらゆっくり調べてみてもいいかもしれない。


「こん」


 考え事をしながら黙々と手を動かしていたら、瑞穂は小さく鳴いた。

 敵だ。

 解体中の猪の血の匂いを嗅ぎつけて、魔物たちがこの場所にやってきたらしい。


「グルルルル……」


 真っ先に現れたのは灰色の狼たちの群れ。

 鼻が良く足が速いこの狼たちは、獲物を見つけるとあっという間に駆けつけてくる。


「こん」

「きゃいん!」


 そして、姿を見せた次の瞬間には瑞穂の狐火の餌食になるのだ。

 念のために二三発追加で狐火を叩きこまれて死亡した狼たちの死体を集め、処理中の猪の横にぶらさげていく。毎日毎日毛皮を剥いでいるのですっかり慣れてしまった。

 残念ながら狼の肉は食用にできないがその分処理は簡単になる。本当は顔の形に合わせて毛皮が残るように剥ぐと買取値段も上がるのだけど、それをするのは難しいし時間がかかって面倒くさい。なので俺は顔の辺りはばっさりやってしまい、胴体の毛皮部分を丁寧に剥いでいく。


「こん」


 俺が狼相手に苦戦してる途中で、また次のお客さんが訪れたようだ。

 一応そちらの方向を確認してみると、今度の敵はゴブリンだった。

 子供大の野人という感じで顔つきは凶悪。浅黒い肌をしていて大体はすっぽんぽん、オスが多い。

 そんな恰好でこん棒などを手にして襲い掛かってくるのだから、対峙する側としては勘弁してくれと思う。


「こん」


 まあ、このフルチンファイターも瑞穂の狐火一発で倒れるんだけど。

 ゴブリンは毛皮を剥ぐ必要がないので魔石だけ回収する。

 心臓の当たりにナイフで切れ込みを入れ、革の手袋をした手を手首くらいまで突っ込む。骨とか別の硬い感触を覚えたらそれが魔石だ。

 魔石を引っこ抜いた後は適当にその辺に放り投げて終わり。一々穴を掘ったりしていたら日が暮れてしまう。


 猪と狼の毛皮の処理が終わったところで帰還の準備をする。

 普段ならもう少し数を狩っていくのだが、猪の肉が丸まるあるのでこれを持ち帰るだけで一苦労なのだ。

 帰り道で遭遇した魔物も瑞穂の狐火であっさりと撃退し、魔石だけ引っこ抜いて放置。狼の毛皮は高く売れるのだが、持ちきれないので仕方がない。泣く泣く諦めることにした。



「今日は三十万ドムだな。それでいいか?」

「はい、ありがとうございます」


 重かったが猪の肉と狼の毛皮は二十五万ドムで買い取ってもらえた。今日もとても儲かった。懐はホクホクである。


「連日大儲けだな。他の連中もお前くらい使えりゃいいのによ」

「今も森で頑張っているんですからそんなこと言ったら悪いですよ」


 現在の時刻は昼を少し回ったくらい。猪と出会ったのが森の浅いところだったのでいつもより早く帰れたのだ。組合の中を見てもおじさん以外には誰もいない。


「最初はなよなよしたガキだと思ったが大間違いだったぜ。お前ほど稼ぐ奴はこの組合ギルドにゃいねえ。その若さで大したもんだ」

「ありがとうございます。でもどうしたんですか、急にそんなこと言うなんて」


 普段から特に愛想がいいわけでもないおじさんが妙にべた褒めしてくる。悪い気はしないが、少し気持ち悪い。


「……実はな。そんなお前に頼みたい仕事があるんだよ」


 そう思ったら、どうやらさっきの誉め言葉はただの前振りだったらしい。……まあいいけど。


「どんな仕事です?」

「オーガだ。森の奥に出たらしい」

「オーガ……?」


 おじさんの説明によると、オーガという魔物は子供サイズのゴブリンをそのまま2メートルくらいまで大きくして筋骨隆々にした感じらしい。馬鹿力と強固な皮膚が特徴で生半可な剣士じゃ薄皮一枚切れないそうだ。


「オーガは魔法に弱いらしいだが、お前さん、魔法使いだろう? なんとかできないか?」

「……少し考えさせてもらっていいですか?」

「ああ。もちろんだ。人数が欲しいってんなら俺から声をかけてやるし他に条件があるならできる限りはするぜ」

「ありがとうございます。今日中には返事をします。それじゃ」


 オーガ討伐依頼か。お昼を食べたら瑞穂と相談だな。

 ゴブリンくらいなら狐火一発で倒せるし大して危険もないけれど、大型の魔物相手なら狐火がどれだけ効果があるか分からない。

 実験はしたいが瑞穂を危険にさらさせたくないし、どうしたものか……。



 体に力がみなぎる。

 奥底からふつふつと湧き上がる途方もない力が、堰を切ったようにあふれてくる。


 それだけじゃない。とても体が軽い。

 最初は軽すぎて慣れなかったけれど、今なら風のように走れる気がする。


 体中にみなぎる全能感。充足感。

 どんな敵でも、今の私には敵わない。


「瑞穂。オーガ討伐どうする?」


 その問いかけに、当然私は――。

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