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転移前(模擬戦)

・クラス転移

・いじめや復讐要素はない予定

・主人公テイマー、戦闘力低い

・人外ハーレムかも

「瑞穂、狐火!」

「こん!」


 瑞穂の尻尾の先から九つの青白い火の球が出現し、目の前にいる剣士に向かって複雑な軌跡を描きながら飛んでいく。

 この炎は対象の熱や力を奪う性質がある。何発か当てて弱体化を狙うつもりだった。


「温い!!」


 だが、剣士はまっすぐに突っ込んできた。

 狐火が襲い掛かり次々に彼の体に命中していくが、進む速度はわずかたりとも落ちない。どう見ても効果がなかった。


「瑞穂、幻術だ!!」

「こ、こーん!!」


 距離がぐんぐん縮まっているのを見て、慌てて次の指示を出した。

 瑞穂の体が一瞬ブレ、その場に三体の黄金の狐が出現する。

 それぞれがてんでバラバラの方向に走り出し、三方向から剣士に迫っていく。

 それを見て剣士は右手に持った刀を横に掲げ、そっと左手を刀身に添えた。


「……ッ」


 一瞬の精神集中。

 刀身に気が込められ、真っ白な輝きを帯びたのが見える。


「瑞穂、一度離れ――」

「――破ァッ!!!」


 気合一声。

 剣士の発した声とともに剣に込められていた気が衝撃となって周囲に広がる。

 破邪の力の波が三匹の瑞穂たちに襲い掛かり、逃れることも防ぐこともできないまま、あっさりと二つの幻影がかき消された。

 剣士の左手から接近していた瑞穂だけがその場に残ったが、気の衝撃によって体勢を崩してしまい、とっさに動くことができない。


「イヤアアァァァァ――ッ!!!」


 瞬く間に距離を詰めた剣士が大上段に振りかぶり、裂帛の気合をとともに振り下ろす。

 白刃が煌めき――瑞穂が頭上から真っ二つになった。


「瑞穂おおおお!!! ――っ!?」


 急いで駆け寄ろうとしたところ、黄金の毛玉が吹き飛ばされてこちらに飛んできた。地面に墜落する前になんとか滑り込みで受け止める。


「……こ、こぉん……」


 手の中に納まった瑞穂の体を確認してみたが、真っ二つどころ怪我一つしていなかった。目を回してぐったりしているが、それだけだ。


「安心しろ、剣圧を当てただけだ。怪我もしてないだろ?」

「あ、ありがとう、倉田君。うん……大丈夫みたい」

「そうか。なら良かった」


 剣士――クラスメイトの倉田君が刀を収めて歩み寄ってきたので、腕の中の瑞穂の様子を見せた。自分で立つことすらできそうになかったが、切り傷も骨折もない瑞穂の様子に倉田君は満足そうに頷いた。

 その姿には余裕が感じられ、先ほどの戦闘訓練の内容と合わせて俺の気持ちを落ち込ませた。


 あれだけ狐火を放ったのにこれっぽっちもダメージを与えられず、幻術は一瞬で破られ、かすり傷一つ負わせることもできないまま、こちらが怪我をしないように気を使われる始末。

 天と地ほど、大人と子供ほどの力量差。

 同じ一年生なのに、俺たちと倉田君の間にはあまりにも大きな差が存在していた。



 倉田君の次の対戦相手は浅野さん。

 クラスの委員長で使う武器はごく一般的な杖。ほとんどカスタムもされていないスタンダードな代物だ。


「炎の矢、三十本! いっけー!!」

「こおおーーん!!??」


 そんな杖を振るって攻撃魔法を雨あられと使ってくる。

 同じ杖を使っている生徒は他にも何人かいるが、浅野さんのような大量行使を行える生徒はほとんどいない。浅野さんが高い実力を持っているという証だ。


 その後も降り注ぐ攻撃魔法の雨を必死に逃げ回った瑞穂だったが、結局ほとんど反撃もできないまま何本かの魔法の直撃を受けてダウンしてしまった。完敗である。



 次の対戦相手は阿部君。


「銀虎招来!!」

「グオオオオオオオオオオ!!!!」


 懐から出した銀色の札を途端、札が大きな虎に変化した。式を使ったのだ。


「行け!」

「グオオオオオオオ!!」

「瑞穂、負けるな!」

「こおおおおおおん!!」


 こちらは九尾の狐の瑞穂。あちらは式で作り出した銀虎。二匹の獣が前に進み出る。

 瑞穂の大きさは普通の狐より少し大きい程度。体長1メートルくらい。

 対する銀虎はパッと見ただけでも瑞穂の倍は大きい。肉付きや胴の太さも考えると体重差は十倍近くあるかもしれない。

 肉弾戦は明らかに不利なので、中距離から狐火と幻術を使ってじっくりと戦う方がいいだろう。

 そう思い瑞穂に指示を出し狐火を放ったのだが、銀虎に当たった途端、弾かれた様に消えてしまった。


「無駄だよ山本君。この子には魔法無効化フィルム加工が施されているんだ。その程度の攻撃じゃいくら当てても効果はないよ」

「何それずるい!? ――くそっ、瑞穂、なら幻術だ!」

「こ、こおおん!!」


 攻撃魔法が無効されるなら幻術で相手を翻弄するしかない――。


「無駄無駄、視覚センサー以外の各種センサー内臓型さ。五感六感を完全に狂わせるくらいの幻術じゃないと効かないよ」

「それ卑怯じゃない!? ねえ!?」

「はっはっは、うちの新製品で来月から発売予定だから気に入ったら購入してみてくれよ。――さ、銀虎。勝負を決めろ。なるべく怪我はさせるなよ?」

「グオオオオオオオ!!」

「こ、こぉーん……!!」


 狐火、幻術が効かないだけで飽き足らず、身体能力すら敵わない銀虎相手に瑞穂は数分は粘ったが、その後あえなく巨体にのしかかられて身動きできなくされてしまった……。完封負けである。


 ◇


 その後も他のクラスメイトとの総当たり戦が行われたのだが、ボロボロになるまで頑張ったけれど、残念ながら瑞穂は一度も勝つことができなかった。

 相性次第で勝ったり負けたりしている生徒がほとんどだったので、俺と瑞穂はぶっちぎりの最下位ということになる。


「九尾の狐ってあの程度なのか。伝説の大妖怪だって聞いてたけど、結局ただの昔話だったってことか」


 金毛白面、九尾の狐。

 美女に化けて朝廷に潜り込み、時の帝を誑かし、正体がバレれば日本中の退魔師を相手に互角の争いを行った、歴史上でも五指に数えられるほどの大妖怪。

 千年ぶりに誕生したその九尾の狐である瑞穂は、学校のみんなから看板倒れの雑魚妖怪と囁かれながら、俺の膝の上で丸くなって寝息を立てていた。

 瑞穂がまだ生まれてから十数年しか経っていないということを差し引いたとしても――。


 ――日本の退魔技術の進歩、凄すぎるだろ……。

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