ep 5
その日の放課後は、先輩と二人で別館の校舎の四階にある文芸部の部室で過ごした。
そして休みの日、つまり叔父さんとアスと走りに行く日。
俺の家の近所のスーパーの駐車場で待ち合わせ。
ここでおそらく補給食なんかを買っていくためだ。
約束の時間少し前の到着。
二人はもう来ていた。
久し振りに見る叔父さんは見事にサイクルジャージの腹の部分が見事に盛り上がっていた。
この冬は全然走っていないな。
せっかくのオーダーメイドのチタンバイクでスーレコ、そして手組のホイールなのに勿体ないと思うと同時に、秋にあんなことがあったんだから走る気にならなかったも無理ないよなと思ってしまう。
一方のアスは。
こちらも上下ともにサイクルウェア、そしてこっちのバイクはカーボン製で105のコンポ、ホイールはフルクラム。
正直かなり、羨ましい。
思わず見とれてしまう。
「竜ちゃんのエッチ、私のこと見てたでしょ」
いや、見てたのはお前のロードバイク。それにお前のその姿なんか見慣れているよ。
先輩と違って、上も下も見事なまでに肉が付いていなだろ。
まあ、自転車乗りらしい体型だけど、そんな体に欲情する趣味なんか持ち合わせていない。
ついでに言わせてもらうと、恥ずかしいと思うならサイクルスカートを穿けよ。
まあ、思うだけで言わないけど。
言ったら、その後で何倍もの言葉が返ってきてしまうから。
「今日は西に行くの?」
ここに集合する時は大抵西にある峠を目指す。
「いや、今日は東方面へ。久し振りの走りだから登りはちょっと……」
たしかにそのお腹だとちょっと、いやかなり厳しいかも。
「私は峠に行きたかったんだけどな。やっと交通規制が解除されたから」
やや不貞腐れたような口調でアスが。
「まあ、そう言うなよ。久し振りに走るんだから勘弁してくれよ」
「俺は別に異論はないけど」
ロードバイクも体重も軽いアスに付いて行くのは正直至難の業だ。
「それじゃ、俺が先頭走るから。お前らのペースに合わせたら、すぐに息切れしそうなんでな」
そう言いながら叔父さんはペダルを嵌める。
アスも同じように。
カチッという音を聞いて正直羨ましくなり、俺もロード用のシューズが欲しくなってしまうけど、それよりも先に陸上のスパイクを買わないと。
先頭叔父さん、真ん中にアス、そして俺が殿。川沿いのサイクリングロードを進み、国道一号線へ。
片道二車線+自転車用の道が整備された国道一号線を東へ。
昔は走り難い橋が架かっていたらしいけど、今はそんなことない新しい橋を越えて県外へ。
昔よく連れて行ったもらった担々麺屋を過ぎて、なおも走る。
あれ、つい最近この店にロードバイクで来たような気が。
気のせいだよな。
叔父さん同様に、俺もこの冬は一応受験勉強のためロードバイクで走ることは自重していたからな。
昼前に、叔父さんの脚が悲鳴を上げて引き返すことに。
アスはまだ走りたそうにしていたけど。
帰りにあの担々麺屋でちょっと遅めの昼食を。
また橋を渡り、行き来た道を戻ってくる。そのまま帰宅、とはいかなかった。
叔父さんが俺に渡すとかいう代物を取りに、二人と一緒に高校近くに叔父さんの家へ。
一緒に持って来てくれれば良かったのにと思うが、いまさら言っても仕方がない。
俺らの生まれる前の改装した家らしい。以前は大きな農家だったらしいし、土地も田畑も広く、その上山もいくつか所有していたとか。
それをいくつか売り払ったとか言っていたような。
こじんまりとしたと言っているけど、今でも普通の家に比べれば十分に広い。
渡すと言われた代物を受け取って、すぐに退散……なんてことはしない。
この家には昔からお世話になっているし。
まずはアスの祖父母に挨拶をして、それから仏間へと。
お線香を上げてから手を合わせる。
ここには凄くお世話になった人の位牌がある。
それは叔父さんの奥さんで、アスの母親であり、そして俺にとって叔母さん。
去年の秋に突然亡くなった。
もともと病弱で、大きな手術の経験もあったらしい。それでも俺の知る限りでは普通に過ごしていたはずなのに、突然倒れてそのまま帰らぬ人に。
すごく悲しかった。
この人が言ってくれなかったら、もしかしたら俺の腰はまだ故障中で、高校でも走れなかった可能性もある。
アスに言わせると「娘の私よりも、ママってば竜ちゃんを可愛がってたわよね」。
そうかな……。
でもまあ、小さい頃から可愛がってはもらっていたな。
ともかく手を合わせてから、叔父さんが一通の手紙を俺に。
「これ?」
「ああ、アイツに物を整理していたら、お前宛の手紙が見つかったから。中身は見てないぞ」
その後しばらく滞在して、その後手紙を持って帰宅した。




