ep 3
俺のスマホには連絡は来ていなかった。
まあ、よく考えてみれば先輩は普段は文章を書くくせに、こういう時は文字ではなく直接声を聞いて話したいという人だからな。
次の休み時間に俺から先輩にところへと出向くとしようか。ああ、でも先輩のことだ。向うもコッチに来て入れ違いになる可能性もあるな。
どうしよう?
授業をそっちのけで考えてしまう。
思考がそのうち逸れていく。
いつの間にか、俺は思い出せない夢のことを。
そんなことに頭を悩ます必要なんかないのに、それよりも目の前で行われている授業をちゃんと聞いていないといけないのに、よそ事の思考を。
何で思い出せないんだ?
いや、それよりもどうしてこんなに気になるんだ? これまでだって思い出せない夢なんて数限りないくらいあったはずなのに。
……うーん。
長い黒髪のセーラー服の少女の姿が唐突に俺の頭の中に浮かび上がってくる。
何だ、今の?
何でそんなものがいきなり脳内に出てきたのか? もしかして思い出せない夢に関係することなのか?
思考がまたシフトする。
そうこうしているうちに一時限目の終了を告げるチャイムが。
予想通り、先輩がやって来た。
この前俺と一緒に選んだ赤いフレームのメガネに、去年の秋からの伸ばしている髪、それから薄く塗っているピンクのリップ。
客観的に見て可愛いよな。
それに制服に隠れて分かりにくいけど、先輩の下半身はムチムチしていて触ると気持ち良いし。けど、上半身は華奢。でも、ちょっとは胸もあるし。
それはともかく、一見クールそうに見えて意外とドジっ子だし、年下で阿呆な俺に合わせてくれて、俺の少し無茶なお願いも聞いてくれるような優しい性格なのに。
ある意味理想の彼女なのに、どうして好きという明確な感情が俺の中に出てこないのか。
自分のことながら疑問だ。
またも頭を悩ませている俺の耳に、
「竜ちゃん、文芸部の活動はしないってどういうことなのよ」
という、少々怒りの混じった声が。
この声は先輩の声じゃない。
どうやら先輩は一人で来たようじゃなかった。余計なのまで連れてきたみたいだった。
声の主を見る。
見た瞬間。さっき唐突に頭の中に浮かんできたセーラー服の少女と、声の主が重なったような気がした。




