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ep 2


 このままじゃ一時限目の授業をうけられない。

 早弁でもするか。いや待てよ。そうなると今度は昼には絶対に腹が減るはず。急いで出てきたから財布を忘れてきた。これじゃ購買でパンも買えない。

 我慢すべきなのか。

 けど、このままじゃ絶対に体に悪い。

 空腹であまり動かない頭をフル回転させる。

 ああ、これも良くないんだよな。でも、背に腹は代えられないし。

「竜ちゃん、これ食べる?」

 聞き覚えある声が耳元で。首を少し動かして見ると、そこには見知った顔とブロック形状の補給食が。

「食べる」

 間髪入れずに答えると、ひったくるように補給食を奪い取り素早く封を切り口の中に放り込む。その間わずか数秒。

 満腹には程遠いけど、少しは回復したような気が、元気になったような気が。本当はこんなにも早く効果なんか出ないけど、そこはまあプラシボーなんとかというやつで。

「ありがとな、悠」

礼を言う。

 コイツは八木悠。俺の幼馴染。産まれた頃から結構に頻繁に顔を合わせている間柄。かといって別に近所というわけではない。なのに、どうして顔馴染みかというと母親同士が学生の頃から付き合いらしい。その縁で幼いころはよく遊んでいた。小学校は別だが、中学は悠の一家が俺の家のある近所に家を建て引越してきたから一緒。

 それにしてもあいかわらず地味だな。お前はもう少し自己主張をするようなメイクでもしたらどうだ。土台は良いんだから、そうすればモテるようになると思うんだけど。後、スカートも長いし。

 まあ、言いたいことはあるけど、これは胸の中に収めておく。口に出したら少し機嫌が悪くなるからな。

「どういたしまして。……寝坊でもしたの?」

 細い自己主張のあまりない声。

「……うん、まあな。……それよりもよくこんなの持っていたな」

 補給食は悠に必要のないはずなのに。それに味も好きなものじゃないはずだし。

「あ、うん、……えーっと、……前に間違って買っちゃったんだ」

 それなら理解できる。中学の時悠は陸上部のマネージャーだった。その時この手の類のものを常に持ち歩いて部員に配っていた。

「ふーん、そうか。ああ、そういえばお前高校でも陸上部のマネージャーするの?」

「うん、だって竜ちゃんも入るんでしょ、腰も治ったし」

 自分で言うのもなんだが、俺は中距離の有望な選手で有力校に推薦を狙えるくらいの実力だったに、中二の冬に突然腰が痛みだして走れなくなった。

 普通ならその時点で自暴自棄になり、荒れてしまっていたのだろうが、俺はそうはならなかった。

 その理由は、ある人に根気よく治療をすることを勧められたから。

 俺はそれに素直に従い治療に専念し、再び走ることが可能に。

 中学ではダメだったけど、高校ではそのリベンジをと密かに燃えている。

 けど、まだちゃんと決めていない。

 それにしても、悠も陸上部に入るのか。

 あ、でも俺が入部しないと悠も入らないのか? 

「なあなあ、お前たちって付き合ってんの?」

 俺と悠の会話に突如乱入者が。話しかけてきたのは後ろ席の大道。

「いや、別に」

 悠が何か言いたそうな顔をしているけど無視して答える。

「そうか仲良さそうにみえたから」

 まあ、幼馴染で仲が良いのは否定しない。けど、付き合ってはいない。

 俺が付き合っているのは、というかあの関係を付き合っているのというのかどうか分からないけど、高校の先輩。

 去年の夏から受験勉強の面倒を見てもらった。

 そしてその秋、ちょっと嫌なことがおき、それを解消するためにかどうか自分でもよく憶えていなけど、部屋で二人きりになった先輩を襲ってしまった。

 普通なら許されるべきことじゃないけど、先輩は俺を許してくれた。

 それだけじゃなく、それ以降も何度も。

 時には大人しい先輩から求められるようなこともあった。

 するだけの関係じゃなく、何回かデートのようなこともした。

 世間一般ではこれは付き合っているといっても可笑しくはないはず今一実感が。

 というのも、好きという感覚があんまり理解できない。

 経験はしたけど、もしかしたら初恋はまだなのかもしれない。

 チャイムが鳴る。もうすぐ一時限目の授業が始まる。

「もう行くね。あっ、もう一つあるけど食べる?」

「ああ、」

 マシにはなったけど、180キロカロリー程度ではもの足りないのは事実。

「あ、そうだ。朝ね、先輩が教室に来たの。竜ちゃんに用があるみたいだったけど」

 そう言うと悠が自分の席へと帰っていく。と、クラスのヤツにぶつかりそうになる。いいから俺のほうを見ないで、しっかり前を見て歩け。

 お前は結構ドジなんだから。

 それはともかく、先輩は俺に一体何の用だったんだろう。

 わざわざ来なくてもスマホに連絡を入れてくればいいのに。

 ああ、でも朝のあのドタバタでは入っていても気が付かないか。



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