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 俺のしようとしているのは、響子を井戸に連れていくこと。

 響子はその井戸で祈ったか、願ったのか分からいけど、それで幽霊になったらしい。

 もしかしたらそこに行けば、何か他にも思い出すことがあるかもしれない。

 そう考えた。

 しかし、即実行というわけにはいかない。

 昨日の響子お父さんの話では、その井戸は先祖代々の秘密らしい。

 そんな場所に、部外者である俺足を踏み入れてもいいのだろうか?

 目が覚めてから響子のお父さんに許可を。

 もしかしらたら、いやもしかしなくても断られてしまうのではないのかと危惧が俺に中にあった。

 何せ、一族が代々伝え守ってきた井戸。

 そう思っていたのに、あっさりと承諾を得ることが。

「何年生きられるか分かりません。私が逝ったら、秘密を守る者はいませんから。少しくらい早くなっても構わないでしょう」

 言葉だけではなく、地図まで書いてもらう。

 二日酔いの叔父さんを置いて、俺は響子と共に件の井戸を目指した。

 手書きの簡易的な地図だったけど、大体の場所は把握できた。

 それにしても俺が通学で使用してるあの道の傍だったとは。

 しかも、高校から見える位置。

 まさに灯台下暗し、でいいのだろうか。

 まあ、ともかく井戸のある山に下にまでは一応来たことに。

 一応という言葉を使用したのは、周囲は全て似たような竹山でどれが響子の家に山かは地図では判別できない。

 もう少し詳しく聞いておいたほうが良かったか。

 それとも一度戻って詳しく聞いた方がいいのか。

 判断に迷う。

「こっちだよ」

迷っている俺の耳に響子の声が。

「分かるのか?」

「うん、分かるよ。だって来たことあるもん」

 そうだよな。お前はここに来ているんだよな。だからこそ、幽霊になった。

「それじゃ、案内してくれ」

「了解」

 

 響子が先を飛んで、俺が後に続く。

 物理的な制約を一切に受けない響子は軽々と山の中を進んでいく。

 一方俺はというと、苦労の連続。

 道なき道を歩くだけでも大変なのに、至る所から生えている竹が行く手を遮る。 

 伸び放題の竹を押しやり、へし折り、前進。

 しかしまあ全然手入れがされていないな。

 けど、考えてみればそれは当然かもしれない。高齢で山を管理するのは大変だ。

 竹だけではなく、地形までもが行方を遮ってくる。

 崖とまでは言わないが、結構な急斜面。

 スニーカーで登ろうとすると足が滑る。

 ああくそ、家に戻って滑りにくいトレッキングシューズを履いてこようか。

 そんなことを考えながらも、生えている竹を利用して斜面を登る。

 なんとか、登り切った。

 高校からはそんなに高い山は見えない。

 これだけ登れば、きっと井戸まではあと少しだろう。

 そんなことを考えながら響子の後姿を追うと、

「「あれ?」」

 俺と響子の口から同時に同じ言葉が出る。

 それもそのはず、たった今まで山を中にいたはずなのに、いつの間にか元の、俺が普段通学に使用している道路に。

 何でだ?

 どうして、ここに戻ってきたんだ?

「響子、お前は井戸のある場所を知っているんじゃないのか?」

「知っているよ。だから竜ちゃんを案内しようしたんだけど……」

「だったら、どうして元の場所に戻ってくるんだ」

「分かんないよ」

 部外者である俺を侵入させないために、何かしらの力が働き、阻害したのか。

 いや、そんなオカルト的なことなんか起こるはずない。

 とも言い切れないな。なんせ、響子という実例がある。

 幽霊が俺に憑いているんだ。

「……よし、もう一度行くぞ」

「行くの?」

「ああ、行く。お前を井戸のところまで連れていく」

 そう意気込んで言ったものの、その後何度行っても元の場所に。

 普通ならば、そこで意気消沈、諦めてしまうのだろうが、そんな気持ちに全然ならない。

「もういいよ。今日は帰ろ。服ドロドロだし、また出直そうよ」

 響子がそんなことを言って計画を中止にしようと進言するけど、これ以上汚れたところでもう大差なんかない。

 それよりも絶対に。

 苔の一念岩をも通す、じゃないけど絶対に響子を件の井戸まで連れていく、その一念で、そう強く願い、想いながら、竹をかき分けで、草木をなぎ倒して山の中へと。

 不意に、誰かに呼ばれているような気がした。

 呼ばれた方へと、山を下る。

 急に目の前の景色が変わった。

 少し開けた静かな場所へと辿り着いた。



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