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ドタバタという言葉がピッタリの音が続けて二階から。
と、思った瞬間移動する。今度はすごい勢いで階段を下りる音に。
「この音お母さんかな。年なんだから無理しないほうがいいのに」
一応シリアスな場面のはずなのに、軽い口調で響子が言う。
音は段々と、俺達のいる仏間へと近付いてくる。
俺の後ろの襖が勢いよく開いた。
音の主は響子の予想通りだった。
見事に当てたことに感心するけど、それよりももっと関心すべきことが。
響子のお母さんは、左右の手にそれぞれデザインとサイズが違うセーラー服を持っていた。そんな状態でよく襖を開けられるものだ。
「どうしたんだ一体?」
「アナタ、これ」
「中学校と高校の制服だろ。それがどうしたんだ?」
「あの子の、響子の部屋のタンスの奥に入っていたんですよ」
「響子が生きていたら着ていたかもしれないと思った、買った物だろ」
「違うんです」
「何が違うんだ」
年老いた夫婦が俺を挟んで会話を。
こんな状況でどうしたらいいのか、さっぱり分からない。
「あの子はこれを着ていたんですよ」
「何を馬鹿なことを言ってるんだ。そんなはずはないだろ、あの子は小学生で
この世を去ったんだ」
「……着ていたんですよ。スカートの丈を直した跡が。それに擦れて薄くなった個所を修繕した跡も」
そう言って制服のスカートを見せてくる。
「やだもう、そんな場所を広げて見せないでよ」
響子が言う。
おそらく位置的に考え、お尻の辺りだろうと想像したけど、どうやら正解みたいだ。
けど、そんなことよりもよくこの状況で、そんなこと言えるな。
「そんなはずはない。……買ったのは勘違いで、誰かから譲り受けたんだ。……そうに違いない」
響子のお父さんの声が大きくなる。
「でも、ここにほら、響子の、あの子名前が」
名前の書かれた位置を見せながら言う。
平行線といった感じだ。
「……お父さん、お母さん」
小さく響子の声が漏れ出た。
このままいつ終わるのか分からないやり取りを聞いていなくちゃいけないか。
……あ、そうだ。
なんで今まで忘れていたんだ。
「響子祈れ。お前の両親に姿が見えるように」
「あ、そうか」
俺の言葉を聞いて、響子は胸の前でギュッと手を握り、目を閉じて祈る。
俺も一緒に心の中で祈る。
響子両親が、響子の姿が見えますように、と。
俺を挟んでの響子の両親のやり取りの声が止まった。
そして、ほんの少し間を空けてから、
「響子」「響子ちゃん」
同時に声が。
どうやら見えることに成功したみたいだった。
良かったと思った瞬間、
「見えなくなった」
「響子が消えてしまった」
落胆した声に。
俺には依然響子の姿がハッキリと見えるけど、響子の両親にはまた見えなくなってしまったようだ。
なんでだ? 叔父さんの時にはこれでずっと目に映るようになったし、声も聞こえ会話もできるようになったのに。
祈りが、願い方が弱かったのか。
「もう一度」と、響子の言おうとしたら、突然響子の両親に手を両手で強く握られる。
「……ありがとうございます。もう一度あの子に会わせてくれて」
「成長した響子の姿が見られるなんて」
泣きながら俺を言われる。
こんなことは生まれて今まで経験したことがない。目の上の人が涙を流している姿を目の当りにするだけでもないことなに、さらにお礼言葉を言われるなんて。
この仏間に入ってから、もう何度目だか分からない戸惑いが。
「響子は君に憑いているんだったよね」
「ええ……はい」
「君に響子の声は聞こえるのか?」
「ええ、まあ」
煩いくらいに聞こえます。
「あの子の言葉を私達に伝えてくれないか」
さっきまでも強かったけど、それよりも強く手を握られ懇願された。




