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これは、嫉妬だ。
再会を喜び合っている二人の姿を見ているのが心苦しい。
どうしてこんな気持ちを懐いてしまったのだろう、二人の時を経てからの再会は本当に喜ばしいことのはずなのに。
なのに、俺に見せないような笑顔になっている響子の顔を見ているのが辛かった。
隣に部屋へと、マンガが大量に、というか叔父さんの趣味の部屋に入る。
壁越しに楽しそうな会話が聞こえてくる。
聞きたくなかった。
耳を塞いでしまいたい。
あんなことを言わなければ良かったかもと後悔も。見えるようならなければ、こんな正体不明の嫉妬に苛まれるなんてことはなかったはずなのに。
どうしてこんな気持ちになっているんだ?
自分のことなのに訳が分からない。
腹立たしい気分を紛らわすために周囲の物に当たり散らしてみようかと思った。そうしたらこの自分の中に巣くっている原因不明の嫉妬も綺麗に消えてなくなり、すっきりした晴れやかな気分になるかもしれない。
止めた。
ここは俺の部屋じゃない、叔父さんの部屋。
そういえばガキの頃、叔父さんの造ったガンプラを勝手に持ち出して遊んで、その結果壊してしまい、しこたま怒られた苦い記憶が蘇ってくる。
一時的には解消されるかもしれないけど、その後が大変だ。
止めたけど、一時の感情にとらわれて振り上げた右足を下ろす。
足元にマンガ本が見えた。
悠のやつ、出しっぱなしで片付けもしないで行きやがったな。
目に入ったのは古い少女マンガだった。取り上げて本棚へ。
……分かった。
……今まで全然気が付いていなかったけど。
俺はいつの間にか響子に恋をしていたんだ。
だから、あんな嫉妬が。
生まれてこのかた、恋なんてしたことがない。そんな感情とは無縁で生きていた。
そんな感情なんか知らなくても平気で生きていけたし、それに性行為だって、セックスだってしてきたし。
本当に楽しそうな会話が耳に。
響子は俺に憑いている。俺が帰れば、響子も自然と俺についてくる。
帰ってしまおうかと考えた。
そうすれば楽しそうな会話をこれ以上聞かなくてもすむし、嫉妬も収まるはずだ。
……できっこない、そんなこと。
実行すれば確実に響子に嫌われてしまいそうな気がするし、それに何よりも俺には見せたことのないような表情をしているのにそれを曇らせてしまうのは……。
だけど、このままでいるのは精神状態に大変悪い。
しかし……。
……決めた。
俺は再び、二人の居るリビングへと舞い戻った。
「今日はこのまま泊まっていくから」
そう宣言する。
「竜ちゃん」
「だから、二人は久しぶりの再会を楽しんでください」
そう言い残して、またも趣味の部屋へ。
そう、俺さえ我慢すれば二人は楽しい時間を過ごせるんだ。
勝手知ったる叔父さんの家。勝手に布団を敷き潜り込む。
布団を頭からかぶって全ての音を遮断した。
にもかかわらず、楽しそうな雰囲気が壁と布団を越えて俺にまで伝わってくる。
眠りたい。
そうすれば、こんな気持ちをいつまでも感じていることないのに。
それなのに俺の意思とは反して体は全然眠りにつこうとしない。その反対に段々と眼が冴えていくような気さえする。
気のせいじゃなかった。
結局俺は朝まで一睡もすることなく布団の中で過ごした。




