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 この説明をするのがとかく面倒で、さらに難しかった。

 上手い人ならば、簡潔に、さらには時間もあまりとらずに詳細に話すことができたかもしれないけど、生憎俺にはその才能がない。

 それでなくても自分のことを思い出してくれた叔父さんに響子が絶えず話しかけよとする。しかし、響子の声は俺と悠にしか聞こえない。ということで、俺が通訳になることに。気持ちは分かるけど、これでさらに進まない。それでも先輩がフォローしてくれてなんとか進展させようとしたけど、時折悠が話の腰を折ったりして、お前はそんなことをしないで俺の代わりに響子の通訳に徹してくれればいいのに。

 結局、学校から俺に憑く対象が代わり、それによって校外に出ることが可能になったところまで説明するのに夕方近くまで時間がかかってしまった。

 昼過ぎに来たというのに。

 そこで悠と先輩には帰ってもらうことに。 

 本音を言えば、悠はともかく先輩には居てもらいたいと思った。俺一人で説明をするのは心許ないから。

 それでも暗くなる前に女子二人を帰宅させるという叔父さんの判断は間違いないはず。

 二人を見送りに行きつつ、コンビニで夕ご飯を購入して、再び説明を。

 が、上手くいかない。

 ああ、俺じゃなくて響子が代わりに話せればいいのに。

 それか、見えるようになるか。

「……そうだ」

「どうした竜?」

「……強く願え」

「はあー、何を言っているんだ? って、俺じゃなくて高井さんに言ったのか」

 俺の視線の先を見て、自分に向けられた言葉じゃないと叔父さんは悟る。

「願うって、何を?」

 キョトンとした顔で響子が俺を見ている。

「強く願ったから、お前は俺に憑くことができたんだろ。だったら、今度は叔父さんと話したいと願ったらそれが可能になるんじゃないのか」

「そっか、やってみる」

 だけど、あの時は響子だけが強く願ったわけじゃない。

「叔父さんも一緒に」

「俺もか?」

 ちょっとだけ引いたような顔をしながら叔父さんは言う。

「そう一緒に」

 校門の前で俺も一緒になって願った、祈った。

 だからこそ、響子は外へと出られた、俺に憑くことができた、そう信じている。

「まあ、そんなに言うならやってみるか」

 俺も一緒に強く願う。

 必要ないかもしれないけど、一緒に願わずにはいられないような心境だった。

 どのくらいに時間を願い続けていたか分からない。

「……ねえ、これで大丈夫かな」

 静かだった空間に響子の声が。

 この声は俺には聞こえる。しかし、叔父さんにはどうか?

 期待と不安が入り混じった中、閉じていた目を開けて叔父さんを見る。

「……高井さんがいる。……本当だったんだ……お前たちが俺を担いでいたわけじゃないんだな」

「見えるの?」

「ああ、記憶の中の高井さんよりも若いけど、確かに高井さんだ」

 成功だ。

「大島くん」

 想いが叶ったことに感極まったのか、響子が叔父さんの胸をめがけて飛び込んでいく。

 俺に憑いて外に出た時以上の喜びだな。

 シュールな光景が。

 幽霊である響子は触れることができない。叔父さんの大きな体を素通りしてしまう。

 それでもなお、嬉しそうだ。

 こんな響子の顔はこれまで見たことがない。

 ずっと一緒にいる俺にではなく、叔父さんに見せる表情。

「ほんとに、本当に見えるの? 私のこと?」

「見えている、ちゃんと見えているよ」

 再会を喜び合っている二人を残して俺はリビングを出た。

 俺がいるのは野暮だと思う。

 それともう一つ、嫉妬が俺の中で芽生えていたから。

 このままずっとここにいたら、その感情に押しつぶされてしまいそうな気がしたから。



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